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09-39 淡夢は覚めて

 ティンクと肩を並べ亡者たちに斬りかかろうとしたその時――


 突然辺りにフワフワと輝く水泡が無数に浮かび上がってきた。

 それらは激しい水流となり、亡者を襲う!


 胴や頭を撃ち抜かれ、次々と崩れ落ちて行く亡者たち。

 あれだけ居た亡者の群れがあっという間にヘドロの塊となって消え去った。



 ……え? 今のって!?



 ティンクと顔を見合わせる。


 勿論やったのは俺じゃないし、ティンクでもなさそうだ。


 今の魔法、トライデントさんの“スパークリング・ランス”によく似ていた。

 けれど、トライデントさんはさっき魔力切れで帰ったばかりのはず。一体誰が……?



 訳も分からず、慎重に辺りを見渡す。

 洞窟の入り口の方を見ると――嵐の中、岩場に腰掛ける人影が見えた。

 暗くてよく見えないが、髪の長い女性のようだ。


 何だ――?

 亡者……じゃないな。

 こんな嵐の中、こんな所にどうして俺達以外に人間が?


 慎重に近づきその正体を確認しようとしたとき、雷が鳴り響き一瞬洞窟の中が明るくなる。

 雷光に照らされたその人物を見て、思わずアッと声を上げてしまった。


 そこに居たのは――ローラだった。


 何だか少し悲しそうな顔で黙って俺を見つめるローラ。


 ……その下半身は――トライデントさんと同じように魚の尾ビレを形取っていた。

 ティンクの言っていた通り、ローラの正体は人魚だった訳だ。


 けれど――尾びれにあるはずの輝く鱗は無惨に剥がれ、何とも痛々しい姿だった。



 ――



 薄暗い洞窟の中、持ってきた薬草でティンクの傷の応急処置をする。


「あの、本当に大丈夫ですか? すぐにお医者様に見せた方が……」


 心配そうに見つめるローラ。


「大丈夫よこれくらい。薬草もあるし――って、痛ったい! もっと丁寧にやりなさいよ!」


 怪我をした腕にグルグルと包帯を巻く俺の背中を、反対の手でバンバンと叩くティンク。

 どうやら強く巻き過ぎたようで痛んだらしい。

 まぁ、そんだけ元気なら大丈夫そうだな。


 洞窟の入り口からは相変わらず亡者のうめき声が聞こえてくる。

 が、中にまでは入って来られない。

 洞窟内の亡者を一掃した後、ローラが入り口に水の結界を張り直してくれた。

 トライデントさんの結界には威力で及ばず、触れた亡者を吹き飛ばす事は出来ないが、プヨプヨとした水の膜が亡者の侵入を防いでくれている。



「まさかとは思ったけど……。本当に人魚だったんだな」


 改めてローラの姿を見る。


 さっきまで尾びれの形をしていた下半身は、今は人間と同じ2本の足になり地面に普通に立っている。


 ローラが言うには、彼女だけの特殊な力だそうで海に居る時は人魚の尾ひれ、陸では人間の足、と状況に応じて切り替えられるそうだ。

 変身に合わせて洋服まで生成できるそうだから相当特殊な魔法なんだろう。



「……黙っていてごめんなさい」


 掌を組み指をもじもじと合わせながら俯くローラ。


「いや、別に責めてる訳じゃないさ。人魚は伝説上の生き物だなんて言われてんだから、そうおいそれと正体を話す訳にはいかなかったんだろ」


 黙って俯いたまま、ローラは何も答えない。


「それにしても助かったよ。来てくれなかったら本当にヤバかったかもな」


 努めて明るく礼を言う。


 確かに驚いたけれど、別に黙っていたのを怒っていないのは本当だ。


「……亡者がこの島に群がっているのが見えたので。念のため来てみたのですが……良かったです」


「――よく言うわよ。自分で私達をこの島へ仕向けておいて」


 黙って話を聞いていたティンクが、突然険しい口調でローラを睨む。


「ちょ、お前、何を急に――」


 せっかく助けに来てくれたローラをこれ以上責めるのも心苦しい。

 根も葉もない難癖をつけだしたティンクを慌てて止める。


 ところが、ローラの口からは意外な返事が。


「……凄いですね。全部お見通しですか。えっと、ティンクさんでしたっけ?」


 フッと息を吐くと、諦めたような、はたまた少しほっとしたような顔でローラが顔を上げる。


「えぇ。やっと観念したわね、このカマトト女」


 ネズミを追い詰めた猫のように得意げな顔でローラを見るティンク。



「――ちょっと待て、全然話が見えないんだけど!」


 俺を置いてきぼりにしてどんどんと話を進める2人の間に割って入る。


「呼ばれたも何も、俺は自分の意志でここまで来たんだ。ローラは関係ないだろ」


 別にローラの肩を持つわけじゃないが、俺は誰に言われた訳でもなく自分で考えてここまで来た。

 それは間違いない。



「確かに、ここに来たのはあんたの意志よ。じゃあ聞くけど、あんたは何でこの小島に来ようと思ったの?」


「何でって……。トライデントさんが亡者は"アイテムさん"達に近い何かを感じるって言ってたのを聞いて、この島にあった遺跡の事を思い出したんだよ」


「じゃ、あんたは何でこの島に錬金術に関する遺跡があるの知ってたの?」


 腕組みをして尋問をするように俺に問いかけるティンク。


「だから――お前にも話しただろ。前の嵐で海に流された時にたまたまここに流れ着いたんだよ。そんでその時ローラが助けてくれたんだ」


「……偶然に?」


「そう。偶然――」


 ――そこまで言って気づく。

 黙ってこっちを見ているローラの顔を見返す。



「――偶然……じゃないのか?」



 考えを纏めるよりも前に、直観的に口を突いて出てしまった最悪な問い。

 自分で言っておきながら、ただの勘違いであり杞憂であって欲しいと願う。


 けれども、考えれば考えるほど直感は確信に変わって行く。


 問いには答えようとはせず、ローラはただ黙って俺を見るだけだった。

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