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09-14 流れを憂う人

 街から歩いて20分程だっただろうか。

 結構遠くに見えたけれど、実際に歩くとそれ程の距離でも無かった。


 平地は道も整備されてて麓まではすぐに来れたものの、岬の先端まで登る道は結構な傾斜があり息が上がる。


 道端に咲く鮮やかな南国の草花を楽しみつつ、どうにか一気に登り切った。



「おぉ――こいつはスゲェな」


 岬の上からは、さっきまで居たビーチや露店街が一望出来る。


 半月型の白い砂浜に、寄せては返す波とそれと戯れる人々の影。

 島の奥へと少し入った辺りに見えるのは、地元の人達が住む昔ながらの町並みだろうか? 案外近くにあったんだな。

 整然と区画整備された観光エリアとは違い、家々が雑然と建ち並んでいる。

 島の伝統だという赤い瓦屋根が南国の深い緑の植物達と相まって美しい。


 こんな華麗な景色が見れるなら、わざわざこんな岬の上まで来た甲斐もあったな。


 そんな事を思いながら岬の先に目をやると、石碑が1つポツリと立っていた。


 あれが爺さんの言ってた石碑か。


 近くまで行って、ふと石碑の袂に人が居るのに気付いて驚く。


 青白いロングワンピースを着た若い女性だ。

 海風に亜麻色の髪を靡かせ静かに石碑に手を合わせている。


 お祈りを済ませ静かに立ち上がると、こっちを振り向き俺に気付いて一瞬驚いたような顔を見せる。が、直ぐにニッコリと微笑みかけてくれた。


「こんにちは。ごめんなさい、こんな所に人が来るなんて珍しいので驚いてしまって」


「あ、あぁ。俺も人気のない場所だって聞いてたから驚いたよ」


「……観光客の方?」


 島の人から見たら“ないちー”は見た目で分かる。本当なんだな。


「あぁ。街の人から人魚姫伝説ってのを聞いてさ。可哀想な人魚に手でも合わせて行こうかと思って」


「ふふ、それはきっと喜びます。よかったら一緒にお祈りしませんか?」


 そう言って石碑の前で隣を開けてくれた。

 一緒にしゃがみ込み、静かに手を合わせて祈る。


 心地よい海風が吹き、ふわりと花のような良い香りを運んでくる。

 さっきまでは感じなかったから、彼女の香水か何かだろうか。


 暫く祈った後、目を開けて石碑を見てみる。

 高さは俺の背を少し超える程。

 元は立派な物なんだろうが、海風に晒されてすっかり砂まみれになってしまっている。


 献花台があるが、供えられているのは赤い“雷花”が一輪の花のみ。


「これは君が?」


「はい。一輪だけで寂しいですけど、無いよりは良いかと思って」


「そうか、俺も花くらい持ってくればよかったな」


「ふふ、その気持ちだけでも充分嬉しいと思いますよ」



 せめてもと思い、石碑に積もっている砂埃を持っていたタオルで払う。


「あ! お洋服が汚れてしまいます! 私がやろうと思ってたので」


 そう言って慌てて彼女も手伝い始める。


「いいのいいの。ここまで来るのに汗だくだからどうせ服は洗濯するし」


 2人がかりで掃除したものの、水も掃除道具も無いためあまり綺麗にはならなかった。


 それでも、とても嬉しそうに笑う女の子。


「最近はリゾート開発で島の人達も忙しいみたいで、古い風習に構ってる暇なんてないみたいです。せっかくの伝統的なお祭りも観光客目当てにお金儲けの事ばっかり」


 眼下に広がる街を見る。


「お祭りって、“盆帰り”のお祭り?」


「えぇ。よくご存知ですね」


「ああ、ホテルの係員さんから聞いて。確か死者を祀るんだっけ?」


「死者を祀る……といえばそうですが、そんなに仰々しい物でもありません。先祖の霊をお迎えするために、夕に火を焚いて、雷花をお供えするんです。迎え火、迎え花といってこれを目印にご先祖様が帰ってくるんですね。そしてご先祖様と一緒にお酒や食事をしながら語らいを楽しむんです。――私は、お酒の件は単に飲んで騒ぎたい人達の言い訳なんじゃないかと思いますけど」


 そう言ってクスクスと笑う。

 どこかもの寂しげで儚さのあるその笑顔。


 俺の周りにも美人は多いが、何故か気が強くて一癖も二癖もある人ばっかりだから、こんな清楚系の美人は珍しい。


 思わず見惚れていると、また寂しそうな表情で彼女が呟く。


「でも、今年はダメですね。“雷花”も不作で飾れませんし、ご先祖様の霊も帰って来られないかもしれません。……まぁ、観光客目当ての島の人達はお金さえ入れば関係ないんでしょうけど」


 彼女は……観光客の事をあまり良く思ってないのだろうか。

 これだけの開発を実施すれば当然島の暮らしや自然に大きな影響があったはずだ。

 島民全員が完全に納得のいく形にはならなかっただろう。


「あ! 別に観光業が悪いと言ってる訳じゃないんですよ! 私もこの島の美しさを世界中の人達に知って欲しいですし」


 俺の気持ちを察したのか、慌てて笑顔を取り繕う。


「――そうだ! よければ少し一緒に街を歩きませんか? 少しなら案内出来ますよ! お掃除を手伝って頂いたお礼です」


「え、いいの?」


「えぇ。もしお邪魔でなければ」


 ニッコリと優しい笑顔を向けてくれる。


「邪魔だなんてとんでもない! 島について色々知りたかったし!」


 この島の錬金術についても知りたかったし、地元に詳しい人の案内は助かる。

 ……なにより、こんな可愛い子に街を案内して貰えるなんて願ったり叶ったりだ!


「それじゃあ早速行きましょう! あ、そういえば、お名前」


「あ、俺はマグナス。マグナス・ペンドライト。モリノで錬金術の便利屋をやってんだ」


「凄い! 錬金術師さんなんですね」


「まだ駆け出しだけどね」


「私は……ローラです。よろしくお願いします!」


「こちらこそ!」


 お互いの故郷の話なんかをしながら、岬を降り街へと向かう。

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