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10-10 人気の無い廊下で

 次々と投げかけられる質問に目が回りそうになりながら答える。


 中でも、女性からは工房の資金繰りやじいちゃんの遺産についてそれとなく探りを入れるような質問が多い。

 店があんまり儲かっていないのを知るとそう言う人達はそそくさと話を切り上げて去っていく。

 きっとこのパーティーにお婿さんを探しに来たんだろうな。

 錬金術師は専門職だし確かに一発当てれば大きいけれど……それは王宮錬金術師や弟子を何人も持つ有名錬金術師など極限られた人達だけだ。

 まぁ……だからこそ玉石混淆集まってる中から宝探ししてるわけか。

 お疲れ様です。



「おーおー、盛り上がっとるではないか!」


 そんな淑女たちの後ろから突然大きな声が聞こえてくる。

 その声を聞いて、あれだけ騒いでいた人の輪が一斉に静まり返る。


 まるで海を割く賢者の如く、人混みを割って姿を現したのは……


「髭じ……! じゃない、エイダン陛下!」


 危ない、思わずいつものノリで手を振りそうになった。

 こんな面前の前で無礼な態度を取ろうもんなら即刻摘み出される。


 慌てて膝をつき頭を下げる。

 周りに居た人達も神妙な面持ちで頭を下げ陛下の動向を見守る。


 さすが、元とは言え一国の主。

 その威厳は健在だ。


 けれど……まぁ。

 分かってはいたけど……


「あらエイダン。珍しいわね、あんたがこんな面前に顔を出すなんて」


 いつも通りタメ口上等で絡んでいくティンクさん。


 ――この傲慢無礼な態度。

 前々から如何なものかと思い麻の服ちゃんに相談した事もあったけれど、つまるところ『王だ領主だといってもそれは所詮人の世の話。アイテムにとって主君は創り出してくれた錬金術師であり、その他の人間は全て平等に等しい』という事らしい。

 理屈は分からなくも無いけれど……だとしたらもっと俺の事を敬って欲しいもんだ。



 まぁ、そんなアイテムさん達の事情は逆に人間には関係ない事で、あっという間に護衛の兵士に取り囲まれるティンク。


「貴様!! 先程から大目に見ておれば! グランツ陛下のみならず、エイダン陛下にまで何たる無礼な態度!!」


 完全にブチギレた様子で、今にも剣を抜こうとする兵士達。


「辞めい、辞めい。こんな宴の席で物騒な真似をするな。良い、ワシの昔馴染みじゃ。ワシの顔に免じてそう騒ぎ立てんでくれ」


 髭じぃに言われて、戸惑いなかまらも一礼して下がる。


「マグナスも頭を上げい。何を今更改まっとるんじゃ。ワシとお前の仲じゃろ」


「いや、流石に人前では敬意を示さないといけないかなと思って」


「いや、人前じゃなくても敬意は示してくれんかの」


 引き攣った顔で笑う髭じぃ。


「皆の物、騒がせてすまぬ。引き続き大いに盛り上がってく」


 突然の“名君”の登場に一層賑わい立つ会場。

 周りに居た人達も再び歓談を始める。


 その中でヒソヒソと聞こえてくるのは……


『お、おい。エイダン陛下とも相当親しいみたいだぞ』

『いったいどんだけの人脈があんだよ、“色欲”。ヤバくないか』


 これはもう完全に悪目立ちしてしまった。

 そう言われてみれば、うちの店の常連って相当に“ヤバい”人達ばっかりなんだよな。

 爺ちゃんの影響は大いにあるけれど、我ながら相当人には恵まれていると思う。

 ……いや、それもこれもティンクが居てくれたお陰だな。



 久々に会った髭じぃも加え、ここ最近の冒険の話なんかをしながら楽しくパーティーの時間は過ぎて行った。



 ただ一つ。

 気になったのは……離れたテーブルに居るグランツ陛下。

 髭じぃが現れ会場が盛り上がってからというもの、どうにもつまらなさそうな様子でチラチラとこちらのテーブルの様子を伺っている。


 まぁ、何となく心中はお察しするけれど……大変だな。



 ――




 宴が始まり小一時間が経った頃――


 調子に乗って飲み物を飲み過ぎたのか、急にトイレに行きたくなった。


 係の人に場所を尋ね、廊下へと出る。


 音楽と笑い声が絶えない賑やかな会場と比べ、外は驚く程に静かだった。

 突然の静寂に耳鳴りが聞こえて来る程だ。


 中庭を見渡しながら石造の回廊を歩いて行く。

 綺麗に手入れされた中庭では、珍しい植物達が月明かりを浴び夜空へと真っ直ぐに背を伸ばしている。

 もう次期冬だっていうのに随分と元気だな。

 もしかしたら国外から取り寄せた寒さに強い品種なのかもしれない。


 そんな事を考えているうちに廊下の突き当たりまで来た。

 トイレは右手の方だって言ってたな。

 角を曲がろうと左右を確認していると……ふと、トイレとは反対の方から人の声が聞こえてくる。


『……いえ、勘弁してください……そこを何とか……いやいや、そんな! リリアだけは……!』


 別に盗み聞きしようとした訳じゃないが、突然出たリリアの名前が気になってしまい、思わず廊下を左へと曲がる。


 人の声はさらに先の突き当たりを曲がった先から聞こえてくる。

 音を立てないよう気をつけながら、角からそっと様子を伺う。



「だからな、お前、仮にも“譲歩欲”の錬金術師なんだろ!? 金が払えないならリリアをうちに寄越せってんだよ。その方があいつの為にもなるだろ!」


「お、お願いですからそれだけは勘弁してください! あの子は私にとって大切な唯一の教え子なんです」


 夜の闇に身を隠しつつ覗き込むと、数人の男が、1人の中年男性を取り囲んでいる。

 先頭で啖呵を切っているのは、さっきリリアをからかっていた太った青年だ。


 ――てか、何だ。

 あの太っちょ、ヤケにリリアに突っかかってくると思ったら、そう言う事かよ。

 ったく、子供か……。



「それならとっとと今月分の金を払えよ。5日以内にだぞ! それが無理ならリリアを寄越せ!」


 鼻息を荒くして唾を飛ばす太っちょの青年。


「そ、そんな! 支払い期日まであと10日はあるはずでしょう」


「先月も待ってやったんだ! その分今月は早く払って貰う」


「そ、そんなめちゃくちゃな」


 今にも泣きそうな顔で狼狽える気の弱そうな細身の男。

 痩けた頬に、顎には無精髭。

 長く伸びた髪を後ろで結び、伸び放題の前髪を目にかけた如何にもパッとしない中年男性だが……話からして、あれがリリアのお師匠さんか。



「煩ぇ! いいか、忘れるなよ、お師匠様がその気になればお前の工房なんて簡単に潰せるんだからな!」


 太っちょが男性の肩を拳で殴りつける。

 思わずよろめき壁にもたれかける男性。


 ……これ以上は見てられない。助けに入るか。

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