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09-33 反撃の狼煙

 翌日――



 南国リゾートには到底似つかわしくない激しい雨が朝から降り続いている。


 ティンクと2人、ホテルから出ようとしたところでカトレアに止められる。


「ちょっと、2人とも! こんな天気の中何処へ行くんですか!?」


「え、あ……。ちょっと呪いを止めに……」


 昨晩ティンクと話し合い、ある仮説を立てた。

 俺の考えが正しければ、ある場所へ行けば呪いを止める手がかりが見つかるはずだ。


 ……とは言え、それなりに危険もありそうなのでカトレアには内緒で行こうと思ってたんだけど……見つかってしまった。


「何言ってるんですか!? いくらマグナスさんでも無茶ですよ! せめて嵐が止んでから!」


「いや、この嵐だっていつ止むか分からないだろ? そもそも自然のものなのか呪いによるものなのかも分かんないし。それにまたいつ亡者が攻めてくるかも分かんない状況じゃ、こっちから先手を打たないと消耗し続けるだけだ」


 用意してきた【メロウのトライデント】のポーションはあと1本だけ。

 昨日みたいな規模の襲撃をあと1回受けてしまえば、いよいよ後が無くなる。


 呑気な観光客達もいよいよ事態の異常さに気づき、島から脱出しようという動きが出て来た。

 ――そんな矢先にこの嵐で、今朝から船は全便欠航。

 ただの偶然の可能性も否定は出来ないけれど……島からは誰も逃がさないという"呪い"の意図を感じる気がしてならない。


 何にせよ、待っても状況は悪くなる一方って事だ。



「それならせめて護衛を付けて貰って……私、交渉してきますから!」


 俺の説得に折れたカトレアが、人を探しに行こうとする。


「いや、大丈夫! 警備の人達は観光客や市民の警護で忙しいだろうし。こっちにはトライデントさんも居るから問題ないよ」


「でも……」



 心配そうなカトレアの両肩に、ティンクがポンと手を置く。


「心配しなくても、別に亡者の群れを殲滅しに行こうって訳じゃないから。ちょっと調べて危なそうだったらすぐに引き返してくるわ。――それより、ここの指揮の件しっかりお願いよ!」


 実はカトレア、昨晩の手腕が認められこのホテルに泊まる貴族や金持ち達の取りまとめをお願いされてしまったのだった。


 貴族や金持ちなんて自分勝手で我儘な奴らが多い。

 それぞれ好き勝手に動き回られては、貴重な戦力が分散されるどころか余計な混乱だって招きかねない。

 ホテルに対しても不平不満や無理難題を吹っかけてきて支配人たちもしどろもどろ。


 だが、昨日の襲撃でカトレアに自身や子供を助けて貰った人が多数居て、カトレアには頭が上がらないという人も多いらしい。

 あの混乱の中、可憐な見た目からは想像できない程冷静に、人々を先導し自ら先陣を切る姿を見てファンになったという連中も居るそうだ。


 そんな話を聞いたホテルの支配人に散々頭を下げられ、このホテルに宿泊する人達の陣頭指揮を取る大役が回ってきたのだった。

 ……俺からすりゃこっちの方が大仕事だと思うけどな。




「じゃ、行くぞティンク」


「りょーかい!」


 ホテルから借りた防水仕様のマントをしっかりと羽織り、背中には諸々の道具が入った大きなリュックを背負う。


 外に出ると、嵐はさらに強さを増し、大粒の雨が絶え間なく地面を叩き続けていた。

 吹き荒れる強風は大きな街路樹を薙ぎ倒さんという勢いだ。


 貸して貰った武器を手に取る。

 俺はロングソードを腰に、ティンクはスピアを背中に背負い……準備完了だ!


「2人とも、本当に気をつけて!」


 カトレアの声を背に、マントのフードを深々と被り嵐の中へと突き進んでいく。



 ――



「ねぇ! 今更だけど、“あの小島”に向かうんならコテージから直接海に出てトライデントさんに引っ張ってって貰った方が安全だったんじゃないの!?」


 近くに居るのに声も聞き取れない程の嵐の中、雨と風の音に掻き消されないようティンクが大声で叫ぶ。


 ――そう、俺たちの目的地は先日俺が漂着した例の小島だ。


「ダメだ! 海の中の様子が分かんねぇ! もしかしたらもう亡者が湧いてるかもしんねぇし、もしそうならさすがのトライデントさんも2人乗せたボートを引っ張っての遠泳は厳しいだろう! できるだけ近くまで陸路で行くぞ!」


 ホテルで地元の人に聞いた話では、最も近い漁港からなら島まで直線距離で5キロ程だそうだ。

 それくらいの距離ならば、例え海上で亡者に襲われてもトライデントさんならどうにか泳破出来るはず。



 厚い黒雲のせいで、昼間だってのに薄暗い街中。

 出歩く人俺たち以外に全くおらず、どの店もシャッターが下りている。

 つい数日前の賑やかな様子が幻だったんじゃないかと思えてくる。

 まるでゴーストタウンだ。


 普段は雨なんか殆ど降らない島。

 あっという間に排水機構が麻痺したのか、道路は冠水して水浸しになっている。


 足元に気を付けながら慎重に進んでいると――


「――マグナス! 足元!!」


 後ろを歩いていたティンクが叫ぶと同時に、スピアを手に取り俺の足元を突く!

 慌てて飛び退くと、足元にあった排水溝から亡者の手が伸び俺の足首を掴もうとしていた。


 ティンクの一撃を受け腕を粉砕された亡者が、泥水の中からよろよろと起き上がってくる。

 間髪入れずに、その頭部をロングソードで弾き飛ばす。


「やっぱり出やがったか――走るぞ! コケるなよ!」


「あんたがね!」


 武器を仕舞い、港へ向けて走り出す。

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