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01-03 初めて錬成したのは……赤髪の少女!?

「ふぅ……さて、と」


 コレクション(エロ本)を一通りじっくりと堪能し終え、おもむろに腰を上げる。


 肝心の錬金術も久々に試しておこう。


 錬金術は、じいちゃんがエロい事以外に教えてくれた数少ない物の1つだ。



 竈に乗せられた大きな"練金釜"の前に立つ。


 錬金釜とは、言うなれば錬金術師の"化身"であり、その歩んできた"歴史"だ。

 長年使い込む事で、術士の特徴や趣向、それに魔力の癖やその想いに至るまでもを取り込み、世界に2つとないオリジナルの釜に成長していくと言われている。


 釜を受け継ぐという事は即ち、錬金術の“踏襲(とうしゅう)”を意味する。


 ……そう思うと何だか緊張してくるな。


 晩年は落ち目だったとはいえ、元王宮錬金術師"賢人マクスウェル"の釜か。


 じいちゃんと一緒に錬金術の練習をしていた時には何とも思わなかったけれど、いざこうして独りで釜の前に立つとその偉大さに気後れしてしまう。


 使い始める前に改めて釜をよく見るとピカピカに磨き上げられている事に気づく。

 じいちゃんが毎日のように使ってた頃は、頑固に焦げついてて表面なんかいつもガサガサだったのに。


 ……じいちゃん、最期に綺麗にしてくれたんだろうか。

 釜の内側なんか特にツヤツヤで光沢さえある。


(ん……? これ、内側……焦げ付かないようにコーティングでもしてくれてあんのか??)


 まぁ、何にせよ直ぐに使えるように手入れしてくれてあったのはありがたい。

 さっそく、じいちゃんから最初に習った錬金術の初歩【回復のポーション】を作ってみる事に。


 素材は……

 ・薬草

 ・満月草

 ・綺麗な水

 それと、仕上がった薬品を詰める瓶。


 薬草は確か棚にストックがあったな。

 水は裏の小川で汲んで来るとして、満月草もたしかその辺に生えてたはず。

 ……よし、いけそうだ!


 バケツを持って裏の小川まで何往復かし、まずは触媒となる綺麗な水を釜いっぱいに満たす。

 その辺で手ごろな満月草を摘んできた後、釜に火をくべる。


 火の様子を眺めていると、主を亡くして静まり返っていた工房が俄かに活気だってきたような気がしてきた。

 ……おっと、確か薬草は低温のうちから入れるのがコツだったよな。

 直ぐに薬草を一束放り込む。



 錬金術は"特性"の重ね合わせだ。


 回復のポーションの場合――

 薬草の"回復"の特性に、満月草の"即効性"の特性を掛け合わせて作成する。


 薬草には元々傷を癒す力がある。

 そのまますり潰して傷口に塗りたくってもそれなりの効果はあるんだけれど、戦闘中に中々そんな余裕は無い。

 対して回復のポーションの場合、さっと飲むだけで外傷や体力を即座に回復する事が出来る。

 こんな感じで、アイテムが持つ"特性"を組み合わせてより便利なアイテムに変換するのが"錬金術"の基本って訳だ。


 基本をおさらいしつつ、釜の様子を伺う。

 

(これだけの量の水を沸騰させるんだ、結構な時間がかかりそうだな)


 薪の火力を上げるために、戸棚にあった紅火草(こうかそう)の枯葉を加える。

 すると竈の火が一気に勢いを増す。

 よし、これならじきに沸騰するだろう。


 椅子を持ってきて竈の前に置くと、机からお気に入りのコレクション(エロ本)を持ってきてどっかりと腰掛ける。

 暫し読書(エロ本)に気を取られているうちに、水が沸騰し危うく吹きこぼれる所だった。


 慌てて火力を落とし、満月草を加えてよくかき混ぜる。

 全体的に淡い緑色になってくれば頃合いだ。


 ガラス瓶を釜の中に放り込み、最後に魔力を込めて回復のポーションの魔法(レシピ)を発動する!


 その瞬間――眩い閃光が放たれ、釜の中から薬瓶が飛び出して来る。

 それをパシッと掴み取る。


 見たか! これが"錬金術"!!


 仕上がったのは淡い緑色をした回復のポーションーー



 ……ではなく、真紅のドロドロとした液体が入った謎の瓶だった!?



 「な、なんだこれ? 何かミスったか!?」


 それとも……赤色ってことは最上位の【エクスポーション】?

 じいちゃんの釜だから凄い魔力が篭ってたとか……?



 ダメだ。

 考えても俺の知識じゃ分かりそうにない。とりあえず瓶の口を開けて恐る恐る臭いを嗅いでみる。


 特に悪臭はしない。

 しいて言うなら……何か鉄臭い?


 釜の様子を見ると……あれ!?

 さっきまでピカピカだったのに、釜の内側が真っ黒になっている。

 施してあったコーティングが落ちたのか……? きっとコーティングの成分が変に水に溶け込んだんだな。

 大丈夫かな……。


 ――まぁ、物は試しだ!

 素材もそんなに怪しい物も入れてないし死にはしないだろ!


 じいちゃんもよく


 『物は試し! 探求心無くして錬金術は成り立たぬ!』


 とか言って散々ヤバそうな薬飲んでたし。

(まぁ、それで失敗して何度も酷い目に遭ってたけど……)


 もしヤバそうなら吐き出せばいい。せっかく作ったんだ!

 

 思い切って一口!


 ……


 (――まっず!!)


 何だこれ!!?

 回復のポーションなら、ハッカのような爽やかな味がするはず。

 なのにこれは……鉄臭い味が口の中いっぱに広がる。


 そう、例えるなら……血の味だ!!



 我慢出来ず、口の中の液体を床に吐き出す。

 それと同時に、手が滑って持っていた瓶を落として割ってしまった。


 くそ、最悪だ……!

 けど今はそんな事気にしてる場合じゃない!


 水が飲みたくて慌ててバケツに駆け寄る――が、空っぽ。

 しまった、少し残しとけばよかった!!


 口を押えてそのまま裏の小川へと全力で駆け出す。



 ………



「あー、酷い目にあった」


 小川の水で何度もうがいをして、ようやく口の中から変な味は消えた。

 じいちゃんも同じような事やって時折のたうち回ってたけど、あれはある程度耐性の付いた変態のみ成せる技だな。

 今度から訳の分からん薬品を迂闊に口にするのは辞めよう……。


 当たり前の事を今更強く自分と約束し、ぐったりとしつつ工房のドアを開ける。



 中に入ると……たった数分留守にしただけのはずなのに工房内にとんでもない事が起きていた。

 俺の目に飛び込んできた信じられない光景。



 錬金釜の前、さっき薬品を溢した辺りに――人が倒れている。



「は? ――はぁ!?」


 慌てて駆け寄り様子を伺う。


 見知らぬ少女だ。

 歳は俺と同じか、少し年上だろうか。


 腰まである真っ赤な髪。

 ややウェーブがかったその髪は、窓から差し込む陽光を受けまるで燃え盛る炎のように鮮やかな輝きを放つ。


 うつ伏せの状態で床に横たわり、顔だけをこちらに向けて目を瞑っている。

 色白で小さなその顔はまるで繊細な工芸品のように可憐で、ともすれば生気を感じさせないような現実離れした美しさだ。


 物凄い美人。

 そして何より――全裸じゃねぇか!!


「し……死体、じゃないよな!?」


 今この場を誰かに見つかったら間違いなく騎士団に通報されるだろう。

 その場合、何をどう言い訳しても投獄は免れないような気がする。


 恐る恐る近づくと、肩が規則的に上下しているのが分かった。

 よかった……息はしているようだ。


 それにしても……


 先に断っておくが、これは男としての本能だ。

 本能から来る条件反射とでも言うか……つまり仕方のない事なんだ。


 つい……胸の方へと視線が向く。


 うつ伏せになっているせいで自重に押しつぶされ、その豊満なバストが苦しそうに横からはみ出している。


(ラ、ラージスライム!!)


 咄嗟に、草原なんかで時折り出くわす大型のスライムを思い出す。

 いかんいかん!! 魔物なんかと比較するなんて失礼じゃないか!

 慌てて胸から視線を逸らす。


 そんな狂暴な胸とは裏腹に、腰から足に掛けてはほっそりとしていて、特に腰の括れが色っぽくて……こ、これは!? じいちゃんのコレクションの中で見た「痩せ巨乳」という奴だ!!

 レア度SSSのナイスバディじゃねぇか!!


 ――って違ーーう!!


 あまりの刺激的な光景に思わず吹き飛びそうになる理性を必死に手繰り寄せ、棚に掛けてあったクロスを引っぺがしバサリと少女へ掛ける。


「と、とりあえず何か着る物。適当な服でも錬成しよう」


 どう考えても意識の確認や外傷の心配をするべきだが、女性の裸というものに耐性ゼロだった俺はとにかく何か着せなければと思い立ち錬金釜の前に立つのだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

【回復のポーション】

 体力を少量回復する最も初歩的な魔法薬。

 淡い緑色の液体で爽やかな飲み心地。

 戦闘で傷ついた体を癒すのに使うのが基本だが、二日酔いや風邪薬の代用品として飲む冒険者が後を絶たない。本来そんな症状に効果は無いはずなのだが『効くっちゃぁ効く』らしい。プラシーボ効果って偉大。


【エクスポーション】

 体力を大幅に回復する最上位の回復ポーション。

 貴重な材料をふんだんに使っており、それなりのお値段張る。

 そのため村の小さな錬金術屋では扱っていない事もある。ここまでくるとさすがに二日酔い程度で飲む人は居ない。

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