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09-17 黒くてテカテカ

 ホテルに戻ると、執事隊が慌ててカトレアの元に駆け寄ってきた。

 この後、ホテルの重役や島の観光事業のお偉いさんを交えた食事会があるらしく、それに向け色々と段取りをしたいそうだ。


 どうやらチュラ島観光業界としては、近隣だけではなくモリノのような離れた国からも観光客を呼び込みたいらしい。

 その広告塔としてカトレアに一役買って欲しいようだ。


 執事隊に囲まれてあれこれ聞かれながら別室へと連れて行かれるカトレア。

 あれだけ一度に話しかけられたら目が回りそうなものだけど、涼しい顔でテキパキと対応している。

 頼りになる当主様の本領発揮だ。


 俺とティンクはカトレアとは別行動になるので、用意してくれた食事の会場へと向かう。


 ……


 案内されたのは、本館の庭にある大きなテラス。

 そこかしこに松明が灯され、吊るされたランタンの光と相まって情熱的な夜の雰囲気を醸し出している。


 ゆったりとしたラタン製の大きなソファーに腰掛ける。

 フカフカのクッションが敷かれており、満点の星空の下ゆったりと寛ぐことが出来そうだ。


 暫く待つとテーブルに山盛りの料理が運ばれてきた。

 肉や野菜を串に刺し、炭火で豪快に焼いたバーベキュー。

 エビのフライや魚介のサラダ。

 デザートに食べきれないほどのフルーツまである。


「美味しそうー!」

「いただきます!」


 食欲をそそる甘辛ソースで味付けされた大振りの肉を思いっきり頬張る。

 火傷しそうな程熱々な肉汁がジュワリと染み出してくる。


「うめぇー!」


 隣を見るとティンクは肉や野菜を丁寧に皿に取り外して食べている。


「うん! 美味しい〜!」


 頬を押さえて足をバタバタとさせ喜ぶティンク。


「お前な、こういうのは豪快に食うのが美味いんだよ!」


 串から肉を引き抜きもう一切れ頬張る。


「あ、ちょっと! 口の周りソースだらけじゃない!」


 そう言ってティンクが俺の口をナプキンで拭いてくる。


「いいじゃねぇか、どうせまたつくんだから。最後にまとめて拭くから」


「もぉ、そういう事じゃなくて――!」


 いつも通りのやり取りをしていると――会場の照明がふと暗くなる。


 見ると係員がランタンや松明の火を消して周っている。


 何だ何だ?

 と思っていると、会場に軽快な打楽器の音が響き始める。


 そして――


『ハアッ!!』


 野太い叫び声と共に、火のついた松明を手にした数人の男が舞台の上へと駆け上がって行く。


 皆一様に上半身裸のゴリゴリなマッチョ達。

 手に持った松明の炎に照らされて、テッカテカに黒光した筋肉が怪しく闇夜に浮かぶ。


「な、なな、なに!?」


 何とも形容し難い異様な光景に、恐れをなしてティンクが俺にしがみついてくる。


「いや、俺の方が知りてぇよ!」


 部屋にポーションを置いてきたのを後悔する。

 まさかこんな所で謎の筋肉集団の襲来を受けるとは!!


 とはいえ、周りの係員さん達は特に慌てる様子も無い……て、敵じゃないのか!?


 事態が飲み込めずオロオロしていると……


『ウーーッ、ハアッ!!』


 再度の雄叫びと共に、男達が手に持った松明をグルグルと回し始める。


「――おぉ!!」


 高速で振り回された炎は、残像を纏い暗闇の中で見事な円を描く。


「……凄い!」


 事態を飲み込めたティンクも拍手をしてショーに釘付けになる。


 手を休める事なく松明を回し続け、様々な模様を空中に描き出して行く男達。


 太鼓の音が少し静かになったかと思うと、今度は大きな炎の上がる松明をゆっくりと身体の周りに這わせ始める。


 両脇の下、そして股の間を燃え盛る炎が通り過ぎて行く。

 普通に考えたら、股間がバーベキューだ。

 会場から驚きと興奮の沸き混ざった歓声が上がる。


『ねぇ!? 熱くないの!?』


 隣の席で子供が父親にせっついている。


『お、おお。あの人たち凄く鍛えてるだろ? だからあれくらいの火は大丈夫なんだ。だけど本当はすっごい我慢してるんだから絶対に真似しちゃダメだぞ!』


 ――本当は……全身をギラギラにテカらせているあの液体。おそらく錬金術のアイテムである“対火のジェル”だ。


 大量の水分を魔力で半固形状に濃縮した塗り薬で、多少の炎ダメージなら一定時間防ぐ事が出来る。


 火傷を完全に防ぐには全身にくまなく塗りたくる必要があり、戦闘中では当然そんな事をしている暇も無いため冒険者は中々戦闘には使わない。

 鍛冶屋さんや消防隊なんかがよく使うと聞いた事がある。

 まさかこんな使い方があったとはなー。


 アイテムのお陰で火傷の心配は無いとはいえ、棍棒を使ったダンス自体は見事なものだ。


 最後には、口に含んだ液体を松明に吹きかけ巨大な火柱を上げてショーを締め括る。


『パパー!! すごい、ドラゴンみたい!!』


『そうだな! きっと人間とドラゴンのハーフなんだよ!』


 本当にそうなら、それこそ島の伝説になるだろう。


 興奮冷めやらぬ中、男達は深々とお辞儀をしてステージを去って行く。

 会場から割れんばかりの拍手が送られた。


 中々に非日常的な光景を見せて貰った。

 島の雰囲気といいホテルといい、これはわざわざ

 外国から遊びにくる客も多いはずだ。



 その後、南国情緒漂うダンスや民族楽器なども披露され、南国の熱い夜は大いに盛り上がった。



 ――



 食事を終えシャワーを浴びた後部屋でゆっくりしていると、カトレアが戻ってきた。


「お帰りー! お疲れ様!」


 ティンクが迎える。


「ただいま! ご飯、どうだった?」


「すっごい美味しかった! それにショーも凄かった! 炎のダンスとかあったのよ!」


 興奮して話すティンク。


「私も別の席から見てたよ! 対談しながらだったからゆっくり見れなかったのが残念……。そっちで一緒に見たかったなー」


「明日もきっとやるでしょ! 一緒に見よ!」


「そうね!」


 シャワーを浴び、寝巻きに着替えたカトレアも交え、テラスのデッキチェアにもたれて海を眺める。


 さっきまでの賑やかさが嘘みたいに、ただただ波の音だけが聞こえる静かな夜。


「――あら? あれ何かしら?」


 カトレアが立ち上がって離れた海岸を指差す。

 俺とティンクも立ち上がってその方向に目を凝らす。


「本当だ。……灯り、火かしら?」


 海岸沿いにいくつもの光がユラユラと揺れている。



「――まさか、人魂!?」


「えっ!? 嘘よね!? お化け騒動はこないだので充分よ!?」


 慌てるティンクとカトレア。


「……あー、多分あれが“迎え火”だな」


「むかえび?」


「あぁ」


 昼間ローラから聞いた“盆帰り”の風習の話をする。


「――なるほど、お祭りの一環なのね」


「そうみたいだな。あの火を目印に先祖の霊が海から帰ってくるんだってさ」


「何だか神秘的ですね」


 水面に映る青白い満月。

 空には満点の星。

 海岸線を眺めればユラユラと暖かな光が揺らめく幻想的な風景を、3人揃って暫く眺めた。

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