ex01-10 迎撃モード!
「……それで、攻撃を中止しろとはいったいどういう訳だね」
アイネ達が連れて行かれた後、隊長がシェンナに問い正す。
「……。アレは現在"警護モード"になっています。こちらから攻撃を仕掛けたり下手に近づかなければ害はありません」
「確かに。昨日から監視を置いているが、向こうから積極的に襲い掛かってくる様子は無いな」
「――ただし。一定以上の攻撃を加えると、こちらを敵性因子と判別し"迎撃モード"に移行します。そうなるとこちらの戦力を殲滅するまで執拗に襲ってくるはずです」
「なに!? そ、それは本当か!?」
話を聞いて慌てる隊長。
「はい。間違いないはずです。ちなみに、既にどれ程の攻撃を加えましたか?」
「そうだな――。昨日は炸裂矢を5,6発。今朝からは、先程と同程度の魔法を2発だ」
「――!? あの魔法を合計で3発!? う、嘘ですよね!?」
「いや、間違いない」
「だとしたら、迎撃モード移行の閾値をどれだけ高めに設定してあったとしても本当にもうギリギリ……」
引きつった顔で"がーどろぼ"の方を見るシェンナ。
その目線の先では、動かぬ鉄の人形を見ながら前線の騎士達が管を撒いている。
『ったく、驚かせやがって。こっちから近づいたり攻撃しなけりゃ襲ってこないんだよな。ほっとけよこんなもん。そのうちどっか行くだろ』
『そうもいかないだろ。住民から苦情も出てる事だし。……とは言え、こんなもん俺達でどうしろと』
『あーあ。ホント、誰だよこんなもの置いたやつ。ふざけやがって』
『俺、本当は今日久々の休暇だったんだぜ。なのにコイツのせいで。――ホントふざけんなよ!』
口々に不満を漏らす若い騎士達。
その中の1人が道端に落ちていた石を拾うなり、大きく振りかぶって投げる。
カーン!
投げられた石が良い音を立てて"がーどろぼ"に跳ね返った。
その直後――
『――警告、警告。累積した攻撃量が規定値を超過しました。これより迎撃モードへ移行します。周囲の味方戦力は速やかに退避してください』
ピー、ピーという音を立て、目を赤く光らせながら"がーどろぼ"が動き出す。
「な、なんだ!?」
その様子を見て怯む隊長。
「だから言ったじゃない!! 退避よ! 早く退避命令を!!」
シェンナに言われ、隊長は慌てて退避命令を下す。
『――攻撃対象を補足完了。殲滅開始』
"がーどろぼ"が大きく両手を広げ、その掌から光が放たれる。
打ち出された光弾は瞬時に着弾し、川の向こう岸とこちら側双方で大きな爆発が巻き起こる!
『うわぁぁーー!!』
悲鳴と共に吹き飛ばされる騎士達。
傍に居た隊長や兄さん達も爆風で吹き飛んで行く!
……
「――っ! シェンナ、大丈夫か!?」
「ど、どうにか!」
爆風が収まるのを待ち、よろよろと起き上がる俺とシェンナ。
そんな俺達のすぐ目の前には……大きな盾を構えた重装備の女騎士が、俺達を庇うように立ちふさがっている。
彼女のお陰で俺達は無傷だ。
「――大丈夫だったか、主殿!? 凄まじい衝撃だな!」
念のために持ってきておいた"グレートシールド"のポーション。
どさくさに紛れてさっきの間に撒いておいてよかった。
「ありがとう、助かったよ!」
「あぁ! ――だが、さすがにそう何発も持たないぞ。気を抜くなよ!」
言葉を交わす俺達を見て、シェンナがワナワナと手を震わせながらグレートシールドさんを指さす。
「こ、これがマグナスの言ってた、錬金術……?」
「あぁ。"マクスウェルの錬金術"だ」
「し、信じられない。本当に地面から人が」
正確には別に地面から生えてきてる訳じゃないんだが……今はそんな事を説明してる場合じゃない。
「で、どうする!? 一応武器のポーションも持ってきてるけど」
俺の問いに、シェンナがハッと我に返る。
「武器ってどんなの? 迫撃砲とか対物ライフルとか……は、さすがに無いわよね」
「そ、それが何か分かんないけど、ロングソードとかシルバーソードとか聖水とか……」
「剣か……さすがに厳しそうね。――え、聖水って武器なの!?」
「あ、いや、普通は違うんだけど……。何にせよやっぱりいくら扱う技術が凄くてもアイテム自体の強度的に厳しそうか」
「剣の素材は?」
「アイアンとかシルバーだけど」
「鉄に銀か……さすがに厳しいわね。残念だけど合金の装甲には傷ひとつつけられないと思うわ」
「さすが未来の兵器だな……」
近くにあった岩陰に隠れつつ打開策を練るが、その間にも"がーどろぼ"は次々と騎士達に襲い掛かっていく。