スタートラインに飛び乗って、そのままの勢いで先に進む系女子
私が目的とする『魔導術師』とは
魔導具製作に優れ、
国に多大な貢献を与え、
人格、精神共に愛国心のある人物に与えられる称号である。
国・・・魔法国にとって多大な貢献を与えるとは様々な方法がある。
魔法が発展し、4,000年前に出現した『ドラゴン』と呼ばれる未知の魔法生物の淘汰。はたまた、領地を広げる為の大陸全土の殲滅。それか低予算で開発できる完全食とか。まあ、最後に関しては作れない事は無いが完全に健康に害するものになってしまうだろう。食べたら寿命が一年縮まるとか、そんな感じである。健康被害のある完全食とは。そもそも魔道具の範疇を超えているので、そんな道もあるよ〜的な紹介で留めておく。
そんな憧れる『魔導術師』なのだがなる為の道のりは長いと思っていた。魔法軍部の無線を傍受しなければこんな好機は逃してしまうのが普通だっただろう!!
「無線音量最大!!」
一丁前に叫んでみるが、お供で用意している二体の魔法人形は休眠中である。バッテリー充電しないと稼働しないって、魔法蔓延る現代ではとってもレトロな印象を受けるだろう。事実は未来的なのだけど。
ヘッドホンを取り、ミキサーの音量ツマミを最大限に捻る。
『目標は!! 仮称タイタン!!! 頭頂100メートルの巨人です!!!!!』
「ぎゃああ!!! 耳が、鼓膜がぁあ!!」
テーブルに綺麗に並べられた装飾品を跳ね飛ばすようにして音量ツマミを最小に戻す。カッコつけて音量を上げただけで、『魔導術師』になる為の良い感じの存在は発見し、ある程度理解しているのだ。あとは向かって倒すだけである。感慨深くなる。長年・・・と、言っても一、二年程であるが愛用していたカビが生えてそうなパイプ椅子に腰掛け、空を見上げる。頭上には慣れ浸しんだ洞窟の天井が見える。
「・・・一周回ってオシャレまであるわね。原始人的内装・・・原点回帰って訳でアイデア売れないかしら」
それで売れたらホームレスはアイデアの宝庫だろう。あの人たちは地上で一番原始人に近い生活を送っているのだから。
そんな事実に気が付き息を吐く。考えを纏める。
対象、タイタンは身長100メートルの高身長筋肉マンである。何を食べたらそこまでになるのか科学的に調べてみたくある。
出現から既に五時間弱は経っており、軍部の攻撃によって魔法を大幅に軽減する外皮を持っていることが分かっている。その攻撃を無視して魔法国に向かってきているのだ。圧倒的にヘイトは魔法国である。正確には魔法国を囲んで浮遊している『始祖神柱』が原因である。原因と言うよりは目的であるが。
現代はまだある程度の魔法の発展と、軍事利用によって相当の抵抗力ができているが、昔はそうはいかない。歴史で考えると4,000年前は紀元前であり、槍を持って狩りを行っている時代である・・・と思いきや、現実は非常なり。そこまで昔に遡ると現代よりもっと魔法が身近だった時代である。より身近に魔法があったし、5大属性である『火』『水』『木』『土』『光』を司る神様だって居たそうだ。宗教の勧誘だってもうちょっとリアルっぽい事を言いそうであるが、事実なのだ。魔法国には『神柱教』なる団体が存在している。無ければ良いのに、と個人的な意見が溢れてしまう。
んで、その神と人間が溢れる世界で起こったのは人口の急速的な増加である。そしてそれに伴うように人と神のハーフが誕生していった。元を正せば私たち人間はそのハーフらしいのだ。半人半神だね、やったね。で、善がいれば悪がいるように悪神が私たちのグループから派生し、誕生。そこから根を伸ばすように『ドラゴン』と呼ばれる生物が誕生し、二つのグループで戦争が起こるようになった。これが4,000年前の最大で最初の大戦争『ルールアの聖戦』である。因みにルールアは始祖言語の言葉で意味は”果てなき”よ。
もう情報が頭の中で渦を描いてサイクロンが発生しそうだね、辛いね、頭痛だよ。その前提の知識があって、対象タイタンが狙っているのは『始祖神柱』である、始まりの神『ルア』、司る微笑む神『ゲイングルフ』、本能と証明の神『ウェイフォーリス』、静かに燃える『ザイン』が込められた4つの柱の破壊である。その神柱がなかったら中で暮らす魔法国の住民全てが危険に晒される、最終防衛ラインそのものであるのだ。
それを壊されないように、圧倒的な知識と力を持つものを優遇する『術師』制度が4,000年前からあり、私は映えあるその舞台に立ちたいのだ!
その為に過去に唾を吐き、親の遺品をこじくりまわし、魔導術師たり得る力を蓄えてきたつもりである。なんなら必殺技だってある。使ったら無防備を晒す結果になるけど。
思いを胸に秘め、地響きが果てしない隠れ家から二人の魔法人形を運び出す。充電が終わり、電源を入れてる筈なのに起きる気配がない。まさか故障か? と思って私の魔力を自動的に吸い取り、給電する仕組みの機械に負荷をかける。彼らじゃないので痛みは理解できないが、彼ら曰く「食道に無理矢理バットを押し込まれているような感覚」らしいのだ。起きていたら反応するし、起きてなかったら叩き起こせる。そんな画期的なアイデアである。
「さすが私、天才魔導術師ね・・・」
と、一人呟くと魔力の供給が強制的に止められる感覚を感じた。どうやら目が覚めたらしい。二人を抱え、引きずるようにして這い出てきた次第であるのだ。二人の姿勢的には地面で寝ている感じになっている。地響きが激しい。
「・・・おはよう、リリー。めざましには少々刺激が強すぎるものを選んだようだね? 起きるのが遅かったら僕、食道がマンホールくらいに大きくなっていたと思うよ?」
「よかったじゃん、フードファイターになれるよ。それか早食いの選手」
「燃料はリリーの魔力で十分だから、純粋に生ゴミになるんだよね。それで出場した場合」
消化期間ないしね、僕たち。と付け足す可愛らしい見た目の彼、ツック。
先代魔導術師である父が製作した魔法副作動装置の完成形である魔法人形、その初代だ。圧倒的にその趣味があるよね・・・? と思ってしまいそうなボブカットで茶髪な女の子らしい見た目なのだが、設計上は男である。ま、まあ、死人に口なしって言うから? これ以上人の性癖についてとやかく言うつもりはないけど・・・。
「いくらなんでも、ねぇ・・・」
「パパさん泣いてるよ・・・。あ、僕のパパでもあるのか」
若干テンション高めな彼。そして隣で死にかけた表情を見せる彼女は
「おはようございますマスター。最近の朝は太陽が昼過ぎ辺りを通っているのですね・・・もうちょっと網膜に優しい回転の仕方をお願いしたい感じです」
長い艶やかな黒髪を後ろで一つ結びにしているお姉さん的なルリ。完全に私の趣味です。お姉さんって・・・良いよねぇ。
「おぉ? 目覚めた瞬間から天動説だね。時代が時代なら異端審問で人体生ハム提供だったよ」
「・・・これまた寝起きに理解しにくいツッコミですね。熟成させないでもらって良いですか」
まあ、流石に4,000年から昔の時代は知らないので特に詳しく言えないが、地動説と天動説で戦っているって事は知っている。言わば人類とドラゴンたちの戦いみたいなもんだよね。宗教的ないざこざも関与してるし。
二人が立ち上がり、供給する魔力の勢いが増したところで現実を直視する。タイタン、すぐ目の前のところまで来ているようです。そりゃ、地響きも私が飛び跳ねるくらい大きいよね!
初陣、との事もあり張り切った服装で居る私なのだけど、移動の面とか攻撃の仕様を考えてカッコかわいい服を見せられないマントを羽織っている訳である。外装は黒一色だけど内部は魔法陣が沢山刻まれて幾何学的にイケてるものになってるけど、そこまでだいたい的に見せられないのが悩みです。防御の面で考えると『魔力障壁』との名称で製作した魔道具が収納くん(つぎはぎのような箱)に十分量入っているので見た目にガンブリできる次第であります。全然見た目にガンブリしてないけど。
魔法陣を見れば発動する魔法がわかる、と言うけどこんな馬鹿でかい巨人のそんな脳みそはあるのかしら? と足蹴。一般人類の脳みその何千倍も容量があるので脳細胞の量では負けてそう。脳みそでリアル迷路できそう。
よし、取り敢えず突進だ! と当たって砕けろの砕けないバージョンで考え、飛行の魔法を発動しようとすると・・・目の前の茂みから一人の女性が出てきた。妙に良い笑顔で白装束を着たいかにもな人。
私の住処は洞窟で、そこから出ると若干の木々は生えるが残りは殆ど荒野な人通りが一歳ない場所である。そして洞窟、と言っても石で蓋してたりとか草で隠したりとかしているので「あ、ここ洞窟あるじゃーん! 雨宿りしよっ」ともならない訳である。つまるところ、
「不審者確定!! 『詠唱短縮』『雷鳴弾』!!」
放り投げ、只の鉄の棒と化していた長い棒の真価が発揮する。『雷鳴弾』の魔法名を魔力で感知したことにより浮遊し、不審者に銃口を向け発射する。結果は威嚇射撃止まりであった。どして?
『雷鳴弾』は第3界火炎に位置する炎を発生させる程のプラズマを雷として相手に打つける魔法である。雷である。当たって充電できたわ、サンキューって言えるような電圧ではないのだ。それを当たって無事とは・・・警戒をさらに上げる。元より信頼はしてなかったが。
どうやら『魔道障壁』に似た魔力を感じたのでそれが原因だろうと、無効化した理由に当たり付ける。
突発的な『雷鳴弾』を防御した彼女はなんとも危機感のない表情で白装束の中に手を突っ込み、一つの札を見せる。・・・えっと、
「・・・『神柱教司祭』ニーア・フィ。何その紋所みたいな見せ方。どうも、リェイリー・ロイです」
「あ、どうもご親切に。こんな辺境に住んでいる方なので言葉が通じないと思って見せたのですが言語が通じて良かったですぅ」
そう笑顔で見せてきた札を仕舞う彼女。これが普通の出会いだったら勧誘を断って部屋に戻るのだが・・・感じる魔力が魔法発動準備のものだし、彼女の顔に刻まれた裂傷は普通に只者ではない。料理してついちゃった可能性は無いだろう。ほぼ自分を調理である。
一歩二歩、とジリジリと後退し、下がる。二人の声が聞こえる。
「・・・言語通じる人なら初対面で『雷鳴弾』打つと思う、姉ちゃん?」
「昔の挨拶ではビンタで愛情を表現し合うってものがありましたので、初対面で『雷鳴弾』を放つ挨拶があっても良いんじゃないかと」
「そんな昔は無いし、今もないよ・・・。『雷鳴弾』は普通に打ったら即死の魔法で、挨拶がわりにやるもんでもないけどね・・・」
普段はツックがおかしな言動を見せるが、今回ばかりはツックが常識人であった。この状況でお喋りできる根性は常人ではないが。まあ、人ですらないが。
タイタンの体で影ができている、そんな近距離に感じる大質量と、目の前に存在する危険な彼女。唾をごくりと飲む。
「あ、すみませんこの仕事は初めてですもんで・・・えっと、要件はですね神柱教に入会してみませんかってお誘いでして・・・」
「断固拒否します!! ツック、ルリ『浮上』!!」
『雷鳴弾』を放った鉄棒を手に魔法を発動させる。発動媒体がないと魔法が使えないって言う特質な体に悩まされる今日この頃。それ以上にこんな辺境まで宗教の勧誘が来るのか、と恐れ慄く事態であります。それ以前にもっと気にする所とかあるんじゃないの? ほら、タイタンとかタイタンとかタイタンとか・・・。
と、タイタンの進行方向からズレ、巨人の肩らへんの高度まで上昇した時、知りたくなかった事実が目に入った。
「あれ、魔法国の場所とタイタンの進行方向。その中心に私の洞窟あるよね・・・? て、アアアアアアア!!!! 出口が踏み固められてるんだけどッ!!?? ちょ、思い出とか創作物がぁ!!!」
叫ぶ。二年ちょっとの時間であるが共に過ごしてきた大切な家であるのだ。
夏はジメジメと涼しく、冬はこれでもかと言わんばかりの寒さ。湧き出る虫の被害に殺虫魔道具を真剣に作成しようと考えた日々。服に苔が生え、叫んだあの日の朝。そんな思い出が刹那の間に脳裏に蘇り・・・。
「そこまで良い思い出はなかったわ。よし、もっと壊せタイタン!! 遠慮は要らない、跡形もなく壊してしまいなさい!!」
衣装と発言とで合わさって悪の親玉感が増してしまうがタイタンと私は赤の他人です。知り合って五時間弱しか経っていないうっすい関係ですので・・・どうか、私の周りを浮遊し、映すドローンの送り先に変な誤解が混ざった情報を流さないでもらいたいです・・・。デザイン的に十中八九魔法国の軍部のドローンなのでちょっと冷や汗ものです。もっとカッコつけて傍受し、宣言するつもりだったんだけど・・・。
「ルリ、このドローンを介して音声を送って『当方は味方であり、参戦しにきた。タイタンは此方の方で処理をするので兵士たちの避難をお願いしたい。報酬は魔導術師とかが良いかなぁ、って思ったり』で」
「・・・はい、送信完了しました。色々取り繕っても先程のタイタンを仕向けた悪人って印象は拭えないですけどね。よっ、悪代官!」
「いつから私は領地を支配できる権力を持っていたのよ・・・」
色々と合わさった初陣であるが、これが私のお披露目会である。魔導術師として、沢山披露するぞ〜!!
まずは余り兵士たちに影響が出ないものを。
何世代前かの魔導杖に跨っている兵の数は大凡数千。その全てが魔法、第2界土流の『青凪の砂嵐』をタイタンに向け放っている。効果は色のない砂の礫を相手に打つける足留と、妨害を備えたものである。第3から以下は弱魔法なので私でも対処は余裕である。そんな攻撃を体格さが何十倍もあるタイタンに向け放っているのだ。効果がないのは目にする前に分かるだろうに。
恐らく足止めが優先で、何かを待っているのだろうと考える。恐らくその相手は術師だろう。ので先を越す。
「ルリは『魔導障壁』を・・・うーん、強度2で意地。ツックは『巨人の掌底』の準備!」
「了解!」
「了解しました」
ルリに向けて収納くんから射出された魔道具が飛び出し、私とツックの前方を覆うようにして障壁が展開される。うっすらとフィルムのようなものが見えたのを確認し、詠唱を始める。詠唱を短縮しても良いけど、折角の盾があるのだ。フル詠唱で魔法発動の魔力ロスを無くした純度百パーの『巨人の掌底』をぶちかましたいじゃん?
攻撃の威力的にはルリの方が圧倒的に高いのだが、取り回し的にはツックであるのだ。兵士巻き込んで討伐とか後味悪いし、気分悪いじゃん? 倫理的にダメだし。
「『祭場の門。新旧の門出。携えるは神殺しの刃。瑠璃色の放物線を描く架け橋。貰うは幸福、与えるは災難。至高を持ち、至高で語るは神の・・・」』
と、後一言との所で今までスルーしていたタイタンが振り向き、ハエを叩くように右手が飛んできた。大質量と、圧倒的な速度の混じった破壊の一撃はルリが維持していた魔導障壁によって拒まれるが・・・。
「(い、今ビキって言ったよね!? ちょ、なんかヒビ入ってるし・・・強度”2”だよ?? 計算上では第5界魔法までは耐えられる強度を持ってるんだけど、まさかタダのビンタが第5界魔法相当威力? はぁ、バカ質量・・・)」
第6界魔法からは神技魔法と呼ばれる、司る神の助力を借りて放つ魔法なのでそこからが明確な威力の線引きになっているが・・・それでも人力で出せる最大火力の第5界魔法を余裕で耐えられる障壁にヒビ?? はいあたおか。
そしてそんなビンタを止めた後、タイタンの目つきが変わり、明確な殺意を持った相貌へと変化する。ヤバすぎ。腕を引き、謎に肘の部分が裂けたタイタン。肘の部分に猛烈な量の魔力を感じる。
先手を撃たなければ死ぬ! そう確信せざる終えない魔力量である。ビビったので詠唱途中だった『巨人の掌底』を完成させる。
「・・・『怒りの鉄槌』『巨人の掌底』!!! えびせんみたく潰れてしまえ」
ツックの腕が解け、裏側に記入されていた魔法陣が私の魔力を吸い取って輝きを放ち始める。回転しながらタイタンの頭上に移動し、一つの魔法陣を形成し始める。輝きを放ち、回転スピードをあげる魔法陣。そこに私の魔法名の言霊が響く。一際眩しい光が魔法陣から飛び出し、第6界土流に位置する魔法に相応しい攻撃が実体を伴って発動する。
その『巨人の掌底』と、魔力をエネルギーに変換した噴射によって加速を得たタイタンの拳が打つかる。構図的に赤子を捻る大人の腕である。別名ヨシヨシとも言う。
そんなタイタンすらを包める巨大な掌底が重力の加速を伴って衝突するが・・・それに対抗するようにタイタンの拳が激突する。数秒の拮抗の末、破ったのはタイタンの拳だった。ガラスが割れるような破裂音が響き、魔法の残留が拳を突き上げた状態のタイタンに降り注ぐ。まるでそれは勝者を称える花吹雪のようで・・・
『『ンアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!』』
風切り音を数倍気持ち悪くした勝利の咆哮をあげるタイタン。次に此方に視線を向けた時、その表情はどこか勝ち誇った、そんな憎たらしい表情に変わっているように感じた。
「いや、負けちゃだめでしょ・・・」
押し負けはしたがタイタンの片腕を使い物にできなくした、とその面で見れば十分な功績であるのだが。欲が出ちゃう。一発で決めれそうな威力を兼ね備えていたのだ。片腕ぼきぼきであるし。
まあ、一発勝負は他の魔法使いの仕事であって、私は魔導術師志望ですので? 優れた部分は手数の多さと、場面の適応力ですので。
「『神殺しの震槍』初お披露目だよー」
そんなタイタンの間抜けズラに収納くんからそのまま射出され、魔法の推進力を得た合金素材の槍がものの見事にタイタンの両目に突き刺さる。片目毎に十数本、合計三十本弱が彼の視界を完全に奪う。
『ーーーーーッッッ!!!!!』
声にもならない悲鳴をあげ、顔を下げるタイタン。
「この高度でやっと首が見えるとか・・・でも、やっと弱点らしい部位を曝け出してくれたね。はい、斬首」
マントの内部に記入された一つの魔法陣を起動させ、魔法を発動させる。
「『操鉄』最近は自然に配慮したリサイクルが流行りなんだってさ。って事で、再利用ねそれ」
鉄を操る魔法を使い、タイタンの両目に刺さった震槍を操り目から首を垂れ、曝け出した首に突き刺す。決して折れない金属素材の槍がしっかりと首に突き刺さり、次の魔法の準備を完了させる。
「・・・第7界鋼鉄『鉄の鮮血』発動します」
神の魔法である五代属性から離れた完全な人の叡智、鋼鉄の属性をもった魔法がルリを介して発動される。
首に突き刺さった槍に無数の魔法陣が浮かび上がり、それはタイタンの首に空いた傷を伝って内部に侵入する。そして・・・
『ンガッ!?』
タイタンの内部に存在する血・・・? のような体内液を鉄に変換し、内部から『神殺しの震槍』を複製し突き破らせる。神の魔法は事象で、人の魔法は人為である。その証明を果たすかのように『鉄の鮮血』はまだ終わらない。
内部から突き破るようにして飛び出す震槍は徐々にタイタン自体の魔力を吸い取り、微振動を始める。微振動から徐々に揺れの幅は大きくなり、突き出した傷を徐々に広げていく。溢れる鮮血は量を増やし、変換の魔法はタイタンの魔力を吸い取って増幅する。いまだに身動きし、どうにか状況を変えようと悪あがきをする巨体を体に伝う鮮血が震槍に変換されて次は外部から肌を突き破って体を侵食する。
それは代わりばんこに行われ、徐々に体の内部を侵食していく。肌を突き破り、筋肉を絡めとり、骨を固定する。残ったのは身動きすら許されず、蹲るようにして死を待つだけの肉塊だった。
これぞ人が編み出した禁忌の魔法。効果が効果を呼び、死を経て形を残す自己完結する魔法だ。使ったら最後、周りの人からの冷たい視線は確定だろう。
魔法は火を放ち、魔道具は火を放つ推進力を与える。そして人の手によってさらに昇華された魔法は名を”機術”となり、連鎖する事象を与える。
私は魔導術師志望なんで、積極的には使いたくないけどね?? そんな自分から進んで血を見たいとか思うような野蛮な女の子じゃないんで・・・。
「野蛮じゃなかったらわざわざ自分から戦場に立たないと思うけど・・・」
「ツック?」
「そんなリリも大好きです・・・」
言わされてます感を出してるけど、そんな好意を貰いたくて名前を呼んだわけじゃないんだけど・・・欲しかったのは撤回の言葉だけで。
と、後は安全圏からゆっくりとティータイムと洒落込みながら待っていようかとのほほんとしていると、タイタンの魔力が”変化”しているのを感じた。
魔力は人のDNAと同じように、変わらない証拠品であるのだ。それは人ではないドラゴンにも当てはまる事である。それが変化するって事はよっぽどの異常事態で・・・。
巨大なタイタンの図体は徐々に泥のように溶け、地面を覆い、徐々に収縮し始める。そこに『雷鳴弾』をぶつけてみるが特に変化はなかった。兵士たちの避難が終わった事で、ルリに記入された別の魔法でもぶつけてみようかと思ったが、どうやら相手の方が早かった様子で泥の塊を射出される事で再開を果たした。
「どっからどう見ても魔法使いな風貌だけど、しかも旧世代の。・・・この一瞬で性転換まで果たしたの? これみよがしに脂肪の塊が見えるわ」
「安心してください、それは幻覚ではありません。事実です。そしてカップはマスターの遥か上です。月とすっぽん並」
「例えなくて良いから・・・」
別に女の魅力は胸ではない。
そして、そんな女の魅力はわざわざいかがわしい服を着ないと見せれないほど難解なものではないのだ。だから胸を強調し、すらっと伸びた足を見せびらかすドレスは今すぐに脱いでいただきたい。なんか、なんか負けた気分になるので。
そんな私も最近ルリに手伝ってもらって若干のパーマを当てた大人の女性感あふれる髪型にしてもらったので、髪型のファッショナブル差ではギリ勝てるだろう。髪の長さに伴ったクルクルさには負けるけど。
圧倒的に面向かって喧嘩売られているような変化に苛立ちを覚えながら彼女の手癖の悪さに目を付ける。地上で変化して、数秒経つがずっと手に持った錫杖をクルクルと回しているのだ。恐らくあれが先程、泥を射出した媒体なのだろう。そう考える。
「(装飾自体は・・・意外とシンプルな感じで、魔法陣が記入されている感じではない。でも、何と無くどっかで見たようなデザインだけど・・・)」
「えーっと、あれは創法書に出てくる、沼の領地の王『闇の超越者』が持つ『沼の錫杖』だね。完全に一致したし、感じる魔力も同じような感じだよ。即死警告アナウンスがさっきから鳴りっぱなしだよ・・・」
ツックの発言により確信を得る。
創法書とは4,000年前の歴史を綴った本の事である。事細かに記載されたその本は御伽噺として話すには長すぎるとして子供に不人気1位だった事でよく覚えている。孤児院に拉致された時に見させられたので良く覚えている。あのババァは絶対殺す。
沼の錫杖。
記憶でしか知らないが『闇の超越者』は魔術師の域を超え、神に取り憑かれた人外の一種である王で、その王が持つ錫杖は沼を操り、取り込む魔法を放つ。・・・って事は錫杖から出る沼に当たったら泥人形確定?
「ヒェ、何気にさっきの危なかったじゃん」
カッコつけて顔を逸らすことで回避した泥飛ばし攻撃に今更ながら冷や汗をかく。一歩間違えていたら精巧なリリ人形になっていたと思うと滝のように冷や汗が流れる。泥人形すらならず、泥と化しそうな優しさのかけらもない魔法だったけど。
思いやりのない女性はモテないわよ、とイケてる女感を出しながら必死に頭を回転させる。
「(相手が泥の錫杖だと確定した訳じゃないけど、現状はそれが濃厚。って事は創法書に出てくる『闇の超越者』の最後である『真の太陽に灼かれ、焦がれる焔の超越者によって蒸発させられる』が正しい対処法? なにそのスフィンクス的な攻略。まあ、泥は乾燥したらカチコチに固まるから火が弱点ってのはあながち間違いではないのかな?)」
正しい手順じゃないと死なないって訳じゃないだろう。もしそうだったらどうやって焔の超越者を呼んでくるって話だ。電話一本で来てくれたら簡単だけど、その場合は大怪獣バトル勃発だろう。どんな根拠を持って友好的であると思えるのか。多分呼べたら戦ってはくれるだろうけど、100%で此方に飛び火が来るだろう。燃え尽きて灰すら残らないほどの高火力の飛び火。
「うん、現実的じゃないね。作戦はどうにかルリの第七界火炎を発動させる事、かな。火系統なら魔道具で何となく良い感じのはあるけど、近接系だからなぁ。肌灼けるし」
「あー、あれだよね。これで切ったら良い感じの焦げ目も一緒に付くんじゃね? って言って手に焦げ目がついたやつ」
「それだね。火力では優れているんだけど微調整ができないとか、もはや道具としての体じゃないよねって話」
あの時は本当に大変だった。どれだけ焦って、どれだけの魔力注ぎ込んで治癒したか・・・。数日は自分の手を見るの怖かったし、肉の焼ける匂いで肉無理だったし。
そんな面がって効果はお墨付きだが、なるべく使いたくない次第の品がある。
未だに虚空を見つめてペン回しならぬ錫杖回しをしている彼女をこれ幸いと、フル詠唱を試みる。
「ツックは魔導障壁を、最大だね。5で維持。スゥ・・・『常世の夕闇。湧き出る灼熱の憎悪、煮詰める狂愛の蠱毒。終末を鮮やかに彩る災禍の輝き。願いは燃え、憂いは灰に、悲しみの涙は枯れる。身を焦がす浄化の炎を受け入れよ』『焉夜の雨』」
上空に巨大な魔法陣が解けたルリの腕の補助を受けながら形を形成していく。魔法陣に刻まれる文字は彼女ーーーニーア・フィの見せた紋所と同じ言語である始祖言語である。『炎』『嵐』などの意味を持つ始祖言語が魔法陣として引かれたレールの上に刻まれ、意味を持っていく。それは徐々に大きく広がっていき・・・『焉夜の雨』発動に伴って一気に収縮し、何百、何千にも拡散し輝きを増していく。
発動されたそれは、炎の雨となって大地を焦がしていく。
「流石に数千もの灼熱の雨に晒されちゃったら創法書に出てくる有名人だって蒸発間違いなしでしょ」
人・・・ではないと思うが、消滅は確定だろう。だって高度数十メートルのこの場所からですら余波で肌が痛いんだから。無差別日焼けサロンと別名を与えるわ。
今に至るまで情報とか、知識とかでしか知らなかった効果範囲と結果である『焉夜の雨』である。魔法一つが起こした現象に開いた口が塞がらない現象を体感する。嘘、私凄過ぎ・・・? 的な意味の空いた口が塞がらないだけど。約5秒間の嵐のような灼熱の雨が終わり、ほぼガラスのような硬化を見せる地面を見る。第7の魔法であるのだ。全てを焼き尽くす核の炎にも劣らない火力を持っていると信じている。だって核見たことないんだもの。
そして圧倒的な進軍を見せていたタイタン、孵化するように出てきた沼の錫杖の討伐。その二つが折り重なった私は確実に魔導術師への階段に登れること確定だろう。しかも階段はエスカレーターだろう。
鼻高々に魔法国が開催する術師達のパレードに参加して、天田の老若男女に尊敬の眼差しを向けられるのは事実だろう。そんな若さで術師になるなんてどんな努力をしたのですか? えぇ? それ聞いちゃうー? それは絶え間ない失敗と成功の繰り返しよ! と、昔の発明家的サムシングなアイデアを借りて答えるだろう。そんな光景が目に浮かぶ。それを聞いてきた少年は様々な挫折を繰り返しながら術師になるところまで想像できた。
まあ、術師って殆んどが家系で纏まっているから野良の術師ってほとんど聞かないんだけどね。最近の野良術師って言うと・・・十年前の『雷魔術師』かな? 5大属性と、殲滅魔術師、魔導術師、神柱守衛師、機術師の特殊術師4つを合わせた9つから離れた新たな魔術師の登場だ! とか騒がれてたけど1年と経たずに急死したので、そこまでの成果は得てないはず。噂では凶悪性で機術師を凌ぐって言われてたみたいだけど・・・。
その10年前は絶賛施設生活だったので聞いた話でしかないんだけどね。ババァは『鉄の鮮血』で殺す。しっかりと両手両足を『神殺しの震槍』で突き刺して固定の上で内部から破きます。
今更になって流れてきた話だけどその施設って神柱教が管理してたって聞いたことがあるんだけど。・・・彼女に再会する日も近い?
そうしたら『雷鳴弾』百連発かなぁ。と考えながら何故か消えない沼の錫杖の魔力に恐れ慄く。魔力は死ななければ無くならない生死が簡単にわかる指標である。消えてないって事は死んで無いって事で、その魔力が増幅しているって事は魔法を放つ準備をしているって話で・・・。
「全速で上空へ避難!! 上昇と同時に散開し、その後は無線で連絡! 以上」
「「ッ!!」」
返事すらも置き去りにするような超加速で上空に避難する。限界高度を遥かに超える高さであるので、途中で腰のポーチからガスマスクを取り出し、酸素ボンベに繋げたが・・・クソ程視認性が悪くなったので深海用の保護空気膜を魔法陣から発動させる。メガロドンがぶつかってきても壊れない性能だ。うーん、何とも言えない不信感。当たったら一発KOらしいので一周回って安心する。
発見から数秒後、沼の錫杖から放たれた魔法名が脳内で響く。
『侵蝕する泥の波』
直後、目前に広がる泥水の波。あ、これヤベェわ。回避できないわよ。と直感し、思考と同時に射出された『永熱宝刀』を掴み、横に一閃。触れた箇所だけでなく、触れてない場所すらも蒸発させる熱が一瞬の内に『永熱宝刀』と名付けられたナイフに籠る。一瞬で沼の錫杖の魔法を無力化したのだが、嫌な感覚を手に感じる。振り切ったのと同時に『炎熱宝刀』を手放す。恐らく収納くんが収納してくれている事だろう。本当にオーパーツ。優秀すぎる収納くん。
『宝刀』シリーズの為に用意したと言っても過言では無いマントの魔法陣から治癒液を出す。じわ〜、て湿る感じ。傷が残るくらいなら多少の不快感は我慢しないと。そんな心持ちでとろとろの右手をマントの中で回復させながら、徐々に上昇してきた沼の錫杖に視線を向ける。その表情は先程までの無表情ではなかった。
『ほう、逃げるでも無く無力化か。現代の魔法は劣化したとばかり思っていたが多少は扱える奴が残っていたとはな。だが二度はないが』
「へぇ、そう言いながら近付くって事は遠距離では倒せないって悟ったからじゃないの? 言動が合ってないよ年増さん?」
「『ちょ、リリなんでそこで挑発してんの!? 自殺願望は良いけど勝手に死なれると後追いが大変なんだよ!!??』」
挑発してみるとツックからのそんな無線が脳内に響いた。音量調節がバグっているようで完全に脳内で叫ばれている感覚だ。おっと、私の脳細胞がうるせぇと苦言を呈してるぜぇ? 別名頭痛である。苛立ちを隠さずに脳内で返答する。
「『冷静な状態で来られても対処に困るでしょお分かり? 馬鹿なAI積んで可哀想ね、早くアップデートしたら?』」
そんな馬鹿なAIを積ませているのは父だし、そのAIを改良しただけのものを積んでいるのがルリである。巡り巡って私への罵倒になっているがこんなもんは勢いである。勢いがあればそれっぽくなるし、そうかな? って思えてしまうものである。
思惑通りにそうなのか・・・と、思い始めたツックに安心感と不信感を丁度半分ずつ覚える。
高等技術をかました訳であるが、私がただ単にディスっただけでアンサーは返ってこなかった。盛大な一方通行ありがとうね!!
『・・・どうやら目覚めたのは私が先なのか。まあ、私だけで始祖神柱を破壊しても構わんのだろう?』
どうやらディスへの耐性はあっても、ネットスラングに対しての理解は浅かったようだ。それは死亡フラグなんですよ、年増さん。
・・・こうも圧倒的な実力差があると、只の宣言にしか聞こえないんだね。絶望が服を着て歩いてるってこんな気持ちなんだね。しかも目的が私とか、ストカー被害で助けを呼びたいです。その場合は兵士の泥人形の完成だけどね。殺風景な荒野にたくさんの人形が置かれるね! 全くもって魔導術師に相応しくない汚名だね!
タイタンに苦戦していた兵士を呼んで、到底叶うはずもない相手をさせられるって。どうも、悪代官です。