09-02 海と言えば……
「確かに海に行ってみたいとは言ったけど……。でもまさかそんな凄い話になるなんて」
「いいじゃない！ 一緒に行こうよ！」
カウンターで盛り上がる2人。
聞こえてくる話を要約すると……
前にティンクが、海を見た事が無いという話をしたそうで、いずれ一緒に行こうという事になっていたそうだ。
で、そんな折、今度南の島でオープンする娯楽宿泊施設のオープニングセレモニーの招待が、丁度カトレアお嬢様へ届いたという事だ。
同行者も数名連れて行けるという事で、ティンクに声をかけに来てくれたらしい。
俺もついでに連れて行って貰えるんだとか。
遠く離れた異国へ旅行だなんて、中々無い機会でありがたくはあるんだが、ただ……
「チュラ島ってモリノから遠いんでしょ？」
「そうね。陸路では行けないから船旅になるわね。戻るまで半月くらいはかかるかしら」
「さすがに半月はちょっと……」
ちらっと俺を見るティンク。
「そうだなぁ。せっかくだけど、そう何日もお店を閉める訳にもいかないし……」
「――そうですか。マグナスさんにご迷惑おかけする訳にもいきませんもんね」
残念そうに項垂れるお嬢様。
「……あー、せっかくティンクに似合いそうな水着も見つけたんだけどなあ」
「ごめんね、せっかく誘ってくれたのに」
――ん、待て。水着？
「そこまで用意してくれてたのね。ホントごめんね」
「ううん。モリノだと泳ぐ機会なんかめったに無いから水着なんて殆ど売ってないでしょ？ せっかく行くんだから可愛い水着がいいかなぁと思って。勝手に先走っちゃった」
少し恥ずかしそうにはにかむお嬢様。
「――いや〜！ お嬢様にそこまでしていただいたならさすがにお断りするのも申し訳ないな！ 行こうチュラ島！」
「へ、どうしたのよ急に？」
「い、いえ、私が勝手に先走っただけなのでそんなにお気になさらず」
お嬢様が驚いて目をパチクリさせる。
「いや、よく考えてみたら外国の錬金術に触れるのも仕事の一環だなと思って！ 行きたいチュラ島！」
「でも、店はどうすんのよ！？」
「いいよ、長期休暇だ！ 丁度仕掛ってる仕事も無いし！」
「え、いいの？」
「――という事は？」
手を取り合って見つめ合うティンクとお嬢様。
「あぁ、夏休みだ！！」
―――
その後旅行の日程について大まかに話した後、今日は解散となった。
貰ったチュラ島ガイドブックをウキウキで読み漁るティンク。
「へぇ。青い海に白い砂浜ですって。食文化も独特で色とりどりな魚やフルーツたちが皆さまをお待ちしております、かぁ。楽しみだなぁ！」
「旅の工程としては、ソウゲン領を抜けて、南の港町から船でチュラ島へ……か。移動だけで2日はかかりそうだな。……お、丁度地元のお祭りの時期と重なるらしいぞ。何か面白い物見れるかもな」
それぞれに南の島に夢を馳せてガイドブックを眺める。
「……そう言えば、アイテムさん達は誰を連れて行くの？」
ふと我に返ったティンクが呟く。
「そうか。定員的にはあと１人連れてきていいって言ってたな。ずっと居る訳じゃ無いとは言え、さすがに手あたり次第連れて行くとなると怪しまれるよな……」
「1人だけかぁ。中々無い機会だから皆んな行きたいんじゃない？ どうするの？」
「そうだなぁ……」
ここは慎重に考える必要がある。
モリノとは全然違う環境。
現地の状況も調べつつ、どんな場面でも活躍できそうなアイテムさんを慎重に選ぶ必要がある。
――が！ この際そんな事はどうでも良い！
南の島、バカンスったら当然、水着だよな！！
『誰の水着が見てみたいか！？』
俺にとってはそれこそが最優先事項だ！
この機会を逃せば、海のないモリノでは水着を拝める機会なんて早々無いだろう。
この夏の思い出を誰に捧げるか……
ここはやっぱり断トツNo1ナイスバディの惚れ薬さんか？
それとも隠れ巨乳のシルバーソードさん？
まてまて、ロングソードさんの鍛えられた健康美も捨てがたい。
腕組みをし、想像力を全開にしてじっくりと考え込む。
「まぁ、そう簡単に決められないわよね。なんてったって行った事無い場所だもん。迷っててもしょうがないから、クジ作ってあげたわよ。はい、引いて」
え？ クジ？
目を開けると、ティンクが折り畳まれた紙の束を差し出してくる。
何かゴソゴソしてると思ったそんなもの作ってたのか！！
「い、いや待て。こういうのは慎重に決めないと――」
「とか言って。どうせ誰の水着が見たいかとかで悩んでんでしょ？ やらしい」
ず、図星だ。
さすがにこうも一緒に居ると、だんだんと俺の考えが見透かされるようになってきたな……気を付けなければ。
あんまり抵抗して変に勘繰られたら最悪お留守番になる危険性すらある。
最悪でもカトレアお嬢様と、まぁこいつの水着も見れるだろうからそれだけでも儲けものと思っておかないとな。
ここは素直に従うことにして、差し出されたクジを引く。
折り曲げられた紙から1枚を選び手渡す。
ガサガサと広げて中を確認するティンク。
頼む！
いささか失礼ではあるが……聖水以外！ 聖水以外でお願いします！！
神にも祈る気持ちで、気づけば掌を組んで空を仰いでいた。
「では、発表します！ 今回一緒に行って貰うのは――」
