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ex01-03 緋と藍の少女

 町に戻った頃には日も沈みかけていた。


 突然の大量のお客様に町の宿屋や食事処はてんやわんや。

 今朝この町の宿から発ったばかりの人も居るようで、連泊料金で泊めて貰えないかと交渉している人も居る。


 俺達も早々に店仕舞いをし、工房へと戻る。



「なぁ、あれ何だったんだろうな? 皆困ってたみたいだし俺達でどうにか出来れば良いんだけど……」


「まぁ、私だってこの世のアイテム全部知ってる訳じゃないからね。てか錬金術で錬成出来るアイテム以外はむしろ殆ど知らないし。私達に出来る事っていったら……とりあえず関係ありそうなアイテムさんに聞いてみる事くらいじゃない?」


「そうだなぁ。とは言え、"アレ"と関係ありそうっていうと何だ……?」


「そ、そうね……ヘビーメイルとか? 大きさが全然違うけどね」


 なるほど。ヘビーメイルか。

 厚い鉄板で装甲を強化したフルプレートアーマーだ。

 昼間見た奴とは大きさも形も全然違うが、しいて言うなら確かに近い方かもしれない。



 他に心当たりも無いし、とりあえず話だけでも聞いてみよう。


 幸い基礎素材の”鉄のインゴット”は在庫に余裕がある。


 他に必要な物は、“丈夫なハサミ”と“ハンマー”。

 それから“アダマイト鉱石”と“リザードマンの鎧(欠片)”



 錬成手順は至って簡単。

 釜を絶えず温度に保つ事以外は、入れる順番もタイミングもあったもんじゃない。


 お湯が溢れないよう注意しながら素材を釜に放り込んで行く。


 紅火草をもりもりに投入し竈の火力をグングン上げる。



 頃合いを見計らいレシピを発動させれば――“ヘビーメイル”のポーションが完成!


 やや灰色に霞んだ重厚な液体が、立方体方の瓶の中で静かに揺れる。



「それじゃさっそく」


 いつものように、瓶の中の液体を床に撒く。


 そして暫く待つと、これまたいつものように淡い光が……



 ――?



「――? なに?」


 本を読みながら錬成過程を見守っていたティンクが、慌てて椅子から立ち上がる。


「な!? 何だ!? 失敗か!?」


「そんなはず無いわよ! 錬成は完璧だったわ!」


 狼狽える俺にティンクが言い返す。



 けれど、床に漂うのはいつもの淡い光ではなく――黒い光?


 いや、黒い光なんて存在しないのは分かってるんだが、そうとしか表現の出来ない漆黒の輝きが床一面に広がる。


 それらは縦横無尽に走り出し、やがて魔法陣のようなものを描き出す。



「な、何だこれ!? ヘビーメイルさんだけ登場ハデなのか!?」


「違うわよ! こんなの見た事無い――」


 慌てる俺とティンクをよそ目に、見た事のない文字がびっしりと羅列された魔法陣が床に完成する。



 そして、次の瞬間――一皮眩しい漆黒の光が立ち込め室内を包む!!



 思わず腕で目を覆う俺とティンク。




 やがて光が収まるとそこには――


 燃えるような赤髪と、深海のように深い青髪。

 正反対な見た目をした2人の少女が立っていた。


 2人共見た事のない服を着ている。

 しいて言うならノウムのスーツをカジュアルにしたような感じだろうか。



「――あれ? ここどこ?」


 ショートボブの青髪の少女がポツリと呟く。

 何処か儚げで、それでいて優しく安心感のある声。



「どこって、"バンブーカラム"でしょ?」


 赤髪を後ろで一つに結んだ少女が答えを返す。

 こちらは自信と活気に満ちた聡明な声だ。

 ……髪の色といい雰囲気といい、どことなくティンクに似ているような気がする。


 それはさておき、間違いなく言えるのは――2人ともめちゃくちゃ美人だ。



 唖然と見つめる俺達に気付き、青髪の少女が慌ててお辞儀をする。


「あ! ご、ごめんなさい突然お邪魔して。私達怪しい者じゃありません! "ウィステリア・テイル"の生徒です。"マスター"の転送魔法の練習に付き合ってたんですけれど……」


 身の潔白を説明しようとしているのか、手をバタバタさせながら口早に話す青髪の少女。

 だが、言ってる事の半分くらいが分からない。


 それを察したのか、赤髪の少女が慌ててフォローに入る。


「“アイネ“! 一般の人に"魔法"とか言っても通じないって!」


「でも“シェンナ”、どうやって説明したらいいか……」


 顔を見合わせて小声で議論する2人。

 軽く頭を抱えた後、赤髪の少女が改めてこちらに向き直る。


「――ごめんなさい! とにかく……その、すぐに出て行きますのでここはどうか一つ穏便に……!」


 そう言って両手を合わせて頭を下げる。

 ちなみに、穏便も何も、俺もティンクもまだ一言も発していないが……。


 そんな俺達の様子をチラッと伺い、部屋の中を見渡す赤髪の少女。

 少し考えるような素振りを見せたあと、小声で呟く。


「――あの、ここって、"バンブーカラム"……じゃないですよね?」


 ばんぶーからむ?

 聞いた事もないけれど、国の名前だろうか?


「……いえ、モリノ王国の外れにある小さな町ですけど」



「……モリノ王国? ……シェンナ、聞いたことある?」


 青髪の少女が小声で問いかける。


「……ないわね。国名は全部暗記してるけど、そんな国無いわよ。……てか50カ国しか無いんだからアイネも暗記しなさいよ! テストに出るわよ」


「あはは、私そういうの苦手で」


 赤髪の少女に迫られ、笑ってごまかす青髪の少女。


 50ヵ国?

 確か今ある国は小さなものも含めて30も無かったはずだけど……


 それはさておき――



「あの……」


 今度はこちらから声をかけてみる。


「はい!?」


 青髪の少女が驚いたようにこちらを振り返る。


「お二人は……ヘビーメイルさんですか?」


 よく見ると、赤髪の少女は腰に巻いた革製の鞄から何やら長細い棒状の物を提げている。

 取手の付いた鉄の筒という表現がいいだろうか?

 鉄製ではあるようだが、どうみても鎧ではない。


「……」

「……」


 質問の意図が伝わらなかったのか、黙って顔を見合わせる2人。

 無言のままお互いを指差し、そして同時にブンブンと首を振る。



「いえ……多分違うと思います」


 赤髪の少女が答える。

 その隣で困ったような笑顔を浮かべる青髪の少女。


 でしょうね……。

 こりゃどうも、街道を閉鎖する鉄の人形だけでも厄介なのに、さらにややこしい事が増えたような予感がするな。

突然よく分からない単語がいっぱい出てきてすいません。

実は他のお話と繋がっています。

こちらももし良ければ読んでみてください!


【私の幼馴染が魔王と呼ばれた経緯 〜魔法学園の優等生と魔王少女〜】


リンク

https://ncode.syosetu.com/n8102hl/


近代魔法学園を舞台とした少女達の冒険物語です。

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