ex01-13 畏れられる者
真っ二つに切り裂かれ、バチバチと音を立てながら崩れていく“がーどろぼ”。
「……す、すげぇ」
「ごめんなさい。本当は最初からこうすれば早かったんだけど――」
唖然とする俺に、アイネが寂しそうな笑顔を浮かべて声を掛ける。
その時――
そんなアイネを、突如巨大な火球が襲う。
即座に反応し爪で火球を切り裂くアイネ。
火球は真っ二つに裂け飛翔した後、空中で爆発する。
驚いて火球が飛んできた方向を見ると――そこにあったのは騎士団の姿だった。
『ま、魔物!?』
『鉄の化け物の次は何だってんだ!? こっちの方が明らかにヤバそうだろ!!』
『本部に増援要請! 総員戦闘態勢を崩すな!』
殺気立つ騎士達。
「な、ちょっと待ってくれ! 彼女は別に危険な存在じゃ……」
騎士達に向かい抗議しつつも、さっきアイネから感じた印象を思い出す。
正にこの世のものとは思えない絶望的な恐怖感。
アイネの事を知らなければ相当な脅威と思っても仕方ないかもしれない。
その事は知っているのか、アイネがそっと俺たちに呟く。
「ごめん、先に帰ってるね」
そう言い残すと、風のように姿を消してしまった。
……なるほど。
『最初からこうすれば早かった』
けど、出来なかったのはこのためか……。
きっと元の世界でも同じような事があったんだろうと思う。
―――
その後、騎士団の人達から事情聴取を受ける事になった。
アイネの件もあり相当厳重に取り調べられたが、一応は事件を解決した功労者である事、俺の身元がはっきりしている事などからどうにか一旦は解放してもらえた。
裏で兄さんや隊長が手を回してくれた事もあるらしい。
家に帰れたのは日が沈みかけた頃だった。
工房に戻ると、そこにはアイネの姿があった。
黒い姿ではなく、青髪の普通の姿に戻っている。
「アイネ!! よかった、どうやって帰ってきたの?」
シェンナが駆け寄る。
「えっと――普通に走って」
そう言って少し困ったように笑うアイネ。
「う、ウソでしょ?」
「本当よ。あの姿のアイネなら走ってもそんなに時間は掛からないわ」
「途中ちょっと迷子になったけどね」
そう言って小さく笑いながら、シェンナの隣に立つアイネ。
馬車の中でシェンナから聞いた話によると――アイネは以前に“とある魔物”の最期を看取った事があるらしい。
その魔物の力と魂が今もアイネの中に宿っているそうだ。
未来の“キプロポリス”でも前例の無い事象だそうで、人々からも相当に恐れられたらしい。
……それであまり人前ではあの姿を見せたくなかったそうだ。
「……それじゃ、私暫く何処かに隠れてるね。さっきの様子だと騎士団の人達きっと私の事探しに来るでしょ? ここに居たら皆に迷惑かけちゃいそうだし」
笑顔のままそう言うと、工房から出て行こうとするアイネ。
「ちょっと! 何でアイネが出て行かなきゃいけないのよ!? 何も悪い事なんかしてないんだし――ってか、むしろアイネのお陰で皆んな助かったんだから、気にすることないわ! もし騎士団が来ても私が追い返してやるから!」
そう言って憤るティンク。
「ティンクさんは、私の事恐くないの?」
驚いた様子でアイネが問い返す。
「別に。そりゃあの姿の時はそれなりに怖いけど、でもアイネはアイネでしょ。何で怖がんなきゃいけないのよ」
むくれた顔で腕組みするティンク。
「ありがとう。やっぱりティンクさんってシェンナそっくり」
その顔を見て、アイネがクスリと笑う。
その時――不意に部屋に起きている異変に気づいた。
バチバチという音を立て、空中に黒い裂け目が出来て行くのが見えた。
「あ。やっと来たわね」
同じく異変に気付いたシェンナが呆れたように呟く。
裂け目が大人の身長程に達した所で、今度は大きく上下に開く。
中に現れたのは……上手く表現できないが工房とは全然違う何処か別の空間。
空中に空いた穴の向こうに、知らない部屋の床が続いているという何とも奇妙な現象が起きている。
「あ、ちょっとズレたか」
穴の奥から声が聞こえる。
そして、しゃがみ込むようにして1人の男性が顔を覗かせた。