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04-08 草原のラミア退治

 翌朝。



 遠くから聞こえて来る牛の鳴き声で目が覚めた。


 2階にある寝室の窓からは遠くまで続く草原が一望出来る。

 天気は快晴。なんとも清々しい牧場の朝だ。



「おはよう、よく眠れた?」


 1階に降りると、ナーニャさんが朝ご飯の準備をしている所だった。


「はい、ぐっすりでした!」


「ふふ、よかった。丁度起こしに行こうと思ってたとこだったの」


 白シャツに藍染のパンツでテキパキとキッチンを動き回るナーニャさん。

 昨晩の気怠くて甘い雰囲気とはまるで別人だ。


「さ、朝ご飯だよ。座って座って」


 食卓には彩り鮮やかなサラダと、コンガリと焼けたトースト、それとチーズとフルーツが並ぶ。



「「いただきます」」


 熱々のトーストを頬張る。

 芳醇な小麦の味がフワリと広がる。


 よく冷えたミルクを一口。

 モリノで飲む物よりも断然に濃厚で、同じ飲み物だとは思えないその美味しさに驚く。



「――どう? 私のミルク。美味しいでしょ?」


 “私のミルク”!?


 爽やかな朝の雰囲気で油断してた所に突如として登場した官能的なセリフ!!


 口にふくんだミルクを思わず吹き出しそうになる。


「たまに牧場のお手伝いで搾乳とかやるんだ。牛さんって、上手に絞ってあげると美味しいミルクを出してくれるんだって。私が絞ると美味しいミルクが採れるって評判なんだよ」


 そう言ってミルクをグッと飲み干すナーニャさん。


 私のミルクって。私の絞ったミルクね。

 び、びっくりした。


 コップの中に残ったミルクをじっと見つめる。

 わ、分かってるさ。これは牛乳。

 そうは分かったものの……


『私のミルク』


 牛乳を飲むだけで何興奮してんだ俺!?

 こんな調子で数日待つのかな……


 ……


「それじゃ、行ってきます!」


「本当に1人で大丈夫? 危ないと思ったら直ぐに逃げるのよ。この辺の魔物はそんなに執念深く無いし逃げれば深追いはしてこないはずだから」


「分かりました!」


「はい、これお弁当」


 可愛いランチクロスに包まれたお弁当箱を受け取る。


「それにしても助かるわ。最近ラミアが多くて皆んな困ってたから」


 最近季節柄もありラミアの出没が増えてきて周辺の牧場の人たちも困っているらしい。

 人が襲われる事は稀だけれども、牛や羊などの家畜がよく狙われるそうだ。


 俺は素材が手に入るし、牧場の人達は厄介な魔物を退治してもらえて助かる。一石二鳥ってやつだな。


「じゃ、行ってきます!」


 家を後にして、ラミアが良く出ると言う岩場を目指す。



 ――



 家から十分に離れた所で木の盾ちゃんのポーションを地面に撒く。


「わぁ……ここがソーゲン公国ですか。モリノとは全然違うんですねぇ」


 目の前に広がる草原を見て目を丸くする木の盾ちゃん。

 ちなみに今回の遠征の話はモリノを旅立つ前に済ませてある。


「あぁ。俺も驚いたよ。馬車で1日走るだけでこうも雰囲気が違うとはなぁ」


「麻の服ちゃんにも見せてあげたかったなぁ」


「そうだな。ティンク1人だと何かと大変かと思っていざと言うときの為に置いてきたけど……悪い事したな」


「あ、でも……」


 俺にピッタリとくっついて来る木の盾ちゃん。


「ご主人様と2人きりなんてあんまり無いから私は少し嬉しいです。私1人でもしっかりとお守りしますからね」


 そう言って少し恥ずかしそうにはにかむ木の盾ちゃん。ヤバい。かなり可愛い。


 あーこれ、完全に昨日のお祈りが神様に届きまくってるな。詳しくは存じませんが、ありがとうございますソーゲンの神様。あなたいい人だ。


 木の盾ちゃんとお喋りしながら草原の真ん中にあるという岩場を目指す。



 道中、スライムやワイルドマウスなど小さな魔物が何匹か出たけれど、木の盾ちゃんと協力して難なく撃破。

 ロングソードさんとの特訓の成果もあってか、俺も多少は闘えるようになったみたいだ。



 一時間程歩いて、大きな岩がいくつも転がっていているエリアに辿り着いた。

 この辺は魔物が多く住み着いているそうで、地元の人は冒険者でも無い限り滅多に近寄らないらしい。

 周りを見渡しても確かに人影は無い。


 岩陰に身を潜めながら辺りを見て回る。

 これと言って変わって様子も無いけれど、本当にここで合ってるのか?


 ……あ、せっかく来たんだし何か素材になりそうな物も探して行くか。


 そんな事を考えてふとしゃがみ込んだ時――


「ご主人様! 危ない!!」


 木の盾ちゃんが慌てて俺の背後に回り込む。

 岩陰から飛び出して来た何かを盾で受け止め払い除ける!


 吹き飛ばされてもがきながら態勢を立て直すその姿は……蛇の下半身に人の女性の上半身を持つ魔物――“ラミア”だ!


 人の形はしているが、無論人語が通じるような相手ではない。

 長い舌をチロチロとチラつかせながら真っ赤な目でこっちを威嚇している。


「お怪我はありませんか!?」


「助かった、サンキュー木の盾ちゃん!」


「いえ! それにしても、中々すばしっこいですね。これは――」


「――危ねぇ!」


 木の盾ちゃんを抱えて横っ飛びで咄嗟にかわす。


 最初のラミアに気を取られていたら、いつのまにか横の岩陰から別のラミアが飛び出して来た。


 おいおい、ここはラミアの巣かよ……


 だが、探し回る時間を省けるというのはこっちにとっても好都合だ。


 ロングソードのポーションを地面に撒く。


「我が主よ、随分と賑やかじゃないか」


 現れたロングソードさんが、金切音を響かせて颯爽と剣を抜き去る。


「――行けそうですか!?」


「問題無い! 木の盾殿、しっかりと主の護衛を頼むぞ!」


「分かりました!」



 ――



 木の盾ちゃんと一緒に、地面に転がった鱗を拾い集める。


 ロングソードさん。まぁ強い強い。

 飛びかかって来るラミア達を次々と一刀両断。

 ロングソードさん曰く、ここのラミアは通常よりも小型ですばしっこい代わりに防御力や攻撃力は大した事が無かったらしい。

 そんな事を言い残して光と共に去って行ったロングソードさん。マジかっこいいわ。


 拾い上げた鱗を太陽にかざして見る。

 薄いピンク色を帯びた半透明の鱗がキラキラと太陽の光を反射する。


「これくらい集まれば大丈夫ですかね?」


「ああ、充分だろ!」


 せっかくロングソードさんが辺りのラミアを一掃してくれたので、午後からはこの辺りの素材も集めて帰る事にした。


 一旦休憩して、ナーニャさんが持たせてくれたお弁当を木の盾ちゃんと分けて食べる。

 アイテムさん達に食事が必要なのかは分からないが、多少なりと魔力の補充になるらしく出現していられる時間が少し延びるらしい。

 そんな事よりも、俺たちと一緒で美味しい物を食べれば幸せだし、長い時間出現していればお腹も減るそうなのでそれならば効果があろうと無かろうと食事を共にする価値は大いにあると思う。


 新鮮野菜と卵のサンドイッチを堪能した後、袋がパンパンになるまで素材採取をして帰路に着いた。

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