09-18 嵐の前の……
翌日。
遅ればせながら――
「海だぁー!!」
コテージのテラスから青い海へと思いっきりダイブする!
派手に上がった水しぶきが夏の太陽を反射してキラキラと輝く。
街で見たビーチは人であふれかえってたけれど、ここは完全にプライベートビーチ。
海底まで見通せる透明度抜群の海を独り占めし心置きなく楽しむことが出来る。
「ふー! 最高だなぁ」
ホテルで借りた浮き輪にすっぽりとお尻を嵌め、海を漂うクラゲよろしくのんびりと穏やかな海面を漂う。
空を見上げると照りつける太陽がジリジリとオデコを照らす。
モリノではもう夏も終わりという時期だけれど、チュラ島はまだまだ夏真っ盛りだ。
目を瞑り、太陽を全身で浴び夏を堪能していると――
「カトレア! 早く早く!」
「ちょっと待ってよ! 準備運動ちゃんとしないと」
部屋で日焼け止めを塗ってから行くと言っていたティンク達の声が聞こえてくる。
「おー、お前らも早く来いよ、気持ちいい――ぞ!」
顔を上げて2人に手を振ろうとして、思わず固まる。
いや、当然分かってはいたが――水着!!
カトレアはともかく、今更ティンクの水着を見た所で――と正直見くびってはいたわけだが……
大人っぽい黒の水着。
ティンクの赤い髪と相まって魅惑的な魅力が半端なく漂う。
ただでも豊満な胸がより強調され、細いウェストがさらに色っぽく見えるようなデザイン。
いつもは下ろしている長い髪を後ろで束ねてアップにしている。
女子ってのはちょっと髪型を変えただけでなんであんなに別人みたいに思えるんだ!?
活発でちょっと小悪魔的な雰囲気が、正直堪らなく可愛い。
カトレアの方は清楚で可愛らしい薄水色の水着。
控えめな彼女らしく、水着も無難に大人しいデザインで纏めているが、これはこれで可愛い!
何せ2人共とんでもなく可愛い!
ここがプライベートビーチで良かったと本当に思う。
イリエの夜の事を思い返すと、これで若い男達がわんさかと行き交うビーチなんか歩いた日にはどうなっていたか想像もできない。
「ティンクは泳げるの?」
「多分。25メートルくらいは泳げるはず! 試したこと無いけど!」
試した事無いのかよ!
前に自信満々で泳げる言ってたのは何だったのか……。
「カトレアは?」
「私も同じくらいか、もう少し短いかも」
「まぁ、この辺りなら足もつくみたいだし問題無いわよ」
「そうね。それじゃあさっそく――」
テラスの端に屈んで海に足を漬ける2人。
「うわー、水がひんやりしてて気持ちいい!」
「すごい透明! 海底が綺麗に見える!」
海面に居る俺はその姿を下から見上げる形になる訳だが……天国かっ!
すぐ目の前にこの世の楽園のような景色が広がっている訳だが――あまりマジマジと見るとすぐにバレそうなので、どうにか頑張って横目で見る。
ドボンと水しぶきを上げて海に浸かる2人。
「んーー! 冷たい!」
「でも気持ちいね!」
バシャバシャと波を掻き分けこっちへと近づいて来る。
「ねぇ! その浮き輪どこにあったのよ!?」
俺の浮き輪に捕まりながらティンクが周りを見渡す。
「ホテルのフロントで借りられただろ」
「私達の分は!?」
「え!? 無ぇよ。お前ら借りてこなかったのか?」
「えー! 知らないし! 何で自分の分だけ持って来るのよー! ケチ!」
顔を膨らませて怒るティンク。
「私も! 浮き輪! 欲しぃー!」
「わ、私借りてこようか?」
見かねたカトレアが助け舟を出してくれる。
「ううん、大丈夫! こうすれば……」
悪い笑みを浮かべ、全身を使って俺の浮き輪を上下に揺らすティンク。
輪っかにお尻だけ入れて浮いてる状態なので、されるがまま上手い事バランスが取れない。
……というか、ティンクが上下に動く度、連動して暴れ回るラージスライムさんが気になってそれどころじゃないんですがっ!!
「そーれ!!」
波のタイミングに合わせ勢いよく浮き輪を持ち上げるティンク。
「う、うぉあ!」
相変わらずのバカ力に、あえなく逆さまにひっくり返される。
浮き輪を放棄して泳ぎ海面から顔を出すと、浮き輪を略奪しご満悦のティンク。
俺の真似をして浮き輪の上に乗りたいようだが、中々上手く行かないらしい。
足をジタバタとばたつかせ、必死に浮き輪に上がろうともがく。
「ちょっとー! 手伝ってよ!」
「お前なぁ……子供か」
呆れながらも、カトレアと一緒に持ち上げてどうにか浮き輪に乗せてやる。
「乗れたぁー!!」
大はしゃぎで手足をバタバタさせて喜ぶ。
――何だろうな。
こんなに楽しそうなティンクは初めて見た。
単に海が珍しい――というのもあるだろうけど、そういえば仕事や買い出しで外に出る機会はあっても、遊びで出かけたのは初めてだな。まぁ、今回も一応仕事なんだけど。
俺が元々あまり出歩かないタチなのと、本人からもそんな事を言い出した事が無かったから気にもしてなかった。
もしかしたら心の中では居候なのを気にして我慢していたのかもしれない。
これからはたまに何処かに連れて行ってやろう。
そんな事を考えていると――
「ちょっと! 何私の水着姿に見惚れてんのよ!? エッチ!」
ティンクに思いっきり水を掛けられる。
「……やりやがったな! これでもくらえ!」
ティンクの乗った浮き輪をグルグルと勢い良く回す。
「え、えぇ!? ちょ、止めなさいよ! 目が周る~!」
それを見て笑うカトレア。
最高の夏休みをありがとう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
※ティンク