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03-36 お前とならやれる!

 正直、ここまで洞窟に長居する予定は無かった。


 さっさと解析して事件が解決すればそれで良し。

 逆にパッと見て手が付けられなさそうならすぐに撤退するつもりだった。


 諦めて逃げ帰るのが良策だってのは分かってるんだけど……あとちょっと、あとちょっとの所まできてるのは間違い無いんだ……! ……けど



「――仕方ない、一端退くぞ!」


 作業を続けるティンクに声を掛ける。


 深追いして戻れなくなったら元も子もない。

 ここは大人しく撤退だ!

 ところが……


「……いいえ。このまま続けるわよ」


 険しい顔のまま手を止めようとしないティンク。


「気持ちは分かるけど、ここで囲まれたらかなり不味いぞ!」


 洞窟の中は、入り口から狭い通路を抜けて祭壇のあるこの広間に繋がるようなフラスコ型になっている。

 通路は狭すぎてまともに武器が振れない。


 戦うとしたらこの広間だけれど、ここは通路以外に出入口の無い袋小路だ。

 持久戦となれば数で圧倒的に不利……!


「今逃げないと、完全に追い込まれる! さすがにあの数で攻めてこられたら勝てねぇって!」


 リュックの中を漁り戦闘用の道具を確認する。

 多少は準備してきたものの、連日の襲撃で島の物資自体も不足していて十分な量が用意出来たとは言い難い。



「――もう手遅れよ」


 一呼吸置いた後、覚悟を決めたようにティンクが呟く。


「何言ってんだ!? 今ならまだ通路に居る亡者を一掃して走ればどうにか突破出来る……」


「その後はどうすんの?」


「え?」


「海は亡者だらけだったでしょ? 私達だけで本島に戻るのは無理よ。海上で確実にやられるわ」


「そ、それは……」


 ……確かにそうだ。


 海上での亡者避けに聖水は何本か持ってきたものの、海の中の亡者があんな数だったのは想定していなかった。

 手持ちの聖水だけじゃ本島まで無事にたどり着くのは難しいだろう。


 来るときは必至で気づかなかったけど、この島に着いた時点で逃げ帰る手は無かったわけか……。



 そうこうしている間に、広間の入り口から亡者が数匹ノタノタと入ってきた。


 ロングソードを手に取り駆け寄ると、その首を切り飛ばす。


 通路の方へ視線を向けると、さらに数体の亡者が群れになって歩いてくるのが見えた。



 クソッ――こうなったら、亡者の襲撃が収まるまで籠城戦を決め込むしかねぇな。


 覚悟を決めてロングソードを構える。


 そんな俺の前に――スピアを構えたティンクが歩み出る。


「私が時間を稼ぐから! あんたは解析急いで!」


「――無茶すんなって! あの数相手に1人は無理だろ!」


「あんた錬金術師でしょ! 魔物退治は私に任せて、あんたは自分の仕事をしなさい!」


「お前! まだそんな事言ってんのか!? 確かに俺は錬金術師でお前はアイテムだけど、俺はお前の事ただの"道具"だなんて思った事――」


 出会って直ぐの頃にティンクがよく言っていた。

『アイテムは所詮"道具"に過ぎない。錬金術師の役に立つことこそが道具としての役目なんだ』と。


 最近はそんな事口にはしなかったから、やっと分かってくれたのかと思ってたのに……何も変わって無かったなんてな。



「違うわよ! 単にあんたを――錬金術師として認めてるって言ってんの! 島の事も、私達自身の事も、今この状況を打破できるのはあんただけよ! 頼むわよ――“現代のマクスウェル”!」


 そう言って亡者へ斬りかかってくティンク。



 ――意外だった。


 ティンクとは錬金術に関して意見やアイディアを出し合う事はあるにしても、俺の事を褒めてくれる事や感心されるような事は一度も無かった。

 そりゃじいちゃんの錬金術を間近で見て来たティンクにとっちゃおれの錬金術なんて素人同然なんだろうと思っていた。



 それが突然――。

 ……何が"マクスウェル"だ。


 それはお前が敬愛する偉大な錬金術師の名前だろ。

 簡単に呼んでくれやがって。


 そこまで言われたら引き下がるわけにはいかない!



 ティンクが通路に向かって聖水の瓶を投げ込む。

 聖水を浴び狼狽える亡者を数匹まとめて一網打尽にするが、すぐさま後ろから次の群れがやってくる。


「さぁ! かかってきなさい!!」


 スピアを掲げて亡者の群れへ突進するティンク。

 次々と亡者の頭を突き刺し投げ倒して行く。



「――よーし! こっちもやってやろうじゃねぇか!!」


 ティンクがあんだけ頑張ってんだ!

 俺も負けてらんねぇ!


 チョークを床に投げ捨て、一歩引いて広間全体を見渡す。

 イチイチ手書きで確認しながらやってたら時間が足りねぇ!


 全体を捉えるんだ!

 公式の正誤や文字列の言葉尻だけを見るんじゃない!


 この広間全体に散りばめられた要素の意図や概念を紐解いていく――!


 素材の分解、融合、再構成。

 黄泉の国、生命の循環、不死の呪い……。



 ……そうか!!


 つまり、この洞窟自体が"錬金釜"の役割をしてるんだ!!

 そこにレシピを刻む事で術を発動してる訳か!!



 やっとこの島の謎が解けた――その時


「きゃぁぁ!!」


 ティンクの悲鳴が洞窟内に響く。

 見ると、腕を押さえて後ろへと飛び退くティンク!


 亡者にやられたのか、押さえる腕から血が流れ出ている。

 その量からして――結構傷が深くねぇか!?


「ティンク!!」


「いいから、あんたは集中して!」


 強がってはいるが、利き手をやられてスピアがまともに構えられないらしい。


「大丈夫か!?」


 さすがに限界だ。

 ロングソードを構えておれも亡者の前に立ちはだかる。

 解析は終わったとは言え、まだこの呪いを解くために何箇所か公式や図形を書き直さないといけない。

 さすがにそれだけの間、手負いのティンク独りでこの量の亡者を相手に出来る訳がない!



「ちょっと!? 分かってんの!? 戦ったところで、あと何匹倒せばいいか分かんないのよ!?」


「そりゃそうだけど、さすがに無限って訳じゃないだろ! お互い100匹ずつくらいやっつけりゃ呪いも諦めて帰るだろ!!」


「――無茶言わないでよ!」


 口ではそう言いながらも、歯を食いしばって笑うティンク。

 そう、俺たちは揃いも揃って負けず嫌いなんだよ!


 スピアを構え直すティンクの腕から、滴った血が祭壇の床に数滴落ちる。


 その瞬間、祭壇が一瞬淡く光ったように見えた。


 ……何だこの反応は?



「――怖気付いたらんなら私が先に100匹やっちゃうわよ!」


 亡者の群れに突進するティンク。


「あ、待てって! 多少は連携しろよ!!」


 俺も後へと続く!!


 正直勝算は殆どないだろう。

 けど、ティンクの前じゃ弱音を吐く気にもなれない。

 やれるとこまで足掻いてみるさ――!!

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