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09-26 呪われた海

「……あの、できれば次からは水の中で呼び出して貰えると助かります」


「は、はい。すいませんでした」


 息を吹き返したトライデントさんが、海に半身を付けながら恨めしそうに俺たちを見る。


 どうやら水の中に撒くのが正解だったらしい。

 そんな使い方のポーションもあるのか。

 じいちゃんのノートには書いてなかったし……一つ勉強になった。


「それで、ご用は何でしょうか?」


「えっと、手短に言うとこの辺の海の水質調査をお願いしたいんだ」


「水質調査……ですか? てっきり魔物退治とかだと思ってたのですが――予想外ですね」


 手に持った三叉槍を太陽の光にギラリと輝かせるトライデントさん。


「まぁそりゃそうよね。武器だもの。本来は戦闘が本業ね」


 うんうんと頷くティンク。


 この島が今置かれている状況や、俺たちが請け負った依頼の内容、これまでの調査の過程などをなるべく手短に説明する。



「……まぁ、そういう話でしたら問題はありませんよ。海に関係することなら概ね専門分野ですし。ちょっと待っていて貰えますか?」


 そう言うと、ヨイショヨイショと水深の深い所まで移動し、海面で勢いをつけてひと跳ねすると、海の中へと姿を消してしまった。


 その姿を茫然と見送る俺とティンク。



「――それにしてもまさか人魚が出てくるとはな……」


「これは確かに想定外ね」


 何事も無かったかのように悠然と寄せては返す波を見つめ、唖然とする。

 驚いている様子からして、物知りなティンクもアイテムさん達の全てを知ってるわけではないらしい。


「……まぁ、厳密に言うとあの子はあくまでも"トライデント"の化身であって、実物の人魚じゃない訳だけどね」


「なるほど……何か中々にややこしいな」


 シスターの恰好をしたゴリゴリの聖水も居る訳だし、アイテムさんにも色んな種族があるんだろう。

 これ以上話をややこしくしてもアレだし、今はその件について深堀りするのは辞めておこう。


 適当な岩場に腰掛けトライデントさんの帰りを待つ。



 ……



「――ねぇ、そういえば……何か、変な臭いしない?」


 唐突に、ティンクが渋い顔をしてクンクンと鼻を鳴らす。


「……ん? 言われてみれば……」


 気付けば、磯の香に混ざって独特な刺激臭が辺りに漂っている。

 普段の生活の中では嗅いだ事のないような悪臭。

 何だかツンと鼻にくる臭いで、あまり進んで嗅ぎたいとは思わない。


 臭いの原因を探して辺りをうろついてみると、雷花畑の方から何やら靄のような物がモクモクと風に乗って流れている。

 目を凝らしてよく見ると、さっきのおじさんが背中に大きなタンクを背負い、細長い棒のような器具を振り回して霧状の液体を噴霧しているのが見えた。


 その霧が風に乗ってこっちまで流れてきている。



「おじさーん! それ! 何撒いてるの!?」


 ティンクが鼻をつまみながら大声で叫ぶ。


「ん~!? あぁ、コレか? 雷花の成長を促す薬や! すまんすまん、そっちまで流れてったか? 人体には影響無いらしいから安心しい」


 成長促進剤?

 結構鼻と目にくる感じだけど……人体に無害って本当かよ!?


「あんまり嗅いだ事のない臭いだけど、島の伝統的な農法か何か!?」


 ゴホゴホと小さく咽せながら、再び大声で問いかけるティンク。


「いや、数年前に開発された新しい薬や! この薬のお陰で収穫量が2倍にまで跳ね上がったんやで! 今じゃどこの雷花農家も使っとる! なんてったって雷花の収穫量はワシら農家にとって死活問題やからな!」


 まぁそりゃそうだろう。

 島の特産品として、取れれば取れただけ売れるという雷花。

 年間で限られた時期にしか花を付けないというんだから、少しでも多く収穫したいのは農家としては当然か。


「この不作にも効くかと思っていつもより多めに撒いとるんやけど……。効果は全然みたいやな」


 ブンブンと首を振りつつ作業に戻るおじさん。


 ……農薬? まさか……




「――くさっ! 臭っさぁぁ!!」


 突然断末魔のような叫び声が足元から聞こえる。


 見ると、海から凄い勢いで這い出てきたトライデントさんが、岩場に腰掛けたまま目を見開いて口で呼吸をしながら嗚咽を漏らす。


「だ、大丈夫ですか!?」


「ちょっと!? 何なのここの海!? ただでも不穏な邪気が漂ってると思ったら、何かとんでもない薬まで流れ込んできたんだけど!? え、何!? 殺す気!?」


「お、落ち着いてください!? どういう状況ですか!?」


 殺気立つトライデントさんをどうにか落ち着け話を聞く。



「コホン。えっと……何からお話しすべきですかね」


 冷静さを取り戻したトライデントさんが、ひとつ咳払いをしてから話し出す。


「――まず、この島周辺の海――呪われていますね。何だか平気で海水浴とかしてる人がいっぱい居るみたいですけど、正直信じられないです」


「の、呪われてる!?」


「えぇ……。ものっすごく強力な恨みを持った、ヘドロみたいな邪念が海に溶け込んでいます。しかもここ数十年やそこらの話ではなくもっともっと昔から脈々と続くような由緒正しい呪いです」


「……海に溶けた呪い? ――それってもしかして!?」


 ティンクが俺の顔を見る。


「あぁ。俺が聞いた方の人魚伝説にそんな話があった。不死の体になってしまった男を助けるために悪魔と契約した人魚。けれど、男はさらなる呪いをかけられてヘドロとなって海に溶け込んだ……と」


「あぁ~……正しくそんな感じですね。粘着質でドロドロとした変態じみた男の邪念みたいなものが海全体に染み渡っている感じです」


 うんうんと頷くトライデントさん。


「――う、何かそれ聞くと気色悪いわね。私達こないだ普通に泳いじゃったんだけど大丈夫なの?」


 ティンクがおもわず顔をしかめる。


「普通はダメですね。こんな海で泳いだら呪いに引きずり込まれて海難事故多発です。魔物だって集まってくるでしょうし」


「え? じゃあ何でここ最近になるまでは大丈夫だったの?」


「ん~……」


 腕組みをしながら辺りを見渡すトライデントさん。


「――あ! アレですね」


 トライデントさんが指さす先は――雷花農園だった。

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