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異世界病者の灰を踏む  作者: けものさん
第三章『メン・イン・マジック』
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幕間の三『幕開きつつある心と力』

 たった一日や二日程度の滞在なのに、良い事なんてそう多く無いのに、この世界に並ぶビルというよりも廃ビル、灰ビルなんて呼んでも良いくらいの場所なのに、どうしてか拠点の部屋に戻ると心がホッとする。

「た、ただいまです……」

「おかえりー! シャワー浴びなきゃー」

 俺と春が並んで部屋へと入ると、汗をタオルで拭きながら一足先に戻っていた朝日がまるで俺達の帰還のシーンをちゃんとやり直そうと言わんばかりに両手を振る。思えば部屋にはある程度の衣服も転がっている。日常品や着られそうな物はある程度集めて置いたのだろう。俺の外套については特殊加工が成されていると聞いたが、朝日は初日に見た時からオシャレさんだなと言わんばかりに見栄えに気を使っている。

 部屋の端にあるのはおそらく朝日スペースなのだろう。丁寧に衣服が畳まれていたり、ポシェットなんかが置いてある。とはいえ当人が後ろを向いているとしてもあまり見ないのがマナーかと思い、俺は元々言わんとしていた本題に移った。


「で、結局誰が企んだんだ」

 茶番と呼ぶには余りにも度が過ぎる力試し。決して悪い物では無かったが、それでも意地悪だなとは思っていた。この場で灰を見せるだけでも良かっただろうに。

「ワシ以外におると思うか?」

 さぞゆっくりしたのだろう、ツヤツヤの髪にスッキリとした顔でフィリが笑っていた。俺達がいない間に何かあるという事は無かったようで安心する。というよりも少し見た目がふっくらしたというか、背が伸びたようにすら思える。一日二日で何をと思うが、失った分の成長でも取り戻しているように思えた。

 仕掛け屋は隣で「止めちゃあしたんだけどねぇ……」という見え見えの嘘を吐いていた。

「嘘は良くないなー、仕掛け屋さん!」

 バレるのまで分かっていて言っていたのだろう。仕掛け屋は朝日の声に肩を竦めて笑っている。

「じゃっ、私はシャワー浴びてくる!」

 彼女は部屋の隅からゴソゴソと何かしらを漁ってから、シャワー室の方へと向かっていった。


――あぁ、こういうのが良いわけだ。


 心がホッとした理由を噛み締めて、俺はふんぞり返っているフィリを眺める。

「で、どうだった? "お嬢"」

「ま、合格じゃの……皮肉な話じゃがな」

 俺と朝日の攻防をフィリと仕掛け屋は部屋の窓越しに、春は間近で見ていたわけだが、思惑通りに俺は今出せる大体の本気を見せていた。

「見りゃ分かっただろうけど、色格は灰だってさ」

 俺は誰か……というよりも確実に朝日あたりが掃除したであろう廊下に捨てられている天使長の灰を吸い寄せて灰刀を作った。

「……知らん魔法じゃな。とはいえ知っても隠されとったじゃろうが。しかしまた皮肉じゃな、灰になった灰が手に持たれとるわ」

 クク、とフィリが笑う。確かに、この灰は元々灰だった。といえば変な話だ。俺にも出来るのだろうかと考えたが、灰から人を作るイメージはどうしても湧かなかった。やはりそれは一種の能力のような物なのだろう。俺はその灰刀を廊下に向かって投げると、それは壁に穴を開けた跡、その穴だけを残して消えた。

「上手く使えりゃいいんだけどな。これで刻景だけよりはまだ、戦えるだろ」


――灰針ハイバリ


 針をイメージすると、穴を開けて床に落ちた灰が勢い良くその場で天井を貫く。


「よござんすもよござんすじゃねえか……で、獲物は?」

 仕掛け屋の目が俺の腰あたりに映る。怒気は無い。まだ無い。

「あっ、そういえば……」

 ずっと一緒にいた春が不思議そうに俺の腰あたりを見ている。セーレに盗まれ、俺が元々持っていた武器はもうハンドガンとショットガン一挺ずつになっている。

それも、あえて傷つくだろうと思い言わずにはいたが、ラハルとしての自我を持っている頃の春がしっかりとセーレに『ラハル』と言われた時の怒り業火によって燃やし尽くされている。つまりはもう無い。

「悪い……最中にな……」

「でも、奪われはしましたけれど……」

 春自身が燃やし尽くしたという記憶は今の所しっかりと封印されているようだった。

「……壊されたんだよ。あの戦いの最中なら、見逃しても仕方ないさ」

 俺は悪魔セーレとの戦いの話を簡単に説明すると、フィリは鼻で笑う。

「盗人がおったわけじゃな。しかしまぁ、灰は掴めんかったじゃろ」

 フィリが俺の言わんとした事を正しく理解してくれてありがたいが、仕掛け屋は何かを考えているようで、春は難しそうな顔をしていた。


――ラハルの事は、言うべきではない。

 背負って欲しいと言われた。ならば背負うべきは俺だ。

ならば仕掛け屋には悪いが、俺のミスとして伝えておいた方が良い。

「気に入っていたし、凄く助かったのは事実だけれど、悪い」

「まぁ、構わんさ。形ある物はいつか壊れるってぇのが道理だ。それに今の獲物の方が、似合ってる。葛籠抜の兄ちゃんが思いつく限り、仕掛けも作れそうだしな」

 そんな話をしていると、シャワーから上がった朝日が「なになにー? どしたのー?」と髪をグシグシとタオルで拭きながら俺達の元へと戻ってきた。膝丈までのジーンズと、白地に緑色の装飾が入ったシャツが彼女の何処とこない天真爛漫さを醸し出しているように見えた。


――思えば朝日も随分と砕けてくれた。


 互いの境遇を話したせいかもしれない。むしろ最初に出会った頃は多少猫をかぶっていたという事もあるのだろう、いつの間にか響程ラフで適当では無いものの、そこそこ気安い性格が見え隠れするようになっていた。

「それで、デートはどうだったの?」

 朝日が春の一張羅を見ながら少しだけ頬を膨らませている。

「デートって……俺と外であれだけやりあったんだ。そんな生易しいもんじゃなかったって」

「それでも春ちゃんはオシャレしてるじゃんかー。ズルいぞー」

 そういって朝日は春を後ろから軽く抱きしめる。春は困った顔をしながらも嬉しそうにしていた。

「だからほら、お土産」

 俺はポケットにしまっていたヘアピンを朝日に渡す。

そうして向日葵の種コーヒーをパッケージごと仕掛け屋に投げた。

「わっ、本当にちょっと格好良い感じの事してくる!」

 朝日は俺から受け取った発色の良い青と薄い黒い四角形の装飾がついたヘアピンと俺の顔を何度見もしている。

 仕掛け屋は何とも言えない顔でそのパッケージを見てから「ありがとよ!」とややぶっきらぼうに言う、それに春が少し笑ったのを俺は見逃さなかった。

「なんじゃ、ワシには無いのか?」

 今まで偉そうにしていたフィリが少しだけ表情を曇らせる。それを見ているのも少しだけ面白い気がしたが、春が彼女の為に選んだ帽子を握りしめているのを見て、帽子を持つ彼女の手にそっと手を伸ばす。春は一瞬俺の目を見て、俺が意地悪そうに笑ってるのを見て、微笑んでその帽子を渡してくれた。

「お前にはコイツだ!」

 トン、トンと床を跳ねるように俺はフィリに近づき、少し驚いている彼女の頭を撫でるようにそっと、キャスケット帽を被らせた。服装の白いワンピースと、黒のコントラストが似合っている。

俺は驚いているフィリの頭を帽子の上からグリグリと撫でてから、手を離した。


――これで、ハッピーな出来事は使い切った。

 だから、言わなきゃいけない事がある。


「これで、ハッピーな出来事はおしまいだ」

 その言葉に、春が息を呑むのが聞こえた。

フィリは何ともなさげな顔をして、帽子をかぶりなおしている。

朝日は俺の言葉を聞いた瞬間に身体を硬くして、仕掛け屋は小さく溜息をついた。


「アイツが、コックが逝ったよ」

 俺はピンと来ていないフィリと、少しだけ眉間に皺を寄せる仕掛け屋と、真面目な表情をしていた朝日に事情を話す。春は気まずそうにしていた。


 彼が追跡魔法で半ば脅されながら、あえて俺と春の方を狙った事。そうして、きっと灰になりたいと思っていた事。彼の本心までは分からなかったが、それでもフィリを案じていた事。簡単に伝わる事では無いと思ったが、フィリは意外にも気まずさを感じているようだった。

「仕方ないたぁ言いたかないが、堪える話だ」

「そうか……コックか。篝火のヤツらまで出すわけじゃな。とはいってもあと一人じゃがの……」

 忘れていると言っていたはずの名前を、フィリの口から聞いた。それにどんな意味があるのかは分からないが、もしかするとフィリは気付かないうちに何かを取り戻し始めているのかもしれない。

「でも……、仕方ないよ」

 そう口にしたのは、意外にも朝日だった。その表情は決して明るくは無いが、それでも悲しみに満ちていたとしても隠しきれているだろうと思える程の、自然な表情だった。彼女は俺から受け取ったヘアピンをパチリと髪につける。

「追跡魔法っていうには、此処も危ないんでしょ? だったら、明日にも出なくちゃね」

「あぁ、各々荷物を纏めておいてくれ。全員揃っているなら、襲われるとしても何とかなるはずだから、今日は休もう」

 まさか朝日がこんな風に話を誘導してくれるとは思わなかった。それには仕掛け屋も驚いたようで、少し目を見開いているのが見えた。仕掛け屋はそっと俺の近くで、彼を想うような遠い目をする。

「コックは、安らかだったか?」

「あぁ、あいつなら地獄に行っても這い上がって天国で笑うさ」

 そう言うと仕掛け屋はククと笑って「違いない」と笑っていた。


「寝る前にシャワーね! ご飯は用意しておくからー!」

 いつのまにかフィリよりも仕掛け屋よりも立場が上になっていそうな朝日の声に従って、俺と春は順番でシャワーを浴びる。本当はもう一人、もっというならばもう二人、更にいえば三人目は……少しキャラが濃すぎるかもしれないがいてほしかった。


 シャワーを浴びながら、ボウっとこの数日の事を考える。

失って、失わせて、失って、失わせて、失って、手に入れて、それでも未だに俺達は何とか無理にでも笑う事が出来た。

このメンバーで今日を終わらせられているという事が、俺には身体に伝わるシャワーよりも熱く、そして暖かいように感じた。

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