ex01-05 魔兵器と戦争
話についていけない俺に分かるよう、2人は丁寧に説明してくれた。
俄に信じ難いけれど――
この世界の端にある断崖絶壁。
見渡す限りの青空を飛び立ち、空を飛ぶ船で10日間行くと――こことは違う別の世界があるんだとか。
それが【魔兵器と戦争の世界・キプロポリス】
それに対してこっちの世界を【剣と魔法の世界・エバージェリー】と呼ぶらしい。
キプロポリスでは、魔法は“兵器”として道具化され使われているそうだ。
魔力が無くても、訓練さえすれば子供でも使える道具。
才能が無くても誰でも魔法に似た力が使えるってのはいかにも便利そうだ。
そういう点では錬金術で作り出す魔力系のアイテムに似てなくもないかもしれない。
「それにしても、"兵器と戦争"って穏やかじゃなさそうですが……大変な世界なんですか?」
「戦争っていっても随分と昔の話しなんで今は平和ですよ。魔兵器ももっぱらマモノ迎撃用ですし」
心配する俺を見て、明るい顔で答えるアイネさん。
「マグナスさん達の世界ではまだキプロポリスの存在すら知られていないんですね」
神妙な面持ちで話を整理するシェンナさん。
「あ、てか"マグナス"でいいですよ。同い年なんだし。固いのは無しでいきましょう」
「あら、そう? それなら私の事もシェンナって呼んで。よろしくね」
そう言って手を差し伸べてくるシェンナ。
その手を取り握手を交わす。
「よろしく!」
そう言ってアイネの方にも手を向けると、慌てて両手で握り返してくる。
「よ、よろしくお願いします!」
「あ。アイネ人見知りだけど気にしないであげて。これでも結構よくなったん方なんだけど」
それを聞いて少し困ったようにはにかむアイネ。
そのお淑やかな様子が何とも可愛い。
「で、話しを戻すと……さっきシェンナが腰に下げてたのがその魔兵器ってやつ?」
「そう! あれは『M12グレネードランチャー』っていって、40mm口経の様々な特殊弾頭が使用できるの! 中折れ式の単発機構だけどその分銃身も軽量で、何より状況に合わせて使用弾頭を変える事で様々な状況に対応出来る汎用性が最大の特徴で――」
立ち上がると、棚に置いてあった鉄の筒を指さしながら揚々と話し出すシェンナ。
「ち、ちょっとシェンナ、ストーップ! 細かい話はまた後でね」
目を輝かせ早口で話しすシェンナをアイネが慌てて止める。
どうやらそういう類の話が"好きな人"らしい。気質的には仲良くなれそうだ。
「と、とりあえず状況は理解した。……いや、実際はあんまりよく分かってないけど。――で、2人はこれからどうするんだ? 元の世界に帰る方法とか……」
「そうね……幸いにもあのアホマスターも異常には気付いてたみたいだし、探しに来るのを待つしかないと思うわ」
「……マスター、ちゃんと見つけてくれるかな」
「大丈夫でしょ。あれでも腕は確かみたいだし。とりあえず暫く身を置ける場所を探しましょ。……この町って宿屋あるかしら?」
「あぁ、小さな宿なら何軒か」
「それじゃそこで部屋を借りて、せっかくだからマスターが迎えに来るまでエバージェリーの観光といきましょ」
シェンナがポンと手を叩く。
「やった! ……あ、でもシェンナ、お財布持ってる? 私お金ちょっとしか持ってないけど」
「……あ、しまった! 財布どころか――そもそもこの時代のエバージェリーのお金なんて見た事も無いわよ!」
「そ、そっか! じゃあ私達無一文なんだね。ど、どうしよう……」
「と、とりあえず雨風凌げる所探して、どこかで野宿とか……」
「一応言っておくと、今冬よ。野宿なんかしたら多分死ぬわね」
店まで軽食を取りに行ってくれていたティンクが丁度戻てきて、辛い現実を突きつける。
「え、えぇ……」
顔を引きつらせて固まる2人。
さすがになんだか可哀そうになってきた。
まぁこれも何かの縁だ……
「あの、もし良かったらうちに泊まってく?」
「――いいんですか!?」
物凄い勢いで俺の両手を取るシェンナ。
何となくだけど……最初からこれを狙ってなかったか?
もしかしたらこの人、結構したたかな方かもしれない。
「いいよ。暫くの間なら居候がもう1人、2人増えた所で困らないし」
「ありがとうございます! お金はどうにか用意するので」
アイネが深々と頭を下げる。
「モテモテねぇ~」
そっぽを向きながら小声で漏らすティンク。
もしかしてヤキモチだろうか?
……まぁ、恐くてそんな事は聞けないが。
――
急な来客と伝え、母屋から寝具を2セット借りて来る。
俺が時々昼寝に使うソファーに1人と、申し訳ないがもう1人は椅子を並べた即席のベッドを使って貰う事に。
「アイネ、ソファー使わせて貰いなよ。私は何処でも寝れるから」
「え、いいよ。シェンナこそソファー使って」
お互いに譲り合いを始める2人。
見ていて分かるけれど、2人ともとても仲が良いようだ。
「悪ぃな。明日にはもっとどうにかするから、今日はこれで我慢してくれ」
「あ! ごめんなさい! そういう訳じゃなくて!」
「本当に、泊めて貰えるだけで有難いので、お気を使わずに……」
ブンブンと手を振って謝る2人。
「ははは、気にしてないよ。さすがに無一文の女の子2人を寒空の下に放り出す訳にもいかないしな」
「ていうか、仮にお金があったところで今は町の宿屋どこも満員よ」
ティンクのその言葉で、大事な事を思い出す。
突然の事ですっかり忘れてたが――昼間のあの人形ってまさか!?
「あの、変な事きくけど……シェンナ達の世界って、鉄で出来た大きな動く人形ってあったりする?」
「鉄の人形?」
「何だろう? アンドロイドかな」
顔を見合わせる2人。
「えっと、大人3人分くらいの大きさで、手から光線みたいなのを発射する――」
「あー! ガードロボだ!」
アイネがハイハイと手を挙げる。
やっぱり……あれも異世界から来たものだったのか。
「けど、何でマグナスがそんな物知ってるの?」
シェンナが不思議そうにこっちを見る。
「――実は」
昼間の出来事を2人に話した。
……
「――なるほど。話からしてキプロポリスの魔兵器で間違い無さそうね。何でそんな物までこっちに来てるのか分からないけど」
「大丈夫かな? こっちの人達に怪我人とか出てないと良いけど」
心配そうにシェンナを見るアイネ。
「騎士団の話によると、幸い人的被害は出てないらしいわ」
ティンクが付け加える。
「自発的に襲ってこないなら、多分警護モードで起動してるのね。こっちから近付いたり攻撃したりしない限り大丈夫よ。って言っても道が通れないのは困るわよね……」
うーんと唸りながら頭をかくシェンナ。
その様子を見て、アイネが机に手をつき勢いよく立ち上がる。
「ねぇシェンナ! 私達でお手伝いしようよ! 泊めて貰うんだから、便利屋さんのお手伝い! いいですか!?」
仕事がそんなに嬉しいのか、アイネが満面の笑みを俺に向けてくる。
「そりゃ詳しい人が居るのは助かるけど、いいのか? 2人が来る前からの話だから、2人とは直接は関係無いんだろ?」
「まぁ、それでもキプロポリスの兵器が迷惑掛けてるとしたら見過ごせないしね。分かったわ、任せて頂戴! 学園主席の実力、見せてあげるわ」
こうして、結果的には"がーどろぼ"に詳しい仲間が出来た。
そう思うと、今回の錬成もある意味成功だったのかもしれない。