08-02 祭の前
ティンクさんに入れて頂いたお茶を飲み終えると、ロングソードさんとシスター、それに早朝から頑張ってお手伝いをしていた木の盾ちゃんは魔力切れで撤収。
私はまだ時間があるので工房でご主人様のお手伝いです。
シスターが運んでくれた大量の荷物を解いて、ご主人様と一緒に棚へ仕舞っていきます。
「ご主人様、満月草はいつも通り3本ずつ束にすれば良いですか？」
「あぁ、それで頼む！」
「分かりました、薬草と同じ棚に並べておきますね」
「了解〜。――なぁ、紅火草ってもうストックこんだけしかなかったっけ？」
「いえ、そちらの棚の下段にありますよ」
「あ、ホントだあったあった」
ご主人様と手分けして手際良く荷物を仕舞っていきます。
そんな最中、袋から取り出したある物が目にいてしまい――作業の手が止まりました。
「……あの、これはどうしましょうか？」
袋の中からカシミアの服を取り出してご主人様に見せます。
「ん？ あぁ〜、道具屋のオヤジがおまけで付けてくれたって言ってたやつな。そうだな……せっかくの好意だし、着てみるか」
そう言って、麻の服を脱ぎカシミアの服に着替えるご主人様。
「んー、中々いいじゃんか！ 生地も丈夫そうだ」
カシミヤ……麻と比べると軽く肌触りも良い高級素材です。
勿論それで作られた洋服は麻の服よりもずっと高価で着心地も良いはず……。
椅子にかけられた麻の服がおもわず目に入ります。
――アイテムとしての私は、ただの服です。
しかも素材はありきたりな“麻”。
ロングソードさんやシスターみたいに戦いが得意な訳ではないですし、万能薬さんや惚れ薬さんみたいに傷を癒したり人の心を操る事も出来ません。
シルバーソードさんや盗賊マントさんのような特殊な力も無ければ――木の盾ちゃんみたいにご主人様を危険から守る事も……出来ません。
きっとこうしてよく呼んでもらえるのも、ただコストが低くて錬成が楽だからだと思います。
最近はご主人様の懐も随分と余裕が出てきたようですし、そうすれば私みたいな低レベルなアイテムは……直に用済みでしょう。
――別に、それ自体は普通の事なんです。
“麻の服”と“こん棒”を使い続ける上級戦士なんて居ないですし、いつまでも“見習の杖”を使っている大魔道士も居ません。
皆さん強くなるためや良い仕事をするため、頑張ってお金を貯めてより良い装備や道具を買い揃えるんです。
そんなご主人様を、自分の持てる力で精一杯支え、時が来れば次のアイテムへその役目を引き継ぐ。
それが私達の役割――それは分かっているのですが……
「ん？ どうかしたか？」
ふと気づくと、思わず手を止めて考え込んでいた私の顔を、ご主人様が不思議そうに見つめていました。
「い、いえ。何でもありません。……あ、私もそろそろお時間みたいです」
手に持っていた素材を最後に棚に仕舞い、パンパンと手を払います。
「お、そうか。サンキュー、助かったよ！」
「はい！ それでは失礼しますね」
「おぉ！ また頼むよ」
そう言って手を振って見送ってくれるご主人様。
「……あの、ご主人様」
「ん？ 何だ？」
「――私はご主人様のお役に立てましたでしょうか？」
「どうしたんだ急に？ 当たり前じゃねぇか！ いつも助かってるよ！」
そう言ってニッコリと笑ってくれるご主人様。
「そうですか。それは――よかったです」
「麻の服ちゃんだけじゃなくて、アイテムさん達には全員感謝してるよ。それぞれ色んな力で俺を助けてくれるし、皆んなが居てくれないと俺は――」
嬉しそうに話すご主人様の
『麻の服ちゃんだけじゃなくて』
その一言がどうしようもなく……気に入らなくて、まだお話の途中だというのに今日は姿を消してしまったのでした。
