07-08 何も出来ない主人でごめん
「ち、ちょっと!? どうなってるのよ!? シスターかなりお怒りみたいだけど、アンタ何やらかしたのよ!?」
俺の手を引いて起こしながらティンクがやや皮肉混じりに問いかけてくる。
「違うわっ! ……やられた! ――呪いだ。完全に正気を失ってる。俺を庇ってくれて……」
自分で言っておきながら、アイテムさん達に助けられっぱなしの自分が情けなくなってくる。
「え、えぇ!? 聖水が呪われるの!?」
「普通なら考えにくいけど……そんな事言ったら聖水が十字架で魔物を袋叩きにしないだろ!」
シスター……呪いなら任せとけって言ってたんだけどな。
解呪は得意でも、まさか自分自身が呪われる想定なんてしてなかったんだろう。
「――とにかく、逃げるぞ!」
ティンクと手分けしてちびっ子達を抱き起すと、一気に玄関まで走る!
……玄関ドアのノブに手をかけて力一杯捻るけれど――さっきまで開いていたはずのドアがビクともしない!
「――!? 嘘だろ!? さっきは開いてただろ!?」
そうこうらしてるうちに、2階の廊下からシスターが飛び降りてくる!
床を突き抜かんばかりの轟音を立てて着地すると、ゆっくりとこっちへ歩いてくる。
「おいおい、ウソだろ!? ……くそ、玄関がダメなら――」
近くにあった椅子を手に取り、振りかぶると窓に向かって力一杯ぶん投げる。
綺麗に窓のど真ん中へ命中したはずだけれど、椅子が弾き返されるだけで窓はびくともしない。
――マジか! 結界の類いか!?
ドスドスと足音を響かせて迫るシスター。
怪我をしているちびっ子達を背後に庇い、ティンクが前に出る。
俺もその辺に転がっていた角材を持ちシスターに向かって構える。
あのシスターを相手にどこまでやれるか!?
――別に勝てなくてもいいんだ。
どうにか朝まで耐え切ればこの手の呪いは解けるはず。
とは言え……
ゾンビを蹴散らして暴れ回るシスターの姿が脳裏をよぎる。
あんなの相手に夜明けまで数時間、どうやって耐え切れってんだ……。
――そんな俺たちの前に、ふと歩み出る影が。
「――シルバーソードさん!?」
腰に携えた剣を抜き去りシスターに向かって構えるシルバーソードさん。
「無茶だって! 下がって!」
「――わ、私が下がったら誰が戦うんですか!? この中で“武器”は私だけですよ!」
……そうは言うけれど、剣を構える手は震え、足もガクガクだ。
身につけたハーフプレートがカタカタと小刻みに金属音を上げる。
「それはそうだけど、誰だって得意不得意はあるから――」
「私だってやれます! 私だって――」
今にも泣き出してへたり込みそうなのを我慢し、精一杯強がっているのが分かる。
でも、あんな構えじゃ――
シルバーソードさん目掛けて容赦なく飛びかかるシスター!
「ひぃ……」
思った通り全く身動きがとれず、目を瞑ってしゃがみ込むシルバーソードさん!
ヤバイ!!
どうにか飛び込んで、シルバーソードさんを抱え床を転がる!
――間一髪!
空振りしたシスターの一撃が、背後にあった棚を粉砕する!
ティンクがちびっ子を抱えて避けてくれたらしく、みんなも無事だ。
「ま、マグナスさん!?」
驚いて俺の顔を見つめるシルバーソードさん。
「大丈夫!? さぁ、立って!」
シルバーソードさんの手を掴み、引き起こそうそうとするが――
「――っつ!!」
足首に激痛が走る!
しまった……!
避けたと思ったけれど、今の一撃、軽く掠ったみたいだ。
もう少しズレてたら足が吹っ飛んでたんじゃないかと思うと、ゾッとする。
「マグナスさん! 大丈夫ですか!?」
シルバーソードさんが、代わりに俺を抱き起こしてくれる。
『ァアア……オオォォ!!』
ゆっくりと身体を起こし、体制を立て直すシスター。
これはマズイな……。
「……みんな、魔力は残りどれくらいだ!?」
その場の全員に聞こえるように叫ぶ。
「わ、私と木の盾ちゃんはまだ暫く持ちます!」
「わ、私はもう暫くだけ」
ちびっ子達はいつもの感じからするとあと1,2時間程か。
シルバーソードさんは1時間もかからないだろう。
「――俺が囮になってなるべく引きつけるから、みんな魔力が切れるまで何処かに隠れててくれ! ティンク――悪いけどお前は朝までどうにか逃げ切れ!」
大丈夫だ。
アイテムさん達は魔力さえ切れれば無事に逃げ切れる。
ティンクだけが心配だけれど……広い屋敷だ。
どうにか陽の光が刺す朝まで耐えてくれれば――これしかない!
覚悟を決め、シスターの前へと歩み出る。
……けれど、そんな俺の作戦なんかお構いなしに、ちびっ子達が俺の傍らへと足を引きずりながらやってくる。
「そろそろ本気で怒りますよ、ご主人様!」
「はい! これ以上私達を馬鹿にするならご主人様だって許しませんから!」
そう言って俺の前に立ちはだかるちびっ子達。
「ご主人様を置いて逃げ出す“アイテム”が何処にいるっていうんですか!」
「そうですよ! 大切にしてくれるのは嬉しいですけど、使ってくれる主の居なくなったアイテムの気持ちも考えてみてください!」
いつもただ騒がしいだけど思ってた2人が、この状況で一切怖がることもなく立派に使命を果たそうとしている。
「お前達……」
勇ましいちびっ子達の姿に思わず視界が潤む。
突然グラリと身体が揺れる。
気づくとティンクが俺の肩を抱えていた。
「私だって、あんたに死なれたら衣食住に困るのよ。何が何でも一緒に朝まで逃げ切るわよ!」
「……お前の理由はそれかよ」
思わず情け無い笑が出る。
けれど、やっぱり頼りになる“相棒”だぜ。
「――悪い、皆んな。何も出来ない主人でごめん」
「なに言ってるんですか!」
「そんなご主人様を助けるのが私達の使命です!」
2人が言い終わると同時に、十字架を振りかざし飛びかかってくるシスター!
その一撃を受けて、木の盾ちゃんの小さな身体が吹き飛ぶ! たった一撃で手に持っていた木の盾が真っ二つに砕け散るってしまった。
その様子を見て一瞬絶望の表情を浮かべるけれど、ぐっと堪えてシスターの前に駆け出る麻の服ちゃん。
と、同時にティンクが俺の肩を抱き走り始める。
「ほら! 行くわよ!!」
ティンクに引っ張られつつ、背後を振り返ると……大きく手を広げて動こうとしない麻の服ちゃんにわシスターが十字架を振り上げる所だった。
目を閉じてグッと小さな身体をこわばませる麻の服ちゃん!
……ダメだ! やめてくれ!!
――思わずティンクの手を振り解く。
我ながら、皆んなの気持ちを踏み躙るような愚かな行動だとは思う。
でも、やっぱり無理だ!!
いくら『また作ればいい』って言われても、やっぱり大切にしてるものが目の前で無惨に壊されるのを見て見ぬふりなんて出来ねぇんだよ――!!
ティンクが後ろで何か叫んでるけど、夢中で聞こえない。
足の痛みなんか忘れて麻の服ちゃんに駆け寄る。
……けれど、足がもつれてその場に倒れ込む。
そんな俺を抱えてどうにか連れて行こうとするティンク。
そして……
そんな俺の目の前で、麻の服ちゃんが無惨にも叩き潰される――




