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09-34 彷徨う元凶

 昨日の桟橋とは違い、これだけ広い場所なら亡者との戦闘は比較的容易だった。


 水中に引き込まれる心配も無いし、動きの遅い亡者は近づきさえしなければヒットアンドアウェイで割と安全に倒せる。


 昨日トライデントさんが一掃した直後だからか、数もそれ程多くはない。

 お陰で囲まれる心配も無いだろう。


 このまま1匹ずつ始末して進む事も可能だけれど、この先に備えて体力は温存したいところだ。

 少し迂回してでもなるべく亡者の少ない道を進む。



 狭い路地など地形的に不利な場所は避け、大通りを走っていく。


 そんな折、ふと人の声が聞こえたような気がした。


 ……気のせいか?

 嵐の中、亡者が彷徨く街中を出歩いてるのは俺達くらいだろう。

 そもそも風の音が酷くて人の声なんか聞こえないはずだ。


 けれど……



『ローラ……』


 やっぱり、男の声が聞こえる!

 慌てて立ち止まり辺りを見回す。


「ちょっと! 何やってんのよ!? 行くわよ!」


 先を走っていたティンクが、俺の様子に気付き戻ってくる。

 隣まで来たところで、俺と同じ方を見て固まる。


「……何、あれ」


 その視線の先には1体の亡者。

 しかし、他の個体とは明らかに様子が違う。


 亡者と同じく腐って崩れかけてはいるが、それでもまだ随分と原型を留めている。

 青白い顔をした痩せこけた男だ。

 眼球は既に朽ち果て、目の部分には深い闇を湛えているが元の人相は何となくわかる。

 頭髪はまだ残っており、その長い髪を後ろで束ねている。

 生前は30代か、40代くらいだったんだろうか。


 原型を留めているとはいえ、その肉は他の亡者同様緑色に変色し、朽ち、次々に地面へと落ちて行く。

 ……けれども、落ちた側から肉片は意志を持った生物かのごとく男に這い寄り、足元から吸収されて再び男の体を形どる。

 そしてまた崩れ、吸収され……。どうやら絶えず崩壊と再生を繰り返しているようだ。


『ローラァァ。……ローラの匂いがする。お前なんだろ? 会いたい……会いたいよおお!! ローラァァ!』


 叫びとも鳴き声とも取れる、くぐもった音を響かせベチャベチャとこっちへ歩み寄ってくる亡者。


「もしかして、あれが――あんたの言ってた呪いの"元凶"じゃない?」


「――あぁ。多分な」


 亡者から目を放さず答える。


「なら探しに行く手間が省けたじゃない! このまま海まで誘き寄せてトライデントさんにやっつけて貰いましょ!」


「……いや、多分それじゃダメだ」


「何で!? トライデントさんならあれくらい余裕でしょ!?」


「確かにあの亡者自体はそんなに強くないだろう。トライデントさんなら訳なくやっつけられるはず。……けど、それじゃあ他の亡者と一緒で時間を置けばすぐに復活してくるはずだ」


「じゃあ、どうすんのよ!? 諦めて一旦ホテルに戻る?」


「いや――アレに遭遇するのは想定外だったけど、これでまた一つ確証が持てた! 予定通り小島へ向かうぞ!」



『ローラァァァ!!』


 悲痛な叫びを上げながら這い寄ってくる男の亡者をいなし、漁港へと走る。


 男の方を何度か振り返りつつも、ティンクも俺の後に続く。



 ――



 程なくして目的の漁港へと辿り着いた。

 年季の入った道具小屋が1つと、簡易な桟橋に数隻の小舟が停留されているだけの小さな漁港だ。


 事前に地元の漁業組合には話を通しておいて貰った。

 町も全面協力してくれるということで船は好きな物を使って良いと言われている。


 手近にあったボートに乗り込み、牽引してあったロープを急いで解く。

 そうこうしてる間にも、どこから湧いて来たのか亡者が船目掛けてヨロヨロと這い寄ってくる。


「ちょっと!? 大丈夫!? 私降りてやっつけてこようか!?」


 ティンクが槍を構えてボートの縁に足を掛ける。


「いや、大丈夫だ。……外れた! 出すぞ!」


 オールを手に取り沖へと漕ぎ出す。


 ボートに飛び掛かろうとした亡者が数体、水しぶきを上げて桟橋から海へと落ちて行くのが見えた。



 陸地の亡者から無事に逃げ切ったと思ったのもつかの間――

 沖へ出ると、案の定すぐさま亡者の手が海中から伸びてくる。


「やっぱり来やがったか!」


 トライデントさんのポーションの蓋を開け、海へと放り投げる。

 その間にもよじ登ってこようとする亡者を、ティンクがスピアで突き落とす。



 すぐさま海面に光の粒が立ち込め、トライデントさんが姿を現した。


「――うわぁ、亡者だらけ!! ちょっと! 何てところに呼び出すんですか!?」


 登場するなり大声で抗議してくるトライデントさん。


「わ、悪ぃ! 後で謝るから、とひあえず助けて!」


 俺も剣を抜き、よじ登ろうとしてくる亡者の手を切り捨てる。


「えっ!? 何してるんですか!? こんな亡者だらけの海の上をそんな小舟で! 自殺行為ですよ! 直ぐに港まで戻し――」


「いや! あそこに見える小島まで連れてってくれ!」


 ボートを港へと引っ張ろうとするトライデントさんを止め、小島の方を指さす。


「小島って、あそこに見えるアレですか!?」


 海中の亡者を槍で突き刺しながら、遠くに見える小島を指差すトライデントさん。


「ああ! トライデントさんならこの船引っ張りながらでも行けるだろ!?」


「それは行けますけど……。けど、これだけの亡者の中、2人乗せたボートを引っ張って安全に行くとなると、それなりに強力な結界を張る必要があります。たぶん着いた途端に魔力切れですけど――そのあとどうする気ですか!?」


「大丈夫! そんときはそんときで考えるから!」


 トライデントさんと会話しつつ海中の亡者を迎撃するが、そろそろ俺達もボートも限界だ!

 ゴリゴリと船底から変な音がしてくる。


「――あーもう! 本当に、めちゃくちゃなんですから! どうなっても知りませんよ!? しっかり掴まっててください!」


 文句を言いつつも、船の周りの亡者を手早く一掃してくれるトライデントさん。

 手に持った槍を掲げると、船が大きな輝く水球で包まれる。

 亡者を寄せ付けないための結界だろう。


 そしてトライデントさんが海に潜ったかと思うと、凄いスピードで船が引っ張られて行く!


 海面から顔を出す亡者を次々と跳ね飛ばしながら、船は小島へと向かった。

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