ex01-14 遠い世界の遠い未来の友達
「マスター!」
男性の姿を見た途端、シェンナとアイネが同時に声を上げる。
「おー、やっと見つかった。マジ探したわ」
ボサボサの黒髪をボリボリと掻き上げ、さも面倒臭そうに嘆く男性。
「アンタ、なに呑気な事言ってんのよ!! ここ何処だと思ってんの!?」
男性の態度に腹が立ったのか、少し苛立った様子で声を上げるシェンナ。
「あぁ、過去のエバージェリーだろ。とんでもない所に飛ばされたもんだな」
そんなシェンナの様子を気に留めず、悪びれた様子も無く男性が答える。
「それだけじゃ無いわよ! 大変だったんだから! あのガードロボもあんたの仕業!?」
「ガードロボ? 何のことだ。あ、何か“バンブーカラム”の研究所で異常な時空粒子が観測されたらしいな。大方、無茶な実験でもしてたんだろうけど……お前達もその影響に巻き込まれたみたいだな。いや、すまんすまん」
何の話をしているかさっぱり見当は付かないが、とりあえず明らかに悪いと思っていない様子で謝る男性。
慣れた事なのか、これ以上怒っても仕方ないといった感じでシェンナが話を変える。
「とりあえずあんたもちょっとこっち来なさいよ! エバージェリーなんて滅多に来れるもんじゃ無いでしょ? それにお世話になった人達も居るからお礼を――」
シェンナが俺たちを紹介しようとするが、それより前に男性が声を上げる。
「バカ言え! お前達の方こそさっさと帰って来い! こっちとそこは時間も空間も歪みまくった上で奇跡的に繋がってるだけの状態だ。今こうして繋がってるのも奇跡中の奇跡。てか俺の素晴らしい実力のお陰! さっさと戻ってこないと、世界がお前らを異物と認識した瞬間消滅させられるぞ」
「……どういう事?」
「つまり、お前らがそっちに居る限りいつフッと消滅してもおかしくないって事だ」
「――えぇー!? それかなり危なくないですか!?」
アイネが驚いて声を上げる。
「だから言ってんだろ! 早く戻れ」
「わ、分かったわ。アイネ、とりあえず一旦戻りましょう。マグナス、ティンク、ごめんなさい。落ち着いたら改めてお礼を言いに来るから」
唖然として宙を見上げている俺達の手を取り、シェンナが握手を交わす。
その様子を見ていた男性が、何か気付いたように声を掛けてくる。
「あー、待て待て! 一応言っておくがお前らの“記憶”も異物だからな。穴が閉じれば直に消えてなくなる」
「え!? どういうこと? それってつまり……」
「今日の出来事は綺麗さっぱり無かったことになるって事だ。お前らも忘れるし、そっちの世界の記憶にも残らん」
「えぇ!? 嫌です! せっかくティンクさんとマグナスさんとも仲良くなれたのに!」
それを聞いてアイネが怒ったように抗議する。
「無茶言うな。整合性を保つための“世界”の自己防衛機能だ。どうにもならん。……さ、挨拶済ませて早く戻ってこい。――あんたたち、うちの生徒が世話になったみたいだな。恩に着るぜ」
そこまで言って、俺たちに向かいペコリと頭を下げる男性。
「……分かったわよ。……2人共、本当にありがとう。短い間だったけど楽しかったわ」
シェンナが俺達に向かい頭を下げる。
「私も。2人に会えて良かった。2人の事忘れない……のは無理みたいだけど、私達、お友達だよね?」
アイネも瞳に涙を浮かべながら俺たちの事を交互に見る。
「あぁ。勿論だ! 何だか騒がしい2日間だったけど俺も楽しかった。またいつか会えたらいいな」
「そうね。何百年先になるか分からないけど」
そう言って笑うと、シェンナは宙に浮く裂け目に飛び込んで行く。
「それじゃ、さようなら!」
アイネもそれに続く……。
ん? アイネって誰だっけ??
あれ、俺今誰と話して……。
何故か頭がぼーっとする。
隣でティンクが誰かと話しているのが聞こえる。
「ねぇ、一つ聞くけど。何で“誰も覚えてないはず”の現象を“アンタ”は知ってんのよ」
「何事も“例外”ってのはあるもんだ。きっとお前も“そのクチ”だろ? いずれまた会うかもな」
「……あっそ。その時は色々詳しく聞かせて貰うわ」
ティンクの目線の先を追うが、見上げる先には何も無い。
「……なぁ、誰と喋ってたんだ?」
「……別に。独り言よ。――さっ、夕飯にしましょ! お腹すいた!」
ティンクに急かされキッチンへ向かう。
夕飯の支度をしていると、騎士団の人達が訪ねて来た。
ここ2日間街道で暴れていた大型魔物を退治してくれた謝礼だということでお金を置いて行ったが……あれ? そうだったっけ?
そういえばそんな依頼を受けてたような……ヤバいな、最近疲れてるのか。
それにしても――
何だか楽しい数日間だった気がする。
――――
「あ〜。何か、“バンブーカラム”に行ってたはずの間の記憶が所々曖昧なのよね」
「え、シェンナも? 私も実は私も」
学園の教室でシェンナとアイネが机越しに話し込んでいる。
「もしかしてこっそり変な薬盛られたとか?」
「え、何それ。怖いんだけど」
青い顔をして固まるアイネ。
「あ。変な、で思い出したけど、昨日“ホーム”で変な本見つけたのよ。前からあった本なんだけど、何でか急に気になって引っ張り出してみたんだけど……」
そう言ってカバンから一冊の古ぼけた本を取り出すシェンナ。
「何の本?」
「これ。『錬金術の基礎』エバージェリーで発刊された古い本みたいなんだけど」
「錬金術? それって大昔に流行ってたっていう石を金にするってやつだよね? 本当に存在してたんだ」
「どうかしらね。作者名も胡散臭いのよ。“色欲の錬金術師”ですって」
「うへぇ……何それ」
アイネが少し引いたら顔で舌を出す。
「中身も何か錬金術と女の子? について書かれてるんだけど……」
「あ、怪しすぎる」
「問題はそこじゃなくて、この最後のページのとこ」
そう言ってシェンナが裏表紙の隅を指差す。
「ん? あれ、ここだけ筆跡が違うね?」
その部分だけ、女性っぽい綺麗な文字で手書きのメモが記されていた。
その内容は……
『赤髪の魔法使いと青髪の黒猫さん。遠い世界の遠い未来の友達。もしいつかまた会えたら――その時はゆっくりお茶でも飲みましょう』
番外編(その1)最後までお読みいただき有難うございます。
アイテムさん達が活躍する話じゃなくてすいません!
新連の方も宜しければご覧頂ければ嬉しいです。
シェンナとアイネの通う魔法学園を舞台にした日常と冒険、女の子同士の友情を描いた物語です。
学園編の他、海上に浮かぶリゾート人工島でテロリストと戦ったり、巨大な研究都市で闇の組織の陰謀に巻き込まれたりなど内容盛りだくさんです!
シェンナとアイネの活躍を是非ともご覧ください(*´ω`*)
※本編は、シェンナとアイネが仲良くなるよりも前から始まります
https://ncode.syosetu.com/n8102hl/
【私の幼馴染が魔王と呼ばれるに至る経緯 〜魔法学園の嫌われ者は、実は魔物の心が分かる優しい少女だった。圧倒的な力を手に入れたけれど、復讐とかは特に興味ありません〜】