選択の時? -前編ー
「いらっしゃいませぇ。」
明るい声が店内に響き渡る。
「ご注文はいつもの?」
席に案内されながらそう聞いてくるメイド姿の女の子。
もうすっかり顔馴染なので、接する態度も気安い。
「うん、いつものでお願い。」
「はーい、オーダー「メイリンちゃん」入りましたぁ。」
席についてしばらく待っていると、大きなパフェを持ったメイリンちゃんがやってくる。
そして、テーブルのパフェを置くと、よいしょっと、私の膝の上に座る。
「えっとですね、ミカゲさん。いつも言ってますけど、私はメニューに入っていませんので……むぐっ……。」
私はパフェをスプーンで掬うと、ブツブツ言っているメイリンちゃんの口に押し込む。
メイリンちゃんは、それを咀嚼して飲み込むと、諦めたようにあーんと口を開く。
私はその口の中に新たなパフェを入れる。
もぐもぐとパフェを食べるメイリンちゃん、いつ見ても可愛い♪
ロリッ娘メイドのメイリンちゃんを、膝の上に乗せてデザートを食べさせる……これが、カフェ「紗旧葉須」のミカゲ専用メニュー「メイリンちゃん」である。
「ミカゲ様、いらっしゃいませ。」
メイリンちゃんがデザートを食べ終わる頃、店主のセシリアが顔を出し、隣へと腰掛ける。
普段はカウンター越しに会話するだけだが、こうして隣に座るのは、何か重要な話がある時だけ。
それがわかっているため、メイリンちゃんはすっと膝から降りると、空いた器をもって奥へと下がっていく。
「うぅ、メイリンちゃぁぁん。」
「まぁまぁ、また後で呼びますから。」
セシリアさんは、困った豊穣を魅せながらそう言うと、少しだけ身を寄せてくる。
「それで、今日の話は何?」
「えぇ、そろそろミカゲ様とも深い話をする頃合いかと思いまして。」
「深い話?」
「はい、具体的には、ミカゲ様はどの勢力につくおつもりかという事ですね。それによって私たちの立ち位置や行動が変わってきますので。」
「はい??」
突然降られた話に、訳が分からないという表情を作る。
どゆ事???
「ですから、ミカゲ様はどの勢力にお味方されるおつもりなのでしょうか?」
「えーと、話がよく見えないけど、どの魔族にも味方するつもりはないよ?」
「えっ?」
セシリアが信じられないものを見るような目で見てくるけど……、魔族が勢力争いをしているなんて今初めて知ったしね。
そもそも、何でそんなめんどくさそうなことに係らなきゃならないの?
「北のガイアス伯爵に縁のあるセルアン族を配下に収め、西のリリスファム公女殿下の眷属である私達サキュバス族を保護し、東の辺境伯ブターク伯爵様と懇意になされ、南のアレックス公爵様からはプロポーズされているミカゲ様のお言葉とは思えませんが?」
「そんなこと言われてもねぇ。って、アレックス公爵って誰?私いつの間にプロポーズされた?」
「えっと、以前アレックス公爵様より、求愛の宝玉を受け取っておられますよね?」
そんなの貰ったっけ?
私は記憶を手繰り寄せてみるが、まったく覚えがない。
「アレックス公爵様からは、ミカゲ様と踊った後手渡したと伺っておりますが?」
踊る??…………。
私の人生経験上、踊ると言えば小学校でのフォークダンスしか……って、そういえば。
ふと、思い出して勇者の袋を探る。
「……ひょっとして、宝玉ってこれの事?」
私は取り出した宝石をセシリアに見せると、セシリアは喜色の笑みを浮かべる。
「まさしくそれですわ。さすがはアレックス公爵様、これほど質が高く、格の大きい魔晶石は初めてみましたわ。」
うっとりと宝石を眺めるセシリア。
アレックス公爵ねぇ、そう言えば、これくれた魔族ってそんな名前だったっけ?
「ねぇ、ひょっとして、アレックスって、魔族の中でも偉い人?」
とてもそうは見えなかったけど。
「はい、アレックス公爵様は魔族四天王のお一人でございます。」
「四天王?」
「はい、東を治めるブターク辺境伯、西を平定したリリスファム公女殿下、北の守護神ガイアス伯爵、南の貴公子アレックス公爵、そして中央のアシュラ皇太子殿下が魔族四天王と呼ばれ、実質のトップです。」
「はぁ……って、5人いるじゃない?」
「それが何か?」
「いや、四天王でしょ?なのに5人って?」
おかしいでしょとセシリアに言うが、そう言うものだと取り合ってももらえなかった。
何でも、各地に10人の「七星英雄」だとか、24人いる「魔剣十二士」だとかがいるので、四天王が5人いるくらいで何か問題でも?と言われてしまっては、何も言い返すことが出来なかかった。
話を戻すと、現在魔族は、人族を含めて広く交友するべきというリリスファム公女殿下の融和派、魔族がすべての種族の上に立ち、魔族支配による永遠の平和を、と考えるアシュラ皇太子殿下の過激派、攻めてくるならいつでも相手にはなるが、こちらから騒ぐものではない、と不動の構えを見せるガイアス伯爵の穏健派、そして、何を考えているか分からない、ブターク辺境伯とアレックス公爵の中立派に分かれているらしい。
それぞれ考え方も、取るべき手段も全く違うが、無駄な争いを無くそうという点において、目的は一致しているため、魔族同士で表立って争う事はない。
しかし、水面下では、自分たちの属する派閥が主導を握るために暗躍しているという。
そのような状況下で、私は知らないうちに、実質魔族を動かしている四天王の内の4人と浅からぬ縁を結んでしまったらしく、各派閥からは私の動向が魔族の行く末を決めることになるかもしれない、と、各方面から注目されているという事だった。
「そんなこと言われてもねぇ……って言うか、私「勇者」なんだって。魔王と戦う勇者なんだけど、いいの?」
「……つまり、ミカゲ様は人間族の代表として、魔王様に立ち向かう……そういう事でよろしいですか?」
セシリアの目が少し細くなる。
「えー?何でそんな面倒な事ことしなきゃならないの?大体、魔王と戦わなきゃならない理由もないし。」
「……では、人間族の味方になるわけではないと?」
「ンー、そういうのよくわかんないよ。」
「そうですか……。」
セシリアさんはなんかホッとしたような残念なような表情をしている。
「あ、でもね、人間とか魔族とか関係なく、ミュウやクーちゃんやマリアちゃん、それからセシリアさんやメイリンちゃんとか、獣人族の女の子なんかを傷つけるようなのがいたら、遠慮なく潰すよ?」
にっこりと笑ってそういうと、セシリアさんも笑い返してくれた。ただ、その笑顔が少し引きつって見えたのは、多分気のせいだよね?
「じゃぁ、そのお嬢ちゃんを傷つけたのが魔王や女神様でも、アンタは立ち向かうってことでいいのか?」
「誰ですかっ!」
セシリアさんがさっと戦闘態勢を取る。
「オイオイ物騒だな、俺は客だぜ?」
いつの間にか近くにいた男が笑いながら言う。
「それは……いらっしゃいませ……。」
「この店始めてなんだが、何かおすすめはあるかい?」
「勿論、「メイリンちゃん」よっ!」
男の言葉に私は反射的に答える。
この店に来て「メイリンちゃん」を頼まないなんてありえない。
「あ、あぁ……。じゃぁ、それを頼んでいいか?」
「ダメに決まってるじゃないっ!メイリンちゃんを男の膝の上に座らせるなんて、女神様が許しても私が許さないわっ!」
「あの、そもそも、「メイリン」はメニューではないので……。とりあえずマテ茶でよろしいでしょうか?」
「あ、あぁ、それで。」
困った表情を浮かべるセシリアさんと、同じく困った顔で注文する謎の男。
「ところで、あんまり使ってないみたいだけど、お気に召さなかったか?」
セシリアさんがオーダーを通すために席を立つと、男が私に声をかけてくる。
「は?何のこと。」
「オイオイオイ、覚えてないのか?ダンジョンで助けてやっただろ?」
「………???」
「マジか。」
不思議そうに男の顔を見ている私を見て、頭を抱える謎の男。先ほどのセリフからすると、どこかで会って要るっぽいんだけど……。
カランカラーン。
「あー、ミカ姉が男の人といるっ!」
ドアベルの音とともにそんな声が聞こえてくる。
「あ、クーちゃん、ミュウ、マリアちゃん、丁度いいところに。」
私はやってきた皆に、この男に見覚えがないか聞いてみる。
「はぁ?アンタの昔の男を私が知ってるわけないでしょうが。」
「昔の男じゃないよ。私の昔の男はシンちゃんだけだモン。」
「ミカゲさんッ!男がいたんですかっ!」
ワイワイと騒ぐ私たち。
その様子を眺めながら謎の男は途方に暮れた顔をしていたのだった。
ご意見、ご感想等お待ちしております。
良ければブクマ、評価などしていただければ、モチベに繋がりますのでぜひお願いします。




