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09-44 失敗するわけ無いだろ!

「これが、島が見舞われている呪いの正体と――私が犯した罪です」


 そこまで話して、ローラは深く息をつく。

 おそらく何十年も、もしかしたら何百年も誰にも話せず独り抱え込んできた話を、今ようやく打ち明けられたんだろう。


 あまりにも壮絶な内容に俺もティンクもかける言葉が見つからない。



 ……暫く黙り込んだ後、最初にティンクが口を開いた。


「……話は分かったわ。にわかに信じられないけど、今起きてる現象の説明はそれでつくわね。――てか、その話が本当なら、罪もなにもあなた別に悪く無くない!? まぁ強いて言うなら男運が悪いと言うか……」


 言われてみれば、確かに。

 ローラはただ愛する人との幸せな未来を夢見ただけで、悪いのは男の傲慢のような気がする。


 まぁ、恋愛のもつれというのは俺にはよく分からないけど、1つだけ確かな事がある。


「――確実に悪いのは、その男の錬丹術の腕だな」


 俺の発言に、ローラとティンクが振り返る。


「中途半端な腕で術に失敗しまくった挙句に招いたのがこの事態って訳だろ。錬金術を私利私欲に使うなとは言わない。まぁ俺も商売に使ってるからな。ただ、それで人様に迷惑かけといて挙句放ったらかしってのは、同じ錬金術師として許せねぇな」


 錬丹術と錬金術。

 流派は違えど、同じ術者として先輩がやっちまった過ちは誰かが尻を拭わないといけないだろ。


 祭壇に向かい準備を再開する。

 が、すぐに駆け寄ってきたティンクに止められてしまう。


「待ちなさい! 気持ちは分かるけど、やっぱり今日は一旦引くわよ」


「ここまで来て何で!?」


「その子の話、聞いたでしょ!? これは私達が思ってたよりも遥かにヤバい物だわ。下手に手出しして失敗したらどんな事になるか、今さっき聞いたばっかりでしょ」


 それは確かにそうだ。

 相手は島全体を覆うような強力な呪い。

 下手すれば俺も亡者の仲間入りか、その程度じゃ済まないかもしれない。


「――ほんと、割に合わないわね」


 ティンクの大きな独り言を聞いて、ローラは下を向き小さく一言だけ呟いた。


「本当に……ごめんなさい」


 ティンクが怒る気持ちも分かる。

 半分騙すような形でローラが俺をここに導いたのも事実だ。

 だからティンクは俺の為を思ってあれ程怒ってくれてるんだろうけど……



「あのさ、ローラ。もしかしたらただの思い上がりかもしれないけど――何で俺を選んだんだ?」


「……え?」


「だってさ、いくら今は島に錬金術師が居ないとはいえ、この数十年で誰一人錬金術師がこの島を訪れなかった訳じゃないだろ? 他にもチャンスはあったはずだ。何で俺だったのかなぁと思って」


「そ、それは……」


「そんなの、あんたが騙されやすそうな顔してるからに決まってんじゃない」


 ティンクが横から口を挟む。


「そ、そんなのじゃないです!」


 慌てて訂正するローラ。


「勿論……マグナスさんを見て優しそうな方だなと思ったのはあります。けれど、それよりも……」


 そう言って一度言葉を切り、今度はしっかりとティンクの目を見据えて言い返す。


「マグナスさんが信頼出来る錬金術師だと思ったからです。……長い間、私にとって錬金術……練丹術というのは不幸を招いた憎むべき物でした。けれど、錬金術屋さんで錬金術について楽しそうに話すマグナスさんを見て、あぁ、この人は本当に錬金術が大好きなんだと思いました。この人ならもしかしたら、この島を救ってくれるかも知れない、そう思って――」


 そこまで言い終わると、ローラはガバリと土下座をして俺に頭を下げた。


「お願いします! 無茶な事を言っているのは重々承知です。私のワガママでマグナスさんを危険な目に合わせいる事も。けれど……他に頼れる人が居ないんです。どうか、どうかこの島を救って下さい! お礼にお渡し出来るものは……あまりありませんが、私の命でも何でも差し上げます! 人魚肉体なら錬金術の素材としてそれなりの価値があるはず――」


 必死になって泣きそうになりながら縋るローラ

 その頭をポンと撫でる。


「ローラはもう少し自分の事を大切にした方がいい」


 そう言って笑い返す。


「ティンク。心配してくれるのは嬉しいけど――悪い。俺やるわ。どんなリスクがあろうが、要は失敗しなけりゃいいんだろ? 俺は"賢人マクスウェルの孫"、現代のマクスウェルだぜ! 失敗する訳ないだろ!」


「――本気で言ってんの?」


 真剣な眼差しで俺を見つめるティンク。


「あぁ勿論。それに……俺は“色欲の錬金術師”だぜ。女の子が泣いてお願いしてんのに断れる訳ないだろ!」


 ちょっと格好つけてニイッと笑って見せる。


「……はぁ、好きにしたら」


 呆れて言葉を失うティンク。

 ティンクの性格上、本当に止めようと思えば力ずくでも止めにくるはずだ。

 口ではそう言いつつも、止めないという事はつまり認めてくれたということ。


「サンキュー。感謝するぜ」



 本当の所、成功率がどれくらいなのかは分からない。

 いつも使ってる錬金術ならまだしも、初めて見る"練丹術"とかいう代物だ。

 しかも島一つを呪ってしまうほどの強力な魔法。


 けど、今ここで俺が退けば島は只では済まないだろう。


 ローラが必死に守ったこの島美しい島を、また死の島になんかさせたくない。


「――やるぞ!」


「はぁ。もし失敗して亡者にでもなったらシスターに浄化してもらうからね! 覚悟しときなさい!」


 ティンクにバンと背中を叩かれる。


「えぇ……それはちょっと」


 シスターの浄化……消滅するまでボッコボコに殴られ続けるのか?

 想像するだけで恐ろしい。


 これは絶対に――失敗出来ないな!

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