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ex02-09 ノウムの御曹子

 中庭の見える明るい貴賓室。

 備え付けられた立派なテーブルを、カトレアも交え4人で囲む。


「カトレア、例の薬は持ってるな?」


 周囲に誰も居ない事を確認し、カトレアに小声で囁く。


「はい。問題ありません」


 そう言って、大きく開いたドレスの胸元へと手を入れる。

 え、なに? そんな所に入れてるの?


 胸元からそっと小瓶を取り出して見せるカトレア。

 確かに先立って渡しておいた"絶叫の小瓶"だ。

 錬金術の中でもマイナーな妙薬だし周りにバレる事はまず無いとは思ってたが――無事なようで一安心。


 よし、肝心のアイテムに問題はなさそうだ。

 うん、大丈夫。

 もう確認はOK……


 だが、中々カトレアの胸元から視線を外せない。


 ティンクのような狂暴なラージスライムではないが、いかにも育ちのよさそうな程良いスライムが2匹仲良くドレスに包まれている。

 普段露出の少ない服ばかり着ているカトレアだけにこの光景は中々貴重……


「――!! 痛ってぇぇ!!」


 突如足元に激痛が走る。

 慌てて机の下を見ると、ティンクがハイヒールの踵で思いっきり俺の足の甲を踏みつぶしていた!


「あら、ごめん。こんな踵の高い靴履き慣れてなくて」


「お、お前っ……!」


 あまりの痛さに視界が涙で滲む。

 これ、骨に穴空いてないか……?


 悶絶する俺を見て、テーブルの反対側でクスクスと笑うシュー。

 クソっ。あいつもチラッと見てたぞ。



 ――コンコン。


 ドアがノックされ、執事長が姿を見せる。


「――当主様。ヘンブリー様の馬車がご到着致しました」


「……分かりました、私が出迎えます。マグナスさん達はこちらでお待ちください」


 カトレアの顔に緊張が走る。

 いよいよ作戦開始だ――。



 ――



 待つ事数分。

 廊下から賑やかな声が聞こえてくる。


『それにしても素晴らしい邸宅だ! 品がありそれでいて華やかさも欠いていない。ここんな素晴らしい場所で貴女と過ごすことになるのかと思うと今から胸の高鳴りを抑えられませんよ』


『ふふ、ヘンブリー様はご冗談がお上手ですね』


 やがてドアを開け現れたのは、見るからに身なりの良い細身の青年。

 キノコみたいな形の金髪頭、輝く白い歯。

 サファイアのように青い瞳をキラキラと輝かせカトレアに夢中で話しかけている。


 その背後には荷物をかかえたメイドが何人も控え、後ろでは護衛兵が目を光らせる。

 窓から見える様子からして、外にもまだ大量の護衛が居るようだ。


 ……いくら国を超えての来訪とはいえ、坊ちゃま1人にこれだけの御供かよ。

 護衛1,2人だけ連れてフラフラと店に遊びに来るどこぞの姫様にも見せてやりたいもんだ。



「――そうでした! お土産も沢山持ってきたのです。おいジイ! カトレアさんにご説明を」


「かしこまりました」


 青年に指示され、隣に控えていた老執事がメイド達に指示を出す。

 メイドから手渡された小箱をヘンブリーが開けると、中には大きな宝石の付いたネックレスが。


 す、凄ぇ。

 あれ1個で店の売り上げ何カ月分なんだ!?


「ノウム地方で採取された上質な宝石をあしらった物です。他にもいくつか用意して参りましたのでどうぞお納めください」


「あ、ありがとうございます。……ですが、こんなに高価な物を頂く訳には――」


「ご遠慮なく! 近い将来妻となる人のご機嫌を取っておきたい、男の姑息な浅知恵ですよ」


 そう言って白い歯を煌めかせ笑うヘンブリー。

 カトレアは引き攣った笑いを返すしかない。


 しかし、俺も何か手土産の1つでも持ってくるべきだったか?

 用意できて精々菓子折りくらいだが。


 執事長の指示でドレスや骨董品などが次々と運び込まれてくる。


「これはこれは。大層なお心遣い、感謝致します」

「いえ、本日はよろしくお願い致します」


 ファンフォシル家の執事長も加わり、老執事同士挨拶を交わす。

 運び込まれる荷物と行き交いするメイド達で室内はてんやわんやだ。



 その様子をボーっと見ていると――


「初めまして。貴方がマグナス殿ですね」


 声を掛けられ慌てて振り向く。


「ヘンブリー・シャムロックです。お見知り置きを」


 呆気に取られている俺に手を差し出すヘンブリー。


「は、初めまして。マグナス・ペンドライトです」


 その手を取りガッチリと握手を交わす。

 紳士らしく握手を交わしはしたが――両雄並び立たず。

 ここで宣戦布告でも来るか……とは思ったが、案外とあっさり手を離される。

 そして隣のティンクの前に立つと……


「これはまた麗しい姫君だ。ペンドライト家のご令嬢でしょうか?」


 そう言って俺の顔を見る。


「いえ、えっと、侍女です」


「なんと! 驚きました。モリノの女性はこうも美しい方ばかりなのでしょうか」


 目をまん丸にして驚くヘンブリー。

 おいおい、カトレアを前にして……大丈夫か?


「ふふ、ヘンブリー様は女性の喜ばせ方が達者で御座いますね」


 借りてきた猫のように、他所行きの声でティンクが遇らう。


「いや、僕は事実を述べたまでですよ。あぁ! 遥々モリノまで来た甲斐があった!」


 何だか勝手に感動に打ちひしがれているヘンブリー殿。

 登場以来終始ペースを持ってかれっぱなしだ。


「で、では。旅のお疲れもありますでしょうし一度お部屋へご案内致します。ジイヤ、皆さんを客室へ」


「かしこまりました」


 カトレアの指示を受け、メイド達がヘンブリーと俺たちを別々に客室へと案内する。

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