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10-14 魔神

 人通りの無い暗い廊下を歩くルルス。

 前を行く使用人は、只々黙々と早足で歩いて行く。


「……あの、すいません」


 流石に何かおかしいと思い、使用人に声を掛ける。


「本当に何というか――こんな人気の無い場所に休憩室があるのですか?」


「――はい、会場の近くでは騒がしくてゆっくりお休み頂けないかと思いまして」


「それにしてもいくらなんでも離れすぎじゃ……」


「……もう少しですので」


 そう言って尚も足を進める使用人。


「……わかりました。では質問を変えましょう。――回りくどい事は止めて、早く要求を言ってはどうですか?」


 ルルスが足を止めると、使用人は振り向きもせずピタリと静止する。


「……どういった意味でしょうか?」


「別に隠す必要はありませんよ。その衣服の下に隠した短剣。仮に護身用だとしても城の使用人がそんな物騒な物は持ち歩きません。それに、足音を立てずに歩くその歩行術、サンガクの暗殺部隊がよく使うものです」


 立ち止まったまま、何も答えない使用人。

 微動だにしないその立ち姿からは、息遣いすら聴こえてこない。

 さっきまでせかせかと歩いていたはずなのに、今度はピクリとも動かずまるで置物のようだ。


「まぁ、貴方がサンガクの何処かの部隊に属する暗殺者である事はパッと見で分かったのですが――わからないのは目的です。リリアを誘拐してどうしようというのですか? ご存知かもしれませんが、私は身代金に見合うようなお金なんて持ち合わせていませんよ」



「――さすがですね。瞬時にそこまで見抜くとは。戦場の勘は鈍っておいででないようで安心しました」


 突然暗がりから男の声がする。

 前を歩いていた使用人とは別の男だ。

 廊下の曲がり角から徐に現れたのは、シルクハットを被り片眼鏡をした背の高い男。


 その隣には仕立ての良い執事服に身を包んだ老齢の執事が控えている。

 その手に囚われているのは……リリア!

 口にロープを噛まされ声を上げれないように拘束された上、喉元に鋭いナイフを突きつけられている。


「――貴方達、こんな下等の錬金術師に何を要求すると言うのですか。先程も申しましたが、私を脅した所で、“その子”よりも価値のある物など何も持ち合わせていませんよ」


「いえいえ、そんなご謙遜を。かつて戦場で最恐の名を欲しいままにした“破壊欲の錬金術師”が下等だなどと。とんでもない」


 胸に腕を当てて上品にお辞儀をしてみせる片眼鏡の男。


「――何が目的だ」


 先程までの物腰柔らかな様子とは打って変わり、今にも飛びかからんという鋭い目つきで男を睨むルルス。


「話が早くて助かります。――いえなに、そんな難しい事を要求するつもりはありません。この城のとある結界を破壊して貰えれば良いんです」




 ――――




「なぁ、一体さっきから何の話なんだよ。全然話が見えないって」


 早足で廊下を進みながら、前を行く髭じぃとティンクに声を掛ける。


 俺に呼び止められ歩く速度を落とす2人。



「……“ヴィルサラーゼの魔人”」


 ティンクが呟く。


「魔神??」


「あぁ。かつて戦時中にモリノが開発した……“兵器”じゃ」


 そう言う髭じぃの声はいつになく暗い。



「――その兵器が何だってんだよ?」


 俺の問いを受け2人は顔を見合わせる。

 お互いに目くばせし無言のまま頷くと、歩みを止めてこっちを振り返る。


「いい? これから話す事はモリノでも殆ど知る人の居ない極秘事項よ」


「ここまで連れてきておいて何じゃが……これは本来、ワシら古い人間が片付けるべき問題じゃ。お前さんを巻き込むのは本心ではないんじゃが……許してくれるか?」


 申し訳なさそうに俺を見る髭じぃ。



「許すもなにも……話してくれないと分かんねぇって。その兵器がどうしたんだよ」


 それを聞いて、決心したように話し出す。


「かつて……まだページーが現役だった頃、モリノが周辺諸国から侵略を受けていた事は知っとるな?」


「あぁ。何度も戦争をふっかけられたって」


「そうじゃ。けれどモリノはことごとく勝利を収めた。小国であるモリノが何故勝ち続ける事が出来たか、分かるか?」


「そりゃグレイラットさんみたいな英雄が居たからだろ? それに髭じぃの治世も凄かったとか聞いたけど」


「まぁ、剣帝やワシの功績もあるが、それだけでは国力に劣るモリノに勝ち目は無かった。実際の所徐々に他国の侵攻に押されておったんじゃよ」


「じゃあ、何で?」


「我が国には錬金術があった。ページーを始めとした優秀な錬金術師達と恵まれた森の素材があったからの。彼等の注力でどうにか戦局は均衡を保てておった」


 話しながら髭じぃはゆっくりと歩き出す。


「……しかし、それでも戦争を終わらせる程の決め手がなかった。それで王宮の錬金術師達が作ったのが――“ヴィルサラーゼの魔神”」


「具体的には、錬金術の秘術で生み出した自律行動する超高純度の魔法生命体よ。チュラで亡者を見たでしょ? あれのとんでもなく凄いやつ」


 ティンクが横から補足してくれる。


「まさか爺ちゃんが王宮でしてた研究って――それなのか?」


「いや、ページーはこの件には一才関与しとらん。というかワシにも知らされておらんかったんじゃ。ワシらが知っとったらこんな無茶な研究は即刻辞めさせとったわ。……一部の大臣と錬金術師が極秘で作り上げた物じゃ」


「――でも、戦争はとっくに終わっただろ? 何でそんな兵器が今更?」


「作ったは良いものの、制御しきれず結局一度も使われんまま封印されたんじゃ。一度暴れ出したら止める手立てが無いんじゃと。国一つを滅ぼす程の力を持つ兵器だぞ? アホかと……つまりは失敗作じゃ」


 ため息を吐いて頭を振る髭じぃ。


「そうこうしてる間に、ページーが進めておった研究が完成。それが切り札となりモリノは戦争に完全勝利したんじゃ。失敗作の魔神は日の目を見る事なく城の地下深くで本日まで封印……という訳じゃ」


「……成る程な。ティンクがさっき言ってた『何で破壊しなかったのか』ってのは?」


「こんなものさっさと破棄するようにワシから何度も命じたのじゃが、今の技術では葬り去る術が無いんじゃ。それで仕方なく封印したままになっとる」


 成る程。

 話は大体分かった。

 作ったは良いが捨てるに捨てられなくなった、制御不能の超兵器って訳だ。


「そんで、リリアの師匠……“破壊欲の錬金術師”がその“魔神”を狙ってるかもしれないって話だな」


「あぁ。この話はグランツすら知らん極秘事項のはずじゃ。しかし、最近あいつが西棟の倉庫に足しげく通っとるという噂があっての。まさかとは思っとったのじゃが。――まぁただの杞憂だったならそれで良い。とにかく確認に急ぐぞ」


 そこまで話し終えると髭じぃが再び歩く速度を早める。



「――なぁ。ちなみにじいちゃんが作った、戦争を終わらせた兵器って、もしかして――」


 髭じぃに問いかけようとした時、突然前を行く髭じぃが足を止める。

 その背中にぶつかりそうになり俺達も慌てて止まる。


「おわっ! 急に止まるなよ、危なねぇって……」


 髭じぃの肩越しに前を見ると、廊下を塞ぐように立つ複数の人影が見える。


 兵士達を従え、その先頭に立つのは――現国王グランツ陛下。



「父上、護衛も付けずどちらへ?」


 俺たちを見据えながら不敵な笑みを浮かべる。


「……なに、便所じゃ」


 かなり無理があるのは分かっているのか、愛想笑いもせずに答える髭じぃ。


「この先は倉庫しかありません。お手洗いは戻って右側です」


 そう言い放つグランツ陛下の顔は、とても自分の父親を見るものとは思えないほど冷たく残忍だ。



「……グランツ。よもやとは思うが……“アレ”に手をだそうなどと考えてはおるまいな?」


 その顔を見て確信したのか、髭じぃも険しい目つきでグランツ陛下を見据える。


「父上……以前から申し上げようと思っておりましたが……”アレ"は父上がどうこうして良いものではありません。ご老体はそろそろ――舞台から降りて頂きたい」


 陛下が合図を出すと、兵士達がざっと廊下いっぱいに広がり防御の姿勢を取る。

 何があっても俺たちを通すつもりはないようだ。

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