魔族領に行こう
「……って事でね、とりあえず魔族領に向かう事にしたんだけど、どこから行けばいいかなぁ?」
魔王サマとの会見から数日後、私はカフェ「紗旧葉須」で、いつものように「メイリンちゃん」を堪能しながらセシリアさんに相談を持ち掛ける。
あの後、ミュウ達には、補足説明も含めて、私の事をすべて話した。
……だからと言って、みんなの態度が変わることは無かったんだけど……と言うか、あまりにも変わらな過ぎて拍子抜けしている。
それより問題なのは、魔王サマがくれた「お土産」なのよね。
天空城の設計図が入ったクリスタルには、それに付随して、様々なアイテムの作り方などが詰まっていたんだけど、私って基本エンチャントしか使わないから、少し高度すぎてお手上げなのよねぇ。
まぁ、アイちゃんに丸投げしてあるから、欲しい物があればアイちゃんが作ってくれるからいいけど、クーちゃんが嵌っちゃってねぇ。現在クーちゃんはターミナルの作業室で引き籠り中。
アイちゃんはクーちゃんの指導したりサポートしながら、同時進行で、地図の解析中なのと、私が頼んだものの制作をしている。
こんなアホみたいなマルチタスクが出来るのも、砂塵の塔をクリアして、さっちゃんとのリンクがつながったおかげなんだとか。
新たなターミナルを再起動してリンクすれば、それだけアイちゃんのスペックも上がるという事らしいので、彼女?は第一優先事項で、地図の解析に取り掛かっている。
因みに、マリアちゃんは、またしばらく町を離れるという事で、食材の整理や、街でのお勤めを済ませに忙しく動き回り、ミュウは、籠ったクーちゃんの代わりに、ニャオ率いる防衛部隊に訓練と指導をしている。
因みに、この防衛部隊、ベガスを中心とした空挺部隊が約250羽、ネコ、ネズミ、ウサギなどの小動物系の魔獣を中心とした陸戦部隊が約500匹ほどいる。
その内、海や川などで活躍する水棲部隊なども出来そうだ。
この膨れ上がった数の部隊を、そのまま遊ばせておくのは勿体無いので、目下、何かに利用できないかと、密かに検討中なのだ。
「そんな感じで、みんなそれぞれに急がしいのよ。」
「ミカゲお姉ちゃんはこんな所で遊んでていいのです?」
そう言う私に不思議そうな顔で聞いてくるメイリンちゃん。
「私も忙しいよ?だからこうしてメイリンちゃんとエッチぃことをしに来たんじゃないのよぉっ!」
そう言ってメイリンちゃんに襲い掛かろうとしたら……。
「きゃぁぁっ!」
ビリビリビリと体が痺れる。
「ごめんなさぁい。先日クーちゃんが来て、ミカゲお姉ちゃんとえっちぃことしちゃダメだって……。一応反抗はしたんだけど、勝負に負けちゃったから……。」
そう言って、首のチョーカーを見せる。
それは以前私がクーちゃんの護身用にと創ったものとよく似ていた。
確か、男が触れようとしたら、極大の衝撃波を放つ仕組みになってたはず……。
「何でも、ミカゲお姉さんがエッチぃことを考えて触れようとすると、スタンが発動するらしいのですよ。」
うぅ……クーちゃんに負けた……。
私はただ、メイリンちゃんとイチャイチャして癒やされたかっただけなのにぃ。
「えっと、そろそろお話を戻してもいいかしら?」
セシリアさんがいつもの困った表情で聞いてくる。
「あ、えっとなんだっけ?」
「魔族領のどこに行けばいいかってお話ですわ。」
「あぁ、そうそう。で、どこがいい?」
「正直なところ、今のミカゲ様の御立場でしたら、中央区以外はどこに行っても構わないとは思いますが、出来ましたら、まず西のリリスファム公女殿下のもとに向かわれたらどうでしょうか?」
「セシリアさんがそういうって事は、何か理由があるんだよね?」
「そうですね、幾つかありますが、まず、リリスファム公女殿下が女性であること。」
ウン、それは大事だね。変な男が、尊大な態度で見下して来たら、キレて潰す自覚はあるよ。
「だから潰さないでくださいって。」
私の呟きに苦笑するセシリアさん。
「次に、リリスファム公女殿下は、私達の主だったお方ですので、話は通してありますが、一度お顔を見せて頂ければ、と思います。」
セシリアさん達サキュバス族は、私がターミナルを開放して、忠誠を誓うまでは、リリスファム公女の庇護下にあったんだって。
と言っても、特に何かあるわけでもなく、サキュバス族のバックには公女がいるぞ、と言う単なる後ろ盾以上のことは無いらしいんだけど、それでも、庇護下にあったものを奪い取ったわけだから、一応挨拶ぐらいはしておいたほうがいいかな?
「最後にリリスファム公女殿下は、そのお立場故、魔族領の様々な情報をお持ちの筈ですから、きっとミカゲ様のお役に立つでしょう。そして、ミカゲ様の持つお力は、リリスファム公女殿下にとっても必要になると思われますので。」
つまりは、リリスファム公女に力を貸せば、情報も得やすいと言いたいのね。でも……。
「悪いんだけど、リリスファム公女殿下の派閥に入る気はないからね。」
と言うよりどこの派閥にも入る気はない。
そんなのに入ったら、面倒が増えるだけじゃない。
「えぇ、もちろん。そんな事を言う気も言う資格も私にはありません。ただ、ミカゲ様であればリリスファム公女殿下とお会いすれば、何かが動く、と言う予感がしますので。」
そんな風に笑って言うセシリアsンだけど……。そんな予感やだなぁ。
「分かった。少し考えてみるよ。」
私はそう言って店を後にする。
店を出る前にもう一度メイリンちゃんに視線をやり、今度来るときは、あのスタン対策をしてこなきゃ、と心に誓うのだった。
◇
「で、どうするのか決まった?」
夕食後、ミュウが聞いてくる。
勿論、どこに向かうかについてだ。
「ウン、色々考えたけど、やっぱり西からかなって。」
「そう決めた理由を聞いていい?」
「うーん、ぶっちゃけ、消去法って事もあるんだけど……。」
まず、中央のアシュラ皇太子はダメだ。様々な伝手が出来てからならともかく、魔族至上主義を掲げる脳筋には、私が人間って事だけで碌に話が聞いてもらえる気がしない。
次に、東のブターク辺境伯に関しては、本人が砂塵の塔にいるため、訪ねていくだけ無駄に思える。
一応面識のある、南のアレックス公爵は問題外。ノコノコと行ったら、そのまま即結婚!という目になりかねない。本人が「通行証」と言っていた宝玉にはそれだけの効力があるらしい。
そして北のガイアス伯爵については、セルアン族にゆかりがあるという事以外、一切の情報がない。中央にいきなり行くよりは若干マシではあるが、その程度なのだ。
「……リリスファム公女殿下も同じって言えば同じなんだけどねぇ。こっちは、一応人間との融和も掲げているし、サキュバスさん達の保護者だったわけだし、そう考えると一番マシかなぁって。」
私が言い終えると、ミュウ達は納得したように頷いてくれる。
「アンタにしては割とまともな理由だったからね、反対する理由もないしね。」
「私いつもまともな事しか言ってないよね?」
ミュウの言葉に納得できないものを感じた私はクーちゃんに助けを求めるけど、クーちゃんは力なく首を横に振るだけだった。解せぬ……。
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