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10-26 夢でも見ているのだろうか

「――お兄ちゃん! 大丈夫!?」


 固く閉じた両目を開くと、目の前にシスティの姿が。


(ど、どうなってる?)


 俺は確か魔物に喰い殺される直前だったはず。

 それにシスティもあのトカゲに……


「……! システィ! 大丈夫か!? 怪我は!?」


 慌てて起きあがろうとして、自分がとんでもない場所に居ることに気づく。


 辺りに見えるのは民家の屋根。

 それよりもさらに高い場所という事は……


(ここは、時計台の屋上か!?)


 落ちないように気をつけながら下を見ると、門前広場ではトカゲ型と狼型の魔物が、突然消えた獲物を探しキョロキョロと辺りを見渡している。



「――2人とも、危ない所だったっスねぇ」


 突然背後から声がし、驚いて振り返る。

 しかし、そこに居るのはシスティだけで他には誰も居ない。


「あ、すいません。これじゃ見えないっスね」


 再び声がすると同時に、何もないはずの空中がゆらりと揺れる。

 夜の闇を払うように、暗闇から人の姿が現れる。

 漆黒のマントを羽織い、盗賊風の恰好をした少女だ。


「怪我とか無いっスか? いやー、それにしても、人間2人"盗む"のは流石に骨が折れるっスね」


 そう言ってトントンと肩を叩く少女。

 身に付けているのは……シーフの上位装備品【盗賊マント】か?


「あの……貴女が助けてくれたんですか? ありがとうございます」


「ん? お礼なら是非現金でー! ――と、言いたい所っスが。別に気にしなくていいっスよ! “親分”の指示なんで」


 ……親分?

 盗賊団の棟梁だろうか。


 だとしたら何故盗賊団が人助けなんて……


 そうこう考え込んでいると、少女が懐から筒のようなものを取り出す。



「戦場なんて"あの頃"以来っスね。まぁ、アタイは専門分野じゃないっスけど――いくっスよーー!!」


 そう言うと、火打石で円柱に火をつける。

 シューという音と煙を放ったのち――筒から火の弾が飛び出し夜空を明るく照らす。


 ――信号弾だ。



 程なくして――


『姉貴からの合図だ! ――うぉぉ! 野郎ども! いくぞー!!』


 遠くから雄叫びのような図太い声が響き、東門から盗賊風の男達が群れを成して攻め入ってくる。

 その数2,30人は居るだろうか。


 まさか、火事場泥棒か!?


 慌てて少女の方を見るが、続いて聞こえてきた声にジェイドは我を疑う。


『いまこそマグナスの旦那に恩を返すときだ! 皆、怯むなよーー!!』


 突然聞こえてきた弟の名前。


 訳も分からず成り行きを見ていると――男達は次々と魔物に斬りかかり襲われている市民を助けていく。


 荒々しくはあるが、戦慣れた様子。

 おそらく実戦においては騎士団の中隊以上の実力かもしれない。


 そんな中でも、一線を画す活躍を見せる剣士の姿が。

 他の者達が数人がかりで魔物と戦う中、単騎で、しかも目で追うのもやっとという速さで次々と魔物を葬り去って行く。


『さすがシューの旦那!』


『俺もマグナスには借りがあるからな。店にツケも溜まってるし――支払い分くらいは働いとくか!』


 べらぼうに強いのは確かだが……あの剣技には見覚えがある。

 確か小さな頃に一度だけ戦っているのを遠目で見た事のある……歴代最強と言われた元騎士団長の剣技にとても良く似ている。


「――お! こっちも来たみたいっスね。そんじゃアタイもいってきます!」


 そう言うと盗賊風の少女はふわりと時計台から飛び降りる。


「えっ!? ちょっと――!」


 慌てて下を見ると、少女は時計台の外壁を蹴りながら軽やかに棟を駆け下りて行く。

 ――人間業じゃない。



 少女が地上に到達すると同時に、今度は門から武器を構えた集団が一斉に駆け込んで来た。


 その数、100や200じゃない。

 しかも驚いた事に――その全員が美しい女性だ!


 美女達は、それぞれに異なる武器を振るいあっという間に魔物を殲滅していく。


 信じられない事に、物の数分で広場の魔物を殲滅してしまった。


『皆、進むわよ! 目指すは王宮! 狙いは魔人の首よ!』


 台車に乗せられた水の入ったタライに浸かり、青い髪の女性が指示を出している。

 それだけでも奇妙な光景なのに……


「え……? に、人魚!?」


 女性の下半身は美しい鱗に包まれた魚の形をしていた。


 ……夢でも見ているのだろうか。

 もはや訳が分からない。


 訳は分からないが――とにかく形成は一気に逆転しはじめた。




 ―――――




『そっち! 2匹行きました!』

『任せて! ――そこ! 後ろ気を付けて!』


 王宮前では激しい攻防が続いている。


 互いに連携を取りながら魔物を迎え撃つ、モリノの騎士団と他国の錬金術師達。

 最初は隊列も攻撃のタイミングもチグハグな即興の部隊だったが、戦ううちに息が合うようになり魔物の群れを押し返し初めてきた。



「いい感じね! さすが常勝モリノの騎士団と世界各国から集まった錬金術師達」


「はい! これならどうにかなるかもしれませんね!」


 ナーニャとリリアも後方から支援しつつ戦いの行方を見守る。



「すいません! こっちに回復のポーション3つ貰えますか!?」


 若い騎士がナーニャ達の元に駆け寄ってくる。


「はい! 直ぐに準備します!」


「城の備蓄全部使っていいそうだから、在庫はふんだんにあるわよ!」


 リリアは木箱からポーションを取り出すと、騎士に手渡す。


「ありがとうございます! じゃ、行ってきます!」


「あの! 気を付けてくださいね!」


 ポーションを手渡しながら、騎士の手をギュッと握るリリア。


 若い騎士の顔がみるみる真っ赤になる。


「は、はい! 任せてくださいっ!」


 少し固まったあと、騎士は元気いっぱいに駆け出して行った。


「……あなた、恐ろしい子ね」


「えっ!? 何の事ですか?」


 じっとりとした目で見つめるナーニャに、訳もわからず慌てるリリア。


「よかったら譲歩欲の所と兼任で、私の跡継ぎとして修行してみない?」


「え、えぇっ!? いきなりのスカウトですか! ど、どうして急に――」


 そこまで言いかけて、リリアがハッとした顔で慌てて駆け出す。


 何事かと思いナーニャも立ち上がると、ポーションを受け取っていった若い騎士が、すぐそこで倒れていた。

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