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09-22 雲を掴むような話

「いやですー! 私も行きます!」


『ダメですお嬢様!』


 執事隊に取り押さえられ子供のように駄々をこねるカトレア。

 どうやら俺たちと一緒に事件の調査に行きたかったらしいが、元々抱えていた予定がてんこ盛りでホテルから離れられないらしい。


 いつも使用人の前では毅然とした態度を崩さないカトレアが子供のように暴れるんだから、よっぽど一緒に行きたかったんだろう。


「ね、カトレア! 帰ってきたら真っ先にカトレアに調査報告するから! それから一緒に原因とか考えよ!」


 ティンクがどうにか説得する。


 渋々と承諾し、とりあえず今日のところは大人しくホテルで仕事をこなす事で納得してくれた。

 そんかカトレアをホテルに残し、ティンクと2人街へと向かうのだった。



 ――



「で、引き受けたはいいけど何か当てはあるの?」


 観光客で賑わうショッピングエリアを、ティンクと並んで歩く。


「――いや、正直さっぱりだ。ただでさえ見ず知らずの土地だからな。勝手も分かんねぇし」


「まぁ、そうよね。正直、よそ者の私達がどうこう出来るレベルならとっくに地元の専門家がどうにかしてるだろうし」


「だな。……ただ、ちょっと気になる事はある」


「……気になる事?」


 不思議そうに聞き返すティンクに対して、少しもったえぶって答える。


「――この島の伝統と錬金術についてだ」


「伝統って……今やってる"盆帰り"のお祭りとか?」


「あぁ。“盆帰り”の祭りもそうだが、この島の伝統やら言い伝えは"不老不死"とか"死者蘇生"とか【永遠の命】に係るものが多いみたいなんだ」


「成る程、それに加えて海から来る"亡者"ね。……確かに無関係とは言い切れないわね」


「だろ? で、【永遠の命】なんて普通はバカげた妄想だけど、そんな妄想を現代に至るまで糞真面目に研究している学問が1つある訳だが……」


「――錬金術ね」


「ご名答」


 大袈裟に頷く。

 ノウムの騒動でもあった通り、錬金術が目指す最終目的の1つである“不老不死”

 もしかしたら今回の事件に何か“錬金術”が絡んでるのかもしれないと俺は読んだ訳だ。



 難しい顔をして歩く俺たちの隣を、若い観光客達が談笑しながら追い越して行く。

 昨日あれだけの嵐があったのが嘘のように、皆普段通りに南国の地を満喫している。

 こうして呑気な様子を見ると、この島で深刻そうな顔をして歩いてるのは俺たちくらいなんじゃないかと思えてくる。



「仮に錬金術に関係あるとして、どこから手をつけるつもり?」


「街の錬金術屋で聞いた話だけど、島の伝説に“死者を蘇らせる秘宝"なんてのもあるらしいんだ」


「……もしそんな物が実在するなら、正しく"賢者の石"ね」


「まぁ、実際の所本当に錬金術と関係があるかどうかも分からないし、そもそも根も歯もないただの都市伝説かもしれねぇ。けれど、もし俺たちが力になれるとしたら“錬金術”の分野からアプローチするしかないだろ」


「いいんじゃない? "異常気象と亡者をどうにかする"なんて雲をつかむような話から考えれば随分と具体的な話だと思うわよ」


「よし、そんじゃさっそくその線から調べてみるか!」


 ――


 賑やかなショッピングエリアを抜け、地元の商店街へ。

 物珍しい雑貨に気を取られ寄り道ばかりするティンクを引っ張り、ローラに連れて行って貰った錬金術屋へと到着した。



「へぇ……随分と独特な品揃えね」


 店に入るなり興味深々で商品を見て廻るティンク。


「"毒蜘蛛の干物”に、"黒イモリの肝"、へぇ"ミノタウロスの睾丸"まであるじゃない! ――超強力な滋養強壮が作れるそうよ! 他にも霊薬系の素材が多いみたいだし……まぁ"不老不死”とは程遠いけれど、まったくの的外れってことも無さそうじゃない」


 棚の瓶を次々と手に取っては中身を確認していく。

 その落ち着き払った様子を見ていると、蛇の干物を見ただけで悲鳴を上げていたローラの姿がつい思い出される。

 慣れてるとはいえ、女の子にしては随分と肝が据わってる方だよなぁ。


「……何よ?」


 じっと見てたのが気に障ったのか、不審そうな顔で睨まれる。


「――い、いや何でもない」


 慌てて店の奥へと視線を逃がす。

 今日もカウンターに店主さんの姿は無い。


 ティンクの視線から逃れるように、店奥にある本棚の前に立ち並べられた本の背表紙を順に眺める。

 長い事売れ残っているのか、どれも薄らと埃を被り、中には黄色く変色してしまっている本もある。並んでいるのは錬金術の基礎を記したよくある参考書ばかり。


 中には昔読んだことのある本もあるが、どれも年季の入ったものばかりだ。

 最近発刊されたような新本は一切無い。


 ……少し気になるのは、錬金術の本に混ざり医学や薬学の本がごっちゃになって置かれている事。

 確かに、使う素材や中間工程において錬金術と薬学は多少被る部分はある訳だけれど、モリノを始め今の世の中では医学と錬金術は完全に別物扱いされている。


 やっぱりチュラ島における錬金術というのは、他とは違う独特の立ち位置を築いているんだろう。

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