07-06 1階はいいけど……2階は
外から見た印象通り、屋敷の中はかなりの広さがありそうだ。
さすがにロンドのジェルマン邸程の規模ではないけれど、それでもさっきから既に部屋を3、4つは確認している。
しかしまだ目的の絵は見つからない。
「ご主人様、そう言えば探してる絵ってどんなものなんですか?」
木の盾ちゃんが俺の顔を覗き込んで問いかけてくる。
「んん? あ、いけね。皆んなにはまだ伝えてなかったな。『死者と生者を分つモノ』ってタイトルで、なんか骸骨が額縁の外に向かって手を伸ばしてるような絵だって言ってたぞ」
「げ、何よその趣味の悪い絵」
ティンクが気味悪そうに顔をしかめる。
「さぁな。あの依頼人、必要最低限の事以外は何も喋ってくれなかったらからなぁ。それ以上の事は聞き出せなかった」
「まさかその絵……呪われてたりして?」
そう言って、隣で震えているシルバーソードさんの顔を悪戯に覗き込むティンク。
「こ、怖い事言わないで下さいよぉ!」
ただでも泣き出しそうなのに、涙目になってアワアワと震えるシルバーソードさん。
こら、イジメるんじゃない!
「なに、安心しな! 呪いは得意分野だよ! アタシに任せればイチコロさね!」
そう言って逞しい力拳を見せてくれるシスター。
た、確かに呪いくらいイチコロなんだろうが、何だか肝心の絵画までタダでは済まない気がする。
シスターにお願いするのは最悪の場合と考えておこう。
……
食堂、迎賓室、寝室――次々と見て回るけれど、それらしい絵画は見つからない。
館の中を一周したらしく、元のエントランスホールに戻ってきてしまった。
「……あれ? 無かったですね?」
「おかしいわね。見逃した所は無いはずだけど……」
首を傾げる木の盾ちゃんと麻の服ちゃん。
「……1階には無いとなると――」
ティンクが階段の方へ視線を向ける。
「やれやれ、2階か」
さっそく階段へ向かおうとしたとき――
「ちょっと待ちな。……ここからはアタシが先に行くよ」
そう言って俺の肩を掴むとズイと前に出るシスター。
さっきまで絵画探しには興味なさそうに後ろから着いてくるだけだったのに……
「……あの、どうかしたんですか?」
「分からないかい。この屋敷、2階は1階と比べ物にならない程の怨念が渦巻いてるよ。1階だけで事が済むなら嬢ちゃん達を無闇にビビらせる事もないと思って黙ってたんだけどね」
皆んなへ視線を送るシスター。
「ええええ、ほ、ホントですか!? や、やめましょうよマグナスさん! シスターが言う程だから危ないんですって!」
涙を浮かべながら俺に縋りつくシルバーソードさん。
「そうは言ってもなぁ。もし本当に危険なんだとしたら尚更放っておけないぞ。街からも割と近いし、新人冒険者でも迂闊に入り込んで大事になったら大変だからな。俺たちにはシスターも居るし今のうちに何とかしておくべきだろ」
「はっは! よく言った! さすがアタシのお気に入りだ! 肝が据わってるじゃないか!」
そう言ってバンバンと俺の背中を豪快に叩くシスター。
背骨が折れるかと思った。
「驚かせて悪かった。まぁ、怖い奴らはここで待ってな。アタシだけでも十分だからさ!」
そう言って階段を昇り始めるシスター。
「いや、さすがにシスターだけを行かせる訳にいかないだろ。俺も行くよ。他の皆んなはここで待っててくれ」
慌ててシスターの後を追う。
「ち、ちょっと! あんただけで大丈夫!? 私も……」
ティンクも後を追って来ようとする。
「いや、お前は他の皆んなを頼む! 直ぐ戻るから」
取り残されて不安そうにしているちびっ子達と、声もなく泣きべそをかいてるシルバーソードさんへ目を向ける。
それを見て少し困ったように戸惑いつつも、頷きみんなの元へと戻っていくティンク。
(皆んなを頼むぜ)
俺も頷き返し、急いでシスターに追いつく。
「なんだい! 肝が据わってる上に男気まで見せて! ますます気に入ったよ!」
そう言ってシスターが、がっしりとした上腕二頭筋で俺の肩を抱く。
鋼のような筋肉が俺の首をメキメキと締め上げてくる。く、苦しい!
腕をパンパンとタップしてどうにか熱い抱擁を解いてもらう。
一段昇る度に階段がギシギシと音を立てて軋む。
踊り場まで昇ったところで、ふと壁にかけられた大きな肖像画へ目をやる。
破れて顔が無いにも関わらず、何だかじっとりとした目線で見下ろされているような気がして気味が悪い。
そのまま階段を昇り切り、吹き抜けを囲うようにぐるりと回る空中廊下を歩き一度下のティンク達を見る。
皆んな不安そうに俺たちを見上げている。
「大丈夫だ、直ぐ戻るから! もし何かあったら……俺たちの事は気にせずに直ぐに逃げろ。あ、シルバーソードさんの事よろしく頼むぞ!」
怖がりなシルバーソードさんなら、何かあったらその場で泡を吹いて気絶しかねない。
あいつらの事だからパニクったら気づかずにそのまま置いて行きそうだしな……。
「わ、分かりました!」
「シルバーソードのお姉ちゃんは私達がしっかり守ります!」
そう言ってシルバーソードさんの両手をそれぞれギュッと握る麻の服ちゃんと木の盾ちゃん。
頼もしい限りだ。そう思うと思わず口元が緩む。
「さ、それじゃこっちも気合い入れて行くよ!」
息巻くシスターに続いて、エントランスホールを後にする。




