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08-01 便利屋マクスウェルの日常

「鉄と銀のインゴッドがそれぞれ10本、雪下人参が5本に、ラミアの鱗……」


 注文書と荷物を次々と見比べていくロングソードさん。


「そのラミアの鱗は入荷するのに随分と苦労したよ。納期に間に合って良かった」


 道具屋の店主さんが、やれやれと首を振りながら苦笑いします。


「モリノには生息しない類の魔物だからな。――うむ、品物は間違いなく揃っている。ありがとう、お代はこちらに」


 そう言って、ロングソードさんがお金の入った袋を手渡すと、受け取った店主さんが今度は袋の中の紙幣や硬貨を数え始めます。



 ――今日はロングソードさんとシスター。

 それと私――“麻の服”の3人で街まで買い出しに来ました。

 忙しいご主人様のお使いです!



「――はい、確か! 毎度あり! 領収証は居るかい?」


 お金を数え終わり、店主さんがニコニコと問い掛けます。


「あぁ、”便利屋マクスウェル”で頼む」


「何だ! お嬢さん達マグナスんとこの使いかい!? いゃー、こんなに可愛い女の子ばっかり雇って。噂の紅い姉ちゃんといい……あの色気の無いマグナスが最近どうしちまったんだい」


 そう言って少し意地悪く笑いながら領収証を書く店主さん。

 紅い姉ちゃん――と言うのはきっとティンクさんの事でしょう。カフェの美人店員として今ではすっかり街の有名人と聞きます。


「おや、アイツったらそんなに女気のないヤツだったのかい? アタシは中々良い男だと思うけどねぇ」


 そう言って、大荷物を軽々と持ち上げるシスター。

 荷物が多くなるので一応荷車を持ってきたのですが……もしかしたら必要ないかもしれないですね。


 ちなみに、本当は街に慣れている私と力持ちのシスターが居ればお使いは事足りたのですが……


『シスターだけだと……もし“何か”あったときに“心配”だから』


 と苦笑いするご主人様に頼まれて、ロングソードさんが同行してくれたのでした。

 ご主人様の言う“何か”や“心配”とは、一般的に女の子の外出を心配する際に言う理由とは違うのだろうな、という事は私でも分かります。


 シスターの怪力に驚き、口をポカンと空けて固まる店主さん。


「――あ、そうだ! 忘れてた。……こいつをマグナスに渡してくれるかい」


 そう言って綺麗に畳んだ洋服をロングソードさんに渡します。


「これは……カシミアの服か? ――注文のリストにはなかったと思うが」


 ロングソードさんがリストを確認し直します。


「いや、こいつはお得意様へ俺からのサービスだ。丁度纏まった量が入ったんでな。あいついっつも同じ服ばっか着てるだろ? もうボロボロだし、仮にも欲付きの錬金術師様なら多少身なりくらい気にしろって前から言ってんだけどな。中々聞く耳も持たないから俺からサービスだ」


「かたじけない。帰ったら主人(あるじ)殿にも伝えておくよ」


 ……マスターの着てる服。


 初めて私を錬成したときに、私から差し上げた物です。

 気に入ってるからと、いつも着てくれていますが――確かに冒険や探索などでもう随分とボロボロです。

 それでも直しながら使ってくれていますが、確かにそろそろ買い替え時かな……とは思います。



 ―――



 お使いを終えて戻ると、店前で作業していた木の盾ちゃんもお仕事が終わった所のようでした。

 脚立から降りてきて私達を迎えてくれます。


「あ、みなさんおかえりなさい!」


「ただいま! 木の盾ちゃんもお仕事終わったの?」


「終わったよ! 小さな照明をそこの木にいっぱい取り付けたの」


 そう言って自慢げに植木を指差す木の盾ちゃん。


「ほお。これは一体何に使うんだ?」


 ロングソードさんが吊るされた小さな照明を手に取って見つめます。


「えっとですね、今度のお祭りで使うらしいのですが……実は私も詳しい事は知らなくて」


 そう言って木の盾ちゃんが小さく舌を出して笑います。


「へぇ、祭りか。いいじゃないか! アタイらも連れてってくれって頼んでみるかい!?」


 豪快に笑うシスター。


「無理ですよぉ。ご主人様最近何だか忙しそうで殆ど工房に篭りっぱなしですから。たまの休みはたいてい疲れて寝てますし」


 心配そうな顔をする木の盾ちゃん。


「まぁ、主人殿も今では立派な“欲付き”の錬金術師だ。最近は知名度も上がってきているようだし、中々以前のようにのんびりもしていられないのだろう」


 誇らしげに、けれど少し心配そうに。

 そんな顔でお店の方を見るロングソードさん。


「何だか嬉しいような寂しいようなですね」


 私も同じような気持ちでお店を見つめます。



 ――丁度その時、お店のドアを開けたご主人様が中から顔を出しました。



「なんだ、賑やかだと思ったらみんな帰ってたのか! お使いお疲れ様!」


 いつものようににっこり笑ってくれますが、確かにその顔はどこかお疲れのようです。


「荷物は中に置けばいいかい」


 シスターが両肩に担いだ荷物を持ったまま店内に向かいます。


「うぉ! まさかシスター、自力で持ってきたの!? 荷車あったでしょ!?」


 驚いて手伝おうとするご主人様。

 けれど、荷物受け取った持った瞬間、重さに耐え切れずそのまま前から床に倒れ込みそうになり再びシスターに荷物を取り上げられます。


「おぉ、気をつけなよ。インゴッドが山程入ってるからな」


「ま、マジか……」


 シスター、軽々と持ってましたが実はそんなに重いんですね……。さすがです。



「あら、お帰り! 暑かったでしょ? 冷たいお茶あるわよ」


 店の中から様子を見にきたティンクさんが皆を中に入れてくれました。

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