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第2章 「怪獣スーツ、生生流転」

 こうして私は有田さんと一緒に怪獣倉庫の中を巡りながら、改造素体となる怪獣スーツの選定を始めたんだ。

「追加で製作する二話分のシナリオは、『パルサー星人の逆襲』と『侵略の価値』でしたっけ。確か、どちらも成相寺さんの御本でしたね。」

 怪獣を物色する片手間に呼び掛けてきた有田さんの話題は、予め私が速達でお送りした準備稿の事だった。

 前者のシナリオは、初代アルティメマンの人気エイリアンであるパルサー星人が、新怪獣とタッグを組んで再登場する娯楽編。

 後者は知的な等身大宇宙人とアルティメゼクスが、宇宙的視点から見た地球の価値について論戦を交わす異色作を想定して執筆した。

「私としては気に入っていたんですけど、どっちも準備稿止まりでした。だから、ある程度は改造する着ぐるみに合わせたシナリオの手直しもききそうです。サブタイトルだって、もっと相応しいのが浮かんだら、そっちに変えられますし。」

 何しろ、急遽製作する事になった追加エピソードだ。

 怪獣の着ぐるみ同様、シナリオだって新たに書いている余裕はない。

 コンペに敗れてお蔵入りにしていた没シナリオを再利用出来たのは、怪我の功名だった。

「要するに、パルサー星人の相棒と成り得る屈強そうな怪獣と、頭脳派の宇宙人を一体ずつ確保出来れば良いんですよね…だったら!」

 何か心当たりでもあるのだろうか。

 怪獣倉庫の一点目指して、有田さんは脇目も振らずに突き進んだんだ。


 慌てて追いかけた私だけど、怪獣倉庫の中を走るのはなかなかの苦行だった。

「待って下さい、有田さん!」

 天井の梁から着ぐるみ達が所狭しと吊り下がっているので通路は狭いし、紫外線対策のために明かりは薄暗い。

 正直言って、見失わずに付いて行くので精一杯だ。

「ああっ!そこにいらっしゃったんですか、有田さん!」

「随分遅かったですね、成相寺さん!ほら、私は此処ですよ!」

 やっとの思いで追い付いた私に、丸川プロの誇る造形師は普段と変わらぬ気さくな様子で手を振っていた。

 こんな条件下で何の支障もなく早足で進める有田さんは、さしずめ「怪獣倉庫の主」といった所だろうな。

「コイツなんてどうです、成相寺さん?なかなか良い造形だから、改造しても良い感じになると思うんですよね…」

「これは確か、『アルティメマン』に登場させたバグビトム…」

 誇らしげな造形師が指で示す先には、黒光りする甲虫のようなフォルムを持った怪獣スーツが、天井から力無く吊るされていた。

 甲虫獣バグビトム。

 カブトムシやクワガタを始めとする甲虫をベースに、カミキリムシの大顎とトンボの複眼をあしらった、昆虫採集が好きな子供達へのウケを狙って造形された怪獣だ。

「コイツなら、表面を金属板っぽい質感にして色をメタリックに塗り直せば、ロボット怪獣として立派に通用しますよ!甲虫をイメージした外観のバグビトムならね!」

 有田さんの言う通り、ロボットタイプの怪獣なら「宇宙テロリスト」という肩書きを持つパルサー星人が従えていても違和感がないし、光沢があって無機質なバグビトムの胴体は、少し手直しすればレトロなロボットに見立てられそうだ。

 それにしても、この倉庫で眠る怪獣や宇宙人達のフォルムを的確に記憶しているだけではなく、改造後の色彩や質感まで脳内でイメージ出来るとは…

 流石は、怪獣達の造物主。

 改めて有田さんに畏敬の念を抱いてしまうな。

「後は、ブリキの玩具みたいに角張った頭をつけてやれば、ロボットらしく仕上がるんじゃないですかね。」

 確かに、頭部を新造して色を塗り替えれば、印象もガラッと変わるだろうな。


 しかしそれでは、バグビトムの本来の頭部はどうなってしまうのだろう。

 仮に胴体がロボット怪獣として生まれ変わったとしたら、残された頭部は…

「あの、有田さん…バグビトムのマスクパーツ、貸して頂けませんか?」

「どうやら何か思い付いた様子ですね、成相寺さん…」

 それ以上は何も言わず、有田さんは私にバグビトムのマスクパーツを手渡してくれた。

 バグビトムの頭部が胴体と別構造になっていて、本当に良かったよ。

 溶岩怪獣マグマスみたいに一体成型のスーツだったら、こうは行かなかっただろうな。

「よく見ていて下さい、有田さん…」

 そう言いながら私は、バグビトムのマスクパーツを自分の頭に被せたんだ。


 狭まった薄暗い視界に、息苦しい密閉感。

 正直言って、快適とは言い難い。

 しかし、これらの頭部に加わった違和感は「今の自分が、成相寺真雄ではない異形の存在になっている」という実感へと次第に変化し、徐々に心地良くさえ思えてきたのだから、何とも不思議な物だ。

 これも俗に言う「変身願望」なのかも知れない。

「どうですか、有田さん!顔だけ昆虫に似ているヒューマノイドタイプの宇宙人が、地球人に擬態しているようには見えませんか?」

 スタッフ仲間に問い掛けてみたものの、只でさえ籠もっている所にマスクパーツの中で反響してしまったので、まるで他人の声みたいだった。

「おっ!良いじゃないですか、成相寺さん!身体は地球人のままなのに、顔だけ虫みたいなエイリアン。全身キッチリ造形されているよりも、かえってインパクトがあるかも知れませんね。首から下は『地球人に擬態していた時に着ていた服』という体裁で、普通の背広でも用意しましょうか。」

 私の思い付きは、丸川プロが誇る怪獣造形師にとって好評だったようだ。

 それにしても、顔が虫みたいになった私と普段通りの有田さんが向かい合って話している現状は、端から見れば相当にシュールな光景なんだろうな。

「それなら少し塗り直すだけで、立派に虫型宇宙人として通用しますよ。私としては、別の映画で使った宇宙飛行士の衣装でも流用しようかと考えていたんですが…流石は成相寺さんだ、脚本家ならではの良いアイデアですな。」

 有田さんは褒めて下さったけど、私一人で机に向かって考えていたら逆立ちしても浮かばなかっただろう。

 こうして実際に怪獣倉庫で着ぐるみ達と向き合い、有田さんと意見を遣り取りし合ったからこそ、初めて閃いたアイデアだった。

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― 新着の感想 ―
追加一話目は、新マン最終回、追加二話目は平成セブンやシン・マンを彷彿させそうなお話ですね。 そんでもって、昆虫型宇宙人。 追加二話目に……地球が人間の星ではなく昆虫の星である事実を考えるとなかなか皮…
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