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ex01-09 自分ばっかり損して

 傍に居た兄さんをドンと無言で押しのけ、隊長の前で一礼する若い騎士。

 いかにも優等生といった様子のいけ好かない野郎だ。


「どうした?」


「その少女……何故あんな見知らぬ物に詳しいのですか?」


「それ専門の錬金術師で――」


 答える隊長の言葉を遮り、若い騎士がピシャリと言い切る。


「失礼ですが、私は錬金術という物をあまり信用していません! ……言いたくはありませんが、そこにおいでるマグナス殿の祖父は国家予算を不正に使い込んだ犯罪者です。彼自身に非はありませんが――言われるがままに信用しては隊を危険に晒す事になりかねませんか」


 突然出てきてじいちゃんの事を侮辱する物言い……。

 まぁ事実はどうであれ一般的にはそういう事になってるんだから、今は言い返せない。

 それに、下手に言い訳してシェンナ達の事情を探られると厄介だったりもする。


 さて……どうしたもんか。


 切り返し方を悩み黙っていると、先に隊長の方が口を開く。


「……得体の知れない敵が相手だ。まぁ、君の心配も分かる。だが、今その事は関係ないだろう。……はっきり言いたまえ。君は何が言いたいんだ?」


 隊長にじっと見つめられ、徐に口を開く若い騎士。


「――つまり、得体の知れないアレに詳しいという、彼女達自身がよほど怪しいのではないかということです。最近はサンガク含め近隣諸国の動向もきな臭いものがあります。身元の知れない者は警戒すべきかと」


「……まぁ、用心に越した事は無いか。――すまない、君たち。協力してくれる君たちを疑うのは大変遺憾だが、私とて大勢の命を預かる身。簡潔にでも構わないから、せめて事情だけでも聞かせて貰えないだろうか」


 そう言ってシェンナに向き直る隊長。


 マズい……。

 当然『異世界から来ました』と言って通じる訳がない。

 俺達はアイテムさん達の件もあるし、ある程度不思議な事には慣れてたから受け入れられたけど……。


 ましてやこの雰囲気。

 若い騎士の話しを聞き、周囲の騎士達も俺達に疑惑の目を向けている。


 下手すると敵国の工作員か何かと勘違いされかねない。



「説明は構いませんが――きっと中々信じて貰えないと思います。先に攻撃の中止だけでも指示して頂けませんか?」


 真っすぐに隊長を見据え食い下がるシェンナ。


「待ちたまえ君。どうしてそうも攻撃中止に拘る? さては、せっかく造り上げた新兵器を壊されては困るんじゃないのか?」


 若い兵士がシェンナと隊長の間に割って入る。



 睨み合ったまま動かない両者。

 周囲も2人のやり取りに静かに注目する。



 そこへ――


「わ、私です! 私が造ったんです!」


 アイネが突然手を上げる。

 その場に居た全員が一斉に彼女を見る。


「その方の言うとおり、あれは兵器です。わ、私、兵器開発の仕事をしてるんですけど、新兵器がちょっと暴走しちゃって……。あの、自分じゃ止められなくなっちゃって。それを止めるためにこの子に協力して貰ってるんです」


 そう言ってシェンナを指さす。


「ちょ、アイネ? 何言って――」


「シェンナは黙ってて!」


 驚くシェンナの口を塞いで黙らせるアイネ。



「君が? その若さでアレを? 俄かに信じられんな……」


 隊長と若い騎士がアイネを取り囲む。


「取り調べならいくらでも受けます。ただ、アレは今本当に危険な状態で――お願いですから彼女の話しを聞いてあげてください!」


「……アイネ!! アンタまたそうやって自分ばっかり損して――!」


「私は大丈夫だから。シェンナはアレを止める事だけ考えて」


 隊長をじっと見つめたまま懇願するアイネ。

 その目をじっと見つめ返す隊長。


 ……やがて根負けしたように隊長が口を開く。


「分かった。――おい、即刻攻撃を止めるよう対岸の隊に伝令だ」


「――お待ちください!」

「隊長命令だ」


 若い騎士が食い下がる。

 が、隊長がそれを遮ってピシャリと言い放つ。


 何か随分と周りに流されやすいし、ちょっと頼りない隊長さんだなぁと思ってたけど――この人、意外と人を見る目と判断力は凄いのかもしれない。


 伝令兵が急いで駆け出して行く。



「――これで満足かね?」


「……ありがとうございます」


 少し不服そうにも、頭を下げるシェンナ。


「だが、取り調べはしっかりと受けて貰うぞ。――彼女をテントへ」


 隊長の指示を受け、数名の騎士がアイネを取り囲む。

 両脇から掴まれ、テントの方へ連れていかれるアイネ。


「ちょ、ちょっと待ってください! これには訳が!」


 慌てて止めに入るシェンナ。


「シェンナ! 私なら大丈夫だから、ね。シェンナはアレの対処の方をお願い」


 そういって優しく笑うと、アイネは素直に騎士達に連れられて行く。


「ちょっと待って、それなら私が付き添う! ――ちょっと! あんた女の子相手に何処触ってんのよ!!」


 ティンクがアイネを取り押さえる騎士達に睨みを利かせながら一緒に付いて行く。

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