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10-17 神の力

「えっ!? ど、どうしたんですか――」


 近くまで駆け寄って、リリアから満身創痍のルルスさんを預かり肩を貸す。

 同じくティンクはリリアの肩を支えて走る。


「――リリア! 手どうしたの!? 怪我したの!?」


「だ、大丈夫です! それより、皆さん早く逃げて下さい!」


 心配するティンクに向かい、涙ながらに訴えるリリア。


「2人共落ちついて下さい! 一体何が――!?」


 慌てる2人をどうにかなだめようとしていると、砂埃の中から再び何かが飛び出してきた。

 その物体は床をゴロゴロと転がり壁にぶつかって止まる。


 ――人だ!


 黒い執事服を着た老人……

 確か招待状を無くした時に助けてくれた錬金術師の執事さん――って、血塗れじゃねぇか!?


 老人は頭から血を流し、服もあちこちが破れ血で真っ赤に染まっている。

 辛うじて生きてはいるようだが、苦しそうに顔を歪ませぐったりと床に倒れたまま動かない。


「だ、大丈夫ですか!!」


 慌てて駆け寄ろうとすると……


「マグナスさん! ダメです! あいつがこの騒ぎの犯人です!」


 俺の肩を掴み必死で止めるルルスさん。


「は、犯人!?」


 改めて老人の方を見る。

 口から血を吐きながらも、どうにか上体を起こし曲がり角の先を睨んでいる。


「――貴様どういうつもりだ!? 祖国を裏切る気か!!」


 振り絞るように声を上げる老人。


 誰に向かって叫んだのか分からないが、その問いに答えは返ってこない。


 代わりに廊下の先から、ヒタ……ヒタ……とゆっくりとした足音が聞こえてくる。



 舞い上がった砂埃が収りつつある廊下の先から姿を現した足音の主……



 何だ――あれは?


 上手く言い表せないが、人……なのか?


 一応、二足歩行をする人の形は成している。

 しかしその身体は通常の人間よりも遥かに巨体で、異常に発達した筋組織が剥き出しになっている。

 頭には雄牛のような巨大な2本角が生えていて、神話に出てくる悪魔を思い出させる。

 しかしその禍々しい風態とは裏腹に、背中に天使を思わせるような真っ赤な翼があり、黄金に輝く光輪を背負っている。


 冥界に堕ちた天使――もしくは、天使に成り損ねた悪魔。



「――しまった、遅かったか!! しかしどうやってこの短時間に結界の解除を……まさか――解除ではなく"破壊"したのか?」


 驚いた顔でグランツ陛下を見る髭じぃ。

 陛下は異形の怪物を見つめたまま呆然と立ち尽くしている。


「グランツ、分かっておるのか!? あの封印はページー以外には作れん!! 一度壊してしまえば魔神を再び封印する手立ては無いんじゃぞ!!」


 髭じぃが陛下に詰め寄り、その肩を激しく揺する。

 そこまでされて我に返ったのか、陛下が虚ろに首を振りながらボソリと呟く。



「――な……何だあれは?」


「……は? アレが“ヴィルサラーゼの魔人”じゃ! お前が呼び起こしたんじゃろ!?」


「な、何を言っているのですか!? 私は知りませんよあんな化け物!」


 何度も目を瞬かせ狼狽えるグランツ陛下。


「今更知らばっくれるでない!! つい今さっきまで"アレ"の話をしておったではないか!」


「――は!? 先ほど話していたのは“倉庫掃除のナターシャ”の話です! 私が最近目にかけていたのを知っておきながら、父上がちょっかいを出していると聞いたもので!」


 声を荒げる陛下。

 その発言に、一瞬にして場の空気が凍りつく。


「……ば、馬鹿もん!! 確かにナターシャはここ数年で1番のナイスバディを誇る逸材じゃが――て、こんな時にそんな話をしとる場合か!」


 ――こいつらは、親子そろいも揃って……! スケベって遺伝するのか!?

 ……まぁうちもじいちゃんがアレで俺が俺だから他人事とは思えないけど。



 一同が揃って溜め息をついていると、そんな冷めた空気を切り裂くように――唐突に罵声が響き渡る。



「何とか言ったらどうなんだ、ヘルメス!! 血迷ったのか!? たかが一介の錬金術師が、国家権力にも匹敵する我々に敵うとでも!?」


 ヘルメス――?

 てことは、まさかあの化け物……


 改めて異形の化け物を見ると、驚いた事に人の声で話し始めた。


「――えぇ。知っています。確かにあなた達の戦力は強大だ。だからこそあなた方に従い、こうして錬金術の“素材”として身を捧げた訳です。――が……あぁ、こうして魔神と同化して分かりました……フ、フハハハハハ!」


 地の底から響くようなくぐもった声でさも可笑しそうに笑う魔人。

 ひとしきり笑い終えると、大きな翼を一気に広げる。

 飛び散った羽根が、月明かりを反射しまるで宝石のように輝きながらユラユラと地面に落ちては消える。



「――この力は“神”! 神の力を手に入れた以上、どうして人間如きを恐れる必要があろうか!? 人も軍も国すらも、今の私に取っては恐るに足らず!!」


「貴様! 恥を知れ! 誰のお陰で今日まで錬金術の研究が出来たと思ってるんだ!」


 老人が口から血を流しながら罵声を上げる。

 そんな老人を見下すように眺めながら、魔人は静かに目を瞑る。


「……あなた方に監視される生活にも、もううんざりしていた所なんです。二言目には祖国、祖国と。バカの一つ覚えのように。この力さえ手に入れば――サンガクなどという既に終わっている国が、飢えようが滅びようが私の知った事ではない!」


「き、貴様っ!!」


 老人は、倒れていた態勢から四つん這いで駆け出し、重症を負っているとは思えないスピードで一気に魔人との距離を詰める。

 その早さに反応出来ずにいる魔人の懐へと飛び込むと、手に持った短剣を素早く繰り出す。


 その一撃は的確に急所を狙い、魔人の喉元を確実に捉えた!



 ――しかし、甲高い金属音を立て短剣はあっさりと折れてしまう。


「――なっ!?」


 驚いて目を見張る老人。

 よく見ると、むき出しの筋組織だと思っていたその体表は、月明かりを浴び鋭く輝いている。

 おそらく、全身鎧(プレートメイル)のように体全体が強靭な鉱石で出来ているのだ。



「……鬱陶しいですね」


 老人の決死の一撃を軽く受け流し、魔人が軽く手を払う――


 すると、パンッと風船が爆ぜるような音がして、老人は真っ赤な霧となって霧散し跡形も無く消え去った。

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