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10-25 絶望の中の希望

 同じ頃、王宮中庭にて――



「ほぉ……これはこれは。まさかこうして生きた伝説にお会いできるとは。光栄の極みです」


 魔人の目線の先には――剣帝グレイラットの姿が。

 使い古された焦げ茶色のマントに身を包み、じっと魔人を見据えている。


 ただ立っているだけで溢れ出す圧倒的な気迫。

 気圧されて、周りの魔物達は遠巻きに威嚇する事しかできない。



 グレイラットが1歩踏み出すと、魔物達が一斉に警戒の唸り声を上げる。


「まぁまぁ、そう警戒せずとも。伝説とはいえ辛うじて生きているような老いぼれ故。一つお手柔らかに頼みますよ。


 静かに腰のロングソードを抜き去る。


「……ふむ。剣帝の手前、剣でお相手をせぬとあっては失礼にあたりますな。少々お待ちを」


 一つ頷くと、魔人は自信の鎧の、腕に生えたトゲを1本掴む。


 そのトゲを徐に引くと、体内から褐色の骨のような物が現れる。

 そのままズブズブと骨を抜き去ると――出て来たのは深紅の長剣だった。


 血のような赤い液体がとめどなくしたたる禍々しい長剣は、大人の身長を優に超える長さだ。



「……随分と悪趣味な剣ですな」


「審美的と言ってください」


 魔人が長剣を一振りすると、飛び散った赤黒い雫が飛翔する斬撃となりグレイラットを襲う!


 斬撃の直撃を受け、グレイラットのマントが真っ二つに割け宙を舞う……



「――なんだ、呆気ないものですね」


 そう呟く魔人の背後で、月明かりに照らされ音も無く飛翔するグレイラット。


 地を割くような一撃が魔人の背中を大きく切り付ける。




 ―――




 同刻、王宮前にて――



「ナーニャさん! 大丈夫ですか!?」


 リリアが、持ってきた回復のポーションを小分けにしてその場に居合わせた皆に配る。


「ありがとう、私は大丈夫。それより彼に魔力のポーションを」


 その腕に抱かれているのは、"授乳欲"のアイテムを使い魔法で戦っていた少年だ。

 彼のお陰で城内の防衛はギリギリ持ちこたえてきたが――さすがに疲れの色が見える。


「ごめんね。キミにばかりに無理させて。私も直接闘えれば良いんだけれど」


 ナーニャが少年の頭を撫でながら謝る。


「そんな、気にしないでください! それより、僕まだやれます!」


 リリアから貰った魔力のポーションを一気に飲み干し、少年は再び立ち上がる。


 気丈にふるまってはいるが、その足取りはおぼつかない。

 いくらナーニャのアイテムを使っているとはいえ、年端も行かない少年が大魔法を何度も放っていては体が持たないのは明白。



「申し訳ない。私も何かお役に立てれば良いのですが……」


 リリアと一緒に兵士のサポートにあたっていたルルスもナーニャ達の元にやってくる。


「ルルスさん。気にしないでください。たしか"譲歩欲"はあまり実戦向けの特性じゃなかったですよね」


 ナーニャがルルスを気遣うように微笑む。


「ええ。錬成時に特性の衝突を避ける事が出来るのですが、あまり実戦向けでは。……こんな事になると分かっていれば、昔のアイテムを持ってくるべきだったか……」


「――ダメです師匠! 師匠はもう"破壊欲"の力は使わないって決めたじゃないですか! 私と約束しましたよね!?」


「し、しかし――」


「しかしもなにもありません!」


 リリアの剣幕に圧され、小さくなって押し黙るルルス。

 その様子を見てナーニャは思わず吹き出してしまう。


(破壊欲のルルス。その特性は"アイテムで人を殺せば殺す程その威力が上がる"。そんな戦争の申し子みたいな錬金術師が、ぱったりと姿を見せなくなったと思ったら……随分と良い余生を過ごしてるみたいじゃない)



「――さ、それじゃもうひと頑張りしましょ! いくら魔人が化け物だといってもその力は有限のはず。根競べの続きといくわよ!」


 ナーニャの激励を受け、辺りに居た錬金術師達が再び勢いづく。

 皆、若い頃ナーニャの世話になった者達だ。



 騎士達とタッグを組み、攻め入る魔物達にむけ攻勢を再開する。




 ―――――




 裏路地を走るジェイドとシスティ。


 時折物陰から大通りの様子を伺いつつ慎重に進む。

 通りでは徐々に魔物の数が増えてきているようだ。


「ねぇ、お兄ちゃん。怖そうな魔物がいっぱい……大丈夫かな」


「大丈夫だ。システィの事は俺が必ず護るから。――ほら、あそこの門が見えるかい? あこまで行けばもう街の外だ」


 そう言って通りの向こうに見える門を指差す。


 あれが目的の"東外門"。

 あそこさえ抜ければ街の外へ出られる。


 外の様子は分からないが、門の外にある森にさえ逃げ込めばそこから各方面へ逃げる手立てはいくらでもある。

 あこまで逃げ切れば……



 しかし、門へ辿り着くにはどうしても魔物が闊歩する大通りを横切っていかなくてはならない。


 システィを連れた上で魔物に見つからず走り抜けるのは至難の技。

 恐らく戦闘は避けられないだろう。


 ジェイドは腰の剣にそっと手を掛ける。

 あれだけの魔物相手に、自分の腕では正直勝ち目があるとは思えない。


 いざという時は、自分が盾になりシスティだけでも街の外に逃そう。


 そう心に決めてグッと拳に力を込める。



「いいかいシスティ。何があっても絶対に立ち止まらずあの門まで走るんだ。約束出来るかい?」


 ジェイドの問いかけに、一瞬躊躇いつつも深く頷くシスティ。

 覚悟の籠ったその目に、どこか小隊長の面影を感じつい口元から笑みがこぼれてしまう。



「――さぁ、行くよ!」


 魔物が通り過ぎるのを確認し、勢いよく裏路地から飛び出す。



 辺りを警戒しつつ、散らばる瓦礫を避けて前を走るジェイド。

 システィーも手を引かれつつ精一杯後ろからついて行く。


 幸いな事に周囲の魔物はまだグレンたちに気づいていない。


(――大丈夫だ! これだけ距離があればたとえ気づかれても門まで逃げ切れる!!)



「システィ! 頑張れ!! もう少しだ!」


「うん!!」


 目指す門は目と鼻の先。

 念のため後ろを振り返るが、付近に魔物の姿は無い。


(よし! 逃げきれた!!)


 安堵しシスティーの顔を見ようと俯いた時――ふと周囲が暗くなる。


 ――影?


 影は見る見る大きくなり2人を覆う。


(――!!)


 咄嗟に、システーを突き飛ばすジェイド。


「えっ!? お兄ちゃ……」



 突き飛ばされ尻もちをついたシスティーが見たのは――狼型の大きな魔物に押しつぶされているジェイドの姿だった。


「クソッ! 上に居たとは」


 この魔物、巨体の割に随分と身のこなしが軽いらしい。

 付近の民家の屋根からジェイドたちに飛び掛かってきたのだった。


 どうにか抜け出そうと必死にもがくが、魔物はジェイドをしっかりと押さえつけて離そうとしない。

 口から涎を垂らし、その鋭い牙をジェイドの顔へ近づける。


「お兄ちゃん!!」


 慌てて駆け寄ろうとするシスティ。


「ダメだ! 来るなシスティ!! そのまま門まで走るんだ!」


「でも!!」


 大粒の涙を流して泣きじゃくる。


「約束したろ! 俺が守るって! ――行けぇぇ!!」


 ジェイドの決死の叫びを聞き、狼狽えながらも門に向かい走り出すシスティ。



(それで良い。悔いは残るが……騎士としては立派な最期だろう)


 門の手前で、システィーがもう一度ジェイドの方を振り返る。



 心配させまいと精一杯の笑顔を返したその時――



 システィーの目の前に突如として大型の魔物が飛び出してくる

 先程大人を丸呑みにしていたトカゲ型の魔物だ……!


「き、きゃぁぁ!」


 怯えて座り込んでしまうシスティー。


 ギョロギョロと動く目がシスティ―を捕える。



「ダメだ! 逃げろシスティ!!」


 真っ赤な舌が素早く伸び、システィ―を絡めとる。


 その腕からウサギのぬいぐるみが零れ、地面に落ちる。



「やめろぉぉぉ!!」


 ジェイドの叫びも空しく、システィはその大きな口に飲み込まれてしまった。


 絶望し項垂れるジェイド。

 そんな彼の頭を噛み千切るように、狼の魔物が大きく口を空け喰らい付く。

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