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09-29 海から寄せるモノ

「――じゃあつまり、農薬の過剰な使用で島の雷花が不作になって、そのせいで長年抑えられていた呪いが表面化したって事!?」


「えぇ、そうみたいね。嵐や亡者は呪いの一環よ」



 部屋で夕食を取りながら、今日の調査報告会が行われている。


「ティンク、凄い! たった1日でここまで調べちゃうなんて」


 カトレアがティンクの手を取って大袈裟に喜ぶ。



「ただ問題なのは、それを実証出来ない事だな」


「……どういう事ですか?」


 ティンクの手を握ったまま俺を見るカトレア。


「雷花は島の大事な産業資源だ。農家のおっちゃんも言ってたけど、不作になってから海水の水質調査は何回もやったそうだ。結果は……数値に異常無し」


「え……? でもお2人の調査では明らかに異常だって……」


「この島じゃ海中の魔力値を調べるような技術が無いんだ。……まぁ、そんなものモリノにも無いけど。俺たちが出した結論の根拠は"トライデントさんの証言"だけ。さすがにこれだけじゃ納得してもらえないだろう」


「そんな! 何とか島の皆さんに信じて貰う方法は無いんですか!?」


「そうだな……トライデントさんの姿を直接見せて俺の錬金術について理解して貰えば多少なりと話は信じて貰えるかもしれないけど……そしたら今度は俺たちが厄介な事になるだろうな」


「そうでしたね……。マクスウェルの釜については秘密でした……」


「それにしても参ったわね。せっかく原因が分かったのに伝える方法が無いだなんて」


 一同揃って頭を抱える。




「それと、その……人魚さんの方はどうするんですか?」


 カトレアが俺に問いかけてくる。


「ローラの事か? どうって……」


「話を聞く限り、あまり関わらない方が良いのは分かりましたが……人魚さんだって、わざわざマグナスさんの前に現れたからには何か理由があるのでは?」


 少し心配そうに考え込むカトレアを見て、ティンクがすかさず口を挟んでくる。


「そうかしら!? おとぎ話に出て来る人魚なんて、だいたいが掟を破って人間の男と恋に落ちるような恋愛中毒者ばっかりよ。たまたまいい男が居たから声を掛けただけで……」


 そこまで言ってふと気付いたようだ。


「……ホントだ、何であんたに声かけたのかしら。大していい男でもないのに」


「おい! 失礼だな!」


 真顔でマジマジと俺を見るティンクに、手元にあったクッションを投げつける。



 とは言え……確かに。

 世界中から大勢の人が集まるこの島で、よりによってどうして俺なんだ?


 俺が超絶イケメンなら単に逆ナンて事でいいんだけれど――残念ながらそうじゃないだろう。


 だとすると、何だ?


 人魚像の岬に行ったから?


 いや、違う気がする。

 俺が他人とは違う特別な理由。


 モリノ出身……?

 貴族?



 いや、違う。


 ――錬金術か。



 確かに最初会ったとき、俺はローラに『錬金術師だ』と名乗っている。

 ローラの狙いが、俺に錬金術で何かをさせたかったんだとしたら……。



 思いを巡らせつつ何気なく窓の外を眺めると――ふと、海の方から視線を感じたような気がした。


 何だ??

 立ち上がって確認する。


「? どこ行くのよ?」


「いや、今何か海の方から見られてたような」



 テラスへ向かい、ガラス戸を開ける。

 外に出て海を見渡すが……特に変わった様子は無い。

 穏やかな水面(みなも)が静かに波打っているだけだ。



 気のせいか……


 室内へ戻ろうとした瞬間――


「マグナス!! 後ろ!!」


 ティンクの大声に驚いて振り返ると、死角から泥の人形のような物体が襲い掛かってきた!

 全身ドロドロに溶けて緑色にゲル化しかけた人型の塊。


 ――亡者だ!

 全身にフジツボやヒトデがこびりつき、フナ虫まではいずり回っている。

 正直、ゾンビよりもキモイ!!


 咄嗟にしゃがみ込んで、間一髪のところで熱い抱擁から逃れる!

 勢い余った亡者はベシャリと音を立ててテラスの床に倒れ込んだ。


 その隙に慌てて室内へ駆け込む!



「だ、だ、大丈夫ですか!?」


 カトレアが、脅えながらも俺の手を引いて室内へ引っ張り入れ、直ぐにガラス戸を閉めてくれる。


「あ、ああ。危なかった」


 外を見ると、さっきの亡者がよろよろと立ち上がろうとしている。

 さらには、テラスのデッキに海中からいくつも手が伸びてきて亡者たちが次々とよじ登ってくる。



「な、なんですかあれ!?」


 泣き出しそうな顔で俺にしがみ付くカトレア。


「亡者だ! 嵐の日にしか出ないのかと思ったら――天気は関係ないのかよ」


 カトレアの手を引いてテラスから離れる。



「逃げるわよ!」


 ティンクが、部屋に飾ってあったボートのオールを投げて寄越してきた。

 武器の代わりか……まぁ無いよりマシか。


 ティンクはキッチンにあった包丁、カトレアは鍋の蓋を持ってなけなしの武装を整える。


 クソっ……トライデントさんが居てくれたら良かったんだけど、昼間使ったばっかりだから明日の昼頃までは使えないだろうな。



 そうこうしてる間に、ドンドンとガラス戸を叩く音が室内に響き渡る。

 見ると亡者が3体、ドアをぶち破ろうとガラスにへばりついている。

 破られるのも時間の問題だろう。


「よし、行くぞ! 皆離れるなよ!」

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