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ex02-08 モリノの大貴族

 決闘当日――

 ファンフォシル家へ向かう馬車の中。


 うちの姉さんから借りたドレスに身を包み、しおらしく隣に座るティンク。

 馬子にも衣装、と言ったら怒り出すだろうけど……まぁ素直に感想を述べるなら――並みの貴族の令嬢に引けを取らない。いや、というかひいき目に見ても断然可愛いだろう。

 俺の従者ということでの同行だが、こりゃさすがに目立ちすぎるんじゃないか?


 そして馬車には同行者がもう1人。

 不服そうな顔で俺の向かいに座る、シューだ。


「なぁ、もう一度確認するが……俺、本当に必要か? もっと他に頼りになりそうな奴が居るだろ?」


 窓にもたれ頬ずえをつきながら不満を漏らす。



「先方は従者やら護衛やらたんまりえてのおいでらしい。そりゃ大貴族だもんな。こっちだって護衛の1人もつけてないと格好がつかないだろ」


「それなら尚更の事、たかが護衛が1人居たところで余計に嘘くさいだけだぜ。むしろ逆効果だ」


「こっちは数より質で勝負なんだよ。実際シューなら並みの兵士10人やそこらじゃ相手にならないだろ?」


「ハッ、上手い事言うぜ。報酬はちゃんと寄越せよ」


 そんな憎まれ口を叩きつつも、実は店に来る度に今日の事を何かと気に掛けていたシューなのだった。



 ―――



 今日の段取りを最終もう一度おさらいし終えた頃、丁度馬車がファンフォシル邸へと到着した。

 立派な白い塀に囲まれた見た目にも美しい邸宅。

 大きさとしてはノウムのジェルマン邸の半分程かもしれないが、いかにも贅を尽くしたといった感じのジェルマン邸とは異なり、木々の緑と調和した何ともセンスの良い外観だ。そういえばモリノの有名な建築士が設計したとか聞いた事があるな。



「ようこそ、マグナス・ペンドライト様」


 馬車から降りると、チュラ島で執事隊の指揮を取っていた老執事が数名のメイドを従え出迎えてくれた。

 落ち着きと品のある立ち振る舞い。おそらくこの人がファンフォシル家の執事長なんだろう。

 ティンクが馬車から降りるのをエスコートし終えるとにこやかに話しかけてくる。


「チュラ島以来ですね、お久しぶりです」


「お久しぶりです。今日は宜しくお願いします」


「はい、こちらこそ」


 胸に手を当て深々と頭を下げる執事長。

 彼に連れられ屋敷の門をくぐる。


 手入れの行き届いた中庭を抜けると、やがて邸宅の玄関が見えてきた。

 塀と同じく白で統一された清楚な佇まい。

 大きなポーチの付いた玄関を潜り中へと案内される。


 玄関ホールは大きな吹き抜けになっており、大きな窓からは明るい日差しが差し込んでいた。

 ピカピカの大理石で埋め尽くされた純白の床には一点の汚れもない。

 天井から吊るされた巨大なシャンデリアが反射する光が宝石のように光の粒を映し出している。


 うちの実家と比べても仕方ないが――さすがに凄いな。



「……しかし驚きました。マグナス様とカトレア様がまさかそのような間柄でしたとは」


 ふと振り返り、執事長がにっこりと笑いながら俺を見る。


「――あ、あはは」


 返す言葉が見つからずひとまず笑って誤魔化す。

 ――そ、そうだった。

 今日は相手陣営は勿論、ファンフォシル家の人達にも不審がられないよう注意しないといけない。

 決闘のことで頭がいっぱいでそっちの対策は深く考えてなかった……!


 俺が次の言葉を出しあぐねていると――


「――これは失礼致しました。無粋な詮索でした。どうかお許しください」


 そう言って深々と頭を下げられる。


「いえ、気にしないでください。それより――」

「――マグナスさん! ティンク!」


 丁度そのとき、ホールに声が響き階上の廊下にカトレアが姿を現した。

 その姿に、一同息を吞む。

 いつも店に来るときは品の良いシンプルなワンピースなんかを着ている事が多いが、今日は艶やかなロングのドレスに身を包んでいる。

 髪も丁寧に結い上げ、その胸には大きな宝石のついたペンダントが輝く。


 ――さすが、良家のお嬢様。

 その華やかさはティンクに負けず劣らず。

 ともすれば一国の姫君にすら見えるかもしれない。

 ……て、そういえば今はもうお嬢様じゃなくて当主様だっけか。


 それにしても……。

 今更だけど、こんな2人を連れてチュラ島みたいな観光地を歩き回ってた訳なんだから……そりゃ人目にもつくわな。



 ハイヒールの音を響かせながら、足速に俺たちの元に駆けつけるカトレア。


「シューさんも、よくおいでくださいました」


 一番近くに居たシューの前に立ちニッコリと笑う。


「お、おぉ」


 一緒戸惑い、顔を背ける素振りを見せるシュー。


「……? どうかなさいましたか?」


「いや、別に」


 よく見るとシューの顔が少し赤い。

 ……ははん。

 確かに、いつもの元気なカトレアとは違い、今日の貴族然とした佇まいのカトレアは品があって大人の女性といった感じだ。


「……。ちょっと、しっかりしてよね護衛!」


 ティンクにバンッと腰を叩かれるシュー。


「痛ってぇ! 別に何でも無いって言ってんだろ」


 そんな俺達のいつも通りのやり取りを見て、カトレアがクスクスと笑い出す。

 そっと俺の傍に顔を寄せると――


(やっぱりマグナスさんに頼んで良かったです。皆んなが来るまでは不安と緊張で泣きそうだったんですよ)


 執事さん達に聞こえないよう小声で囁きいつも通りの笑顔を見せる。


「さぁ、それではご案内します。こちらへどうぞ」


 カトレアに連れられ、貴賓室へと足を運ぶ。


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