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ex02-03 え、俺、結婚するの?

「――はぁぁあ!?」


 俺の絶叫が部屋中にこだまする。


 え?

 待て待て。

 何の話だ?


 テンパってしまい脳で理解する前に反射的に叫んでしまったが……今の父さんの言い方だと俺とカトレアが結婚するかのように聞こえた。


 けど、冷静に考えてそんな筈はない。

 だって当の俺が何も知らないんだから。


 何かの聞き間違いだろう。


 冷静にもう一度確認する。


「へ、へぇ。カトレアお嬢様ご結婚されるんだ。何処の誰と?」


 平静を装い何事も無いかのように問いかけるが……テーブルの向こう側に座る面々はどう考えても“何事も有る”面持ちで俺を睨みつける。


「……マグナスよ、皆まで言な。お嬢様からも『この件は2人の間でもデリケートな話で、もしかしたらマグナスさんは話したがらないかもしれません』とお聞きしている。2人の問題ならばお前が自ら話そうと思うまで私は口にするつもりはない」


 真剣な顔でうんうんと分かったように頷く父さん。

 いやいや、何を理解したってんだよ。


「……だかな」


 あたかも聞き分けの良い父親面をしてた父さんが突然口調を荒げて俯き黙る。


 ――しばし沈黙。


 場を気遣ってか、母さんが横からフォローを入れる。


「マグナス。私もお父さんもカトレアお嬢様との結婚に反対してる訳じゃないのよ。ただ……」


 母さんもそこまで言って迷ったように目を背ける。



「――お前! ティンクさんの事はどうするんだ!!」

 豪を煮やした兄さんがついに爆発する。


 成る程。

 さっき店で叫んでたのはこの事だったのか。


「落ち着きなさいジェイド。だがな――ジェイドの言いたいことは私も分かるぞ! お前、ティンクさんに義理は通したんだろうな!?」


 兄さんを宥めるかと思いきや、思いっきり加勢に加わる父さん。


「そうよ! 確かにカトレアお嬢様も素敵な方ではあるけど、ティンクちゃんみたいないい子は中々居ないわよ!」


「そうよマグナス。女の私から見ても間違いないわ!」


 母さんと姉さんも一斉に畳み掛けてくる。



「ちょっと待て。だから話が全然見えない――」


「マグナス! 色々事情があるのは分かる! けれどティンクさんの――」

「お前、男としてのケジメをだな――」

「ティンクちゃんの淹れてくれるお茶が――」

「私もティンクちゃんみたいな妹が――」

「ワンワンワンワン」


「――うるさーい! 全員一度に喋るな! てか俺の話を聞けぇ!」


 興奮する大人達を一喝しどうにか事情を書き出す。


 まぁ要約すると……

 俺が留守の間にカトレアがお付きの人と一緒に訪ねて来たそうだ。

 俺が帰るまで待つかと聞いたんだが、今日はご挨拶までと。

 その挨拶が、俺との婚姻の件だったというらしい。


 当然俺からは何も聞いてないって話にはなったらしいが、

『え……マグナスさんから何もお話しされていませんか!?』

 と大層驚かれたそうで、慌てて場を取り繕ったらしい。

 ……いやいや、完全にハメられてるから。



 まぁ何にせよ、みんな二言目にはティンク、ティンクと。

 どっちかってと俺の事よりティンクの話ばっかりだ。


 ――あいつ、よっぽど好かれてんだな。

 それだけ俺の家族に良くしてくれてんだろう。


 その点は少し嬉しく思いつつ、何せ話が堂々巡りで埒が開かないので一旦その場を収め逃げるように店へと帰る。



 ――――



「で、どうだった?」


 店に帰るなり、にやけ顔のシューが笑いを堪えながら問いかけてくる。


「どうもこうも。俺がカトレアと結婚するんだと」


 訳がわからないと首を振ってみせる。


「良かったじゃねぇか! ファンフォシル家に婿入りとなりゃお前も安泰だな」


 乾杯のつもりか、手に持っていたグラスを大きく掲げるシュー。


「はいはい、おふざけはここまで。シューもあんまりからかわないの」


 ティンクがやれやれといった様子で止めに入る。


「何だ? お前は事情知ってんのか?」


 椅子の背もたれに寄りかかり、大きく背中を反らせながらシューがティンクに聞き返す。


「何となくね」


「……まぁ、俺もだいたい予想はつくがな」


 そうとだけ言って話を終えてしまう2人。


「――なんだよ、俺だけ除け者か?」


 俺の問いに、2人は顔を見合わせる。

 フルフルと首を振るティンクを見て、シューは一つ大きく溜息を付く。


「……ファンフォシル家の跡取り問題だろうよ」


 さっきまでとは打って変わり、さもつまらなさそうに呟きグラスの中身を一気に飲み干す。


「どういうことだ? 跡取りならカトレアが――」


 そう言いかけた俺の言葉を遮るように、やや大袈裟にグラスを机に置いてシューが話し出す。


「ファンフォシル家は確かにモリノ随一の大貴族だ。前当主、つまりカトレアの父親は……まぁ、親としてはかなりアレだったようだが、政治の手腕は確かだったらしい」


 いつになく真剣な顔のシューの話を、俺もティンクも黙って聞く。


「特に先の王位継承の混乱の最中で見せた見事な立ち回りは、ファンフォシル家の現在の地位を確固たる物にしたそうだ。ファンフォシル家を贔屓にしていたエイダン国王の退位に際して、新国王派の貴族達がその権力を奪おうと躍起になってたらしい。さすがのファンフォシル家といえど相当の苦労はあったと聞く」


 ……そうなのか。

 由緒ある大貴族とは知ってたけれど、歴史の中では色々と大変な時期もあったんだな。


「まぁ、そんな局面も見事に切り抜け、国政も安定してこれでようやくファンフォシル家も一息つける、って所で――悪魔の悪戯か神が与えた試練か。奥方と当主、立て続けでの不幸だ。それに輪をかけて気の毒な事に、ファンフォシル家は男の子に恵まれなくてな。目下、跡取り問題の渦中って事らしいぜ」

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