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ex02-13 はじめての悪事

 翌日――



 第二試合は筆記試験による学力対決。


 錬金術の問題なら負ける気はしないんだけれど、あいにく出題は政治学や帝王学、税務関係なんかがメイン。

 まぁ貴族同士の対決なんだからそりゃそうか。



 結果は――勿論完敗。


 まぁ、そもそも作戦上第二試合を白星にする訳にもいかないし、どのみち今日は捨て勝負だった。

 とは言え……


「マグナスさん……さすがにもう少し錬金術以外もお勉強されたほうが……」


 と、味方のカトレアにまで心配される始末。

 ち、違う。万が一にも勝ってしまわないようにあえて誤答しまくったんだからな!

 ほ、本当に。



 さて、これで1勝1敗。

 決闘の行方は明日の最終試合に掛かって来るわけだが――俺たちにとってそれはどうでも良い。


 重要なのはこの後、夜の食事会だ。


 いよいよ作戦決行。

 カトレアがヘンブリーの食事に薬を仕込む算段になっている。


 カトレア、上手くやってくれよ……



 ―――



 夕刻――


 ファンフォシル家の厨房はパニックさながらの慌ただしさになっていた。


 勝利を納めたヘンブリーお坊ちゃんが、上機嫌で街からあれやこれやと勝手に高級食材を仕入れてきたもんだから、コックもメイドもてんやわんや。

 まだ1勝1敗だというのに祝賀会でもやろうというつもりなのか。


 昨日の穏やかな夕食とは打って変わり、ベテランから新人まで総出で夕食の準備に取り掛かる。



「皆さん、ご苦労様です。……料理長さん、無理を言ってごめんなさいね」


 厨房に現れたカトレアが一際高いコック帽を被ったシェフに声を掛ける。


「あぁ、お嬢――当主様! いえいえ、料理人の腕がなるというもんですよ!」


 料理の手を止めないまま笑顔で応対する料理長。


「うわ、凄く豪華な食材ばかりですね。全部ヘンブリー様から?」


「えぇ。そうなんですけど――ここだけの話。あのお方、これだけ大量の食材を差し入れだと届けさせておきながら、ご自身は好き嫌いが多くて殆ど食べられないとか」


 料理長が声を顰めてカトレアに耳打ちする。


「え、そうなんですか?」


「はい。お陰様でヘンブリー様の分だけ個別調理ですよ」


 そう言って傍にあるテーブルに並んだスープ皿に目配せする。

 見ると1つの皿だけが離して置かれている。


「……! そ、そうなんですね。それはお手数をお掛けしました」


「いえいえ、当主様のせいではありませんから。――さ、もうじき晩餐のお時間です。客間へお戻り下さい。――あ、そこ! あんまり焼き過ぎるなよ!」


 忙しい中無理をして付き合ってくれていたのか、話を切り上げるとバタバタとその場を離れていく料理長。



 その隙に――


(ごめんなさい!)


 カトレアが裾元から小瓶を取り出し中の液体を数滴スープに投入する。


 キョロキョロと周りを見渡すが……幸い誰にも気づかれていないようだ。


(こ、これで良いのよね――!?)


 こんな場合、プロ(?)ならば何事もなかったかのように立ち去るのだろうが、元来悪い事なんかイタズラくらいしかした事のないカトレア。

 見るからに不審な挙動でオロオロとその場を去って行く。



 ……その後暫くして。


 料理長がスープ皿をトレーに乗せる。


「おい新人! こっち手伝ってくれ!」


「はい!」


 料理長に呼ばれた若いメイドがトレーを受け取る。


「それじゃこのスープから運んでくれ。いいか、手前のがヘンブリー様用だ。間違えずに給事係に渡すんだぞ!」


「わかりました!」


 元気よく挨拶すると、ガチャガチャとトレーを揺らしながら足早に部屋から出て行く。


「おい! 零すなよ!」


 料理長が背後から声をかけるが、彼女の耳には入っていない様子。


(大丈夫かな……。俺が直接運んだ方が良かったか……?)


 不安になり軽く頭を押さえる。

 というのも彼女、つい先日雇われたばかりの新人なのだが、まだ仕事も慣れないうちにこんな大きな来賓を迎える事となり、本人なりにテンパりながらも張り切っている。


「根はいい子なんだがいかんせん落ち着きがなぁ……」


 メイドとしては致命的とも思える性格のようだが、料理長の心配を他所に彼女は自信満々な顔で料理を運ぶのだった。



 ――



 貴賓室前の廊下。


「先輩! 最初の料理運んできました!」


 新人メイドが、扉の側で控えていた先輩メイドへと運んできたトレイを引き渡す。


「しっ! 声が大きい! もう中で皆さん御歓談されてるんだから!」


「ご、ごめんなさい!」


 慌てて声のトーンを下げ謝る新人メイド。


「次から気をつければ大丈夫よ。――で、ヘンブリー様のお食事はどれ?」


「あ! 手前のです!」


「手前のって……あなたから見て? 私から見て?」


「あ、えと……」

(え? 確か私から見て……よね。あれ、そういえば……料理長さんが言ってたのって私から見て、だよね? そ、それとも料理長さんから見て?)


「? どうしたのよ、なに固まってるの? ……まさかちゃんと聞いてこなかったの?」


「あ、いえ、そんなことは!」

(どうしよー。分かりませんとは言えないし……)


 手に持ったトレーを眺めたまま固まる新人メイド。


(まぁ、アレルギーとかじゃなくて単に好き嫌いの話だって聞いてるし。ここは天に運を任せて――)

「こっちです! こっちがヘンブリー様のです」


「……」


 あからさまに疑った目を向ける先輩メイド。


「ほ、本当ですよ!」


 必死に弁解する新人メイドを見てクスリと笑う。


「分かったわよ。後は私がやっとくから厨房に戻って」


「は、はい!」


 元気よく走り去って行く新人メイド。

 その後ろ姿をヤレヤレといった様子で見送る先輩メイドだった。


(ま、違いはほんの隠し味程度の差だって聞いてるし。――万が一、カトレアさまのお婿様になられたとして、毎回我儘言われてもたまらないしね。ここはファンフォシル家の厳しさを教えてあげましょ)

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