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10-18 迎え撃つ者

「――へ、陛下をお守りしろ!!」


 呆気に取られ動けないでいた兵士たちが、我に返り大慌てで陣形を組む。

 グランツ陛下を後ろに隠し、魔人を包囲するように取り囲む。



「――いかん! 皆逃げるのだっ!!」


 髭じぃが慌てて叫ぶが、次の瞬間――

 魔人が大きく腕を振るうと、5,6人居たはずの兵士が跡形もなく消えて無くなった。

 辺りには、おそらく鎧を模っていたであろう輝く銀の粒と、舞い散る血の粒子が赤い霧となり漂っている。



「い、いやぁぁぁ!!」


 あまりにも無残な光景に、リリアが思わず悲鳴を上げる。


 その声を合図に、俺とルルスさん、ティンクとリリア、髭じぃとグランツ陛下、それぞれに肩を取りながら一目散に廊下を走り出す。



「――ほぉ、これは都合が良い。モリノの権力者が2人ですか。人の世を統べる"神"となるため、手始めに殺しておきましょう」


 魔人はこっちに向き直り、肉食獣が獲物に飛び掛かるように四つん這いで後ろ足に力を込める。


 ――まずい! こんな直線しか無い廊下で、あの巨体で突進なんかされたら避ける方法が無いぞ!


 辺りを見回してみても、隠れられるような物陰も無い。


 一か八か迎え撃つか……!?


 いや、手負いだったとはいえあの爺さん、相当な腕前だった。

 それがああもあっさりやられたんだから、ここに居る全員でかかったところでさっきの兵士達みたいに一瞬で塵にされるのは目に見えている。


 クソッ、逃げきれない……!



 もう一度魔人の方を見る。


 すると……床に付いていた両手のうち、左手がボロリと崩れ落ちそのまま上体から倒れ込むのが見えた。


「……? 何だ、これは?」


 自らの身に何が起こっているのか分からず、困惑する魔人。

 残っている右手で上体を支え起き上がろうとするが、今度は右足が捥げて再び床に倒れ込む。


「――なるほど、いけませんね。まだ身体が馴染んでいないのにはしゃぎ過ぎましたか」



 どうやら上手く身体を制御し切れていないようだ。


 もしかしてこれは、またとないチャンスか!?

 ――そう思い一瞬立ち止まるが、すぐにティンクに腕を引っ張られる。


「無理よ!! 並大抵の力で殺せるような相手じゃないわ! 見なさいアレ!」


 改めて魔人を見ると、崩れたパーツが液体のように変化し蠢き本体と融合しようとしているのが分かった。

 チュラで見た亡者の再生能力を思い出す。


 なるほど、ティンクの言う通り一筋縄ではいかないか。



「……分かった、今のうちに逃げるぞ!」


 俺の言葉を合図に、再び全員が走り出す。




 ―――




 再生に思いのほか時間がかかっているのか、魔人は直ぐには追ってこなかった。

 お陰でどうにか晩餐会の会場まで戻って来ることができた。


 勢いよく会場のドアを開け中へ入る。


 近くに居た人々が驚いてこっちを見る。

 国王と前国王、2人揃って慌てふためくその様子にざわめき始める来賓者たち。

 ただならぬ事態察した警護兵が慌てて駆け寄って来る。



「皆の者! 良く聞いてくれ!」


 グランツ陛下が声を上げる。

 会場を優雅に盛り上げていた演奏が止まり、賑わっていた歓談も一斉に静まり返る。


「族の手引きで城の中に魔物が侵入した! 見た事のない凶悪な魔物だ!」


 成程、上手い説明だと思う。

 まさか『城に隠してあった兵器が暴れ出しました』とは言えないだろうからな。

 ひとまず皆を避難させるなら、迫っている脅威だけ伝えてその他のややこしい話は後回しだ。


 ……けれど、グランツ陛下はとんでもない事を言い出す。


「危険な相手ではあるが――もし腕に覚えのある者が居れば討伐に協力して貰いたい! 見事打ち取った者には何でも望みの褒美を与えよう!」


 声高らかに宣言するグランツ陛下。

 髭じぃが慌てて後ろからその腕を引く。

 観衆に背を向け、声を殺して陛下に詰め寄る髭じぃ。


「ば、バカ者!! まさかアレと戦うつもりか!? 見たじゃろ、あれは人間が敵う相手ではない!」


「では、父上はアレが街に放たれても良いというのですか!? 幸い城には我が国の兵士だけではなく各国から集まった腕利きの錬金術師が揃っています! ここで叩かずしてどうするというのですか!? 彼らの力を借りない手はありません!!」


 睨み合ったまま両者一向に引こうとしない。

 何がどうなっているかも分からずざわめく会場。


 そんな人の輪を割くように、1人の男性が陛下の前へ躍り出る。



「――これはまた随分と、面白い余興ではないですか!」


 その声に会場が静まり返る。

 皆の視線を一身に浴び自信ありげに笑うのは、"顕示欲のフラメル"だった。


「本日は余興で品評会が行われるとお聞きしておりましたが、こういった趣旨だったのですか?」



 ――事前の案内によると、晩餐会の余興として、各自が任意で持ち寄った自慢のアイテムの品評会を行う事になっていた。

 おそらくその事と勘違いしているんだろう。


「いや、違う! これは催しではなく実戦だ! ……しかし、活躍を見せてくれれば王宮錬金術師として手厚く歓迎する事も藪沙汰ではないぞ!」


 髭じぃを押しのけ、観衆へと向かい宣言するグランツ陛下。


『モリノの王宮錬金術師だって!?』

『悪い話じゃないな』

『それに褒美も望みのままって……』


 フラメルに触発されたのか、俄かに浮足立つ錬金術師達。



「馬鹿な事を……」


 頭を抱えて首を振り、髭じぃは後ろへと下がる。

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