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新しい街

「これでよかったの、ミカゲ?」


ミュウが展望台から下を見下ろしながら言う。


眼下には小規模ながら、街といえなくもない営みが出来上がりつつある。


殆どが、タハールの街からの移住者だけど、噂を聞きつけた、以前にタハールの街を追い出されて、砂漠の片隅で生き永らえた者達も集まってきている。


「いいんだよぉ。ぶっちゃけ、あの人たちは、何かあった時の肉壁なんだから、数が多いに越したことはないでしょ?」


「肉壁って、アンタねぇ。もう少し言葉を選びなさいよ。」


「ミュウお姉ちゃん、ミカ姉は照れてるんだよ。」


同じように出来上がりつつある街を見下ろしながら、クーちゃんがニコニコ笑いながらいう。


「照れてないモン。」


分が悪くなってきたので、私は視線を眼下の街へと逸らす。


私達が砂塵の塔を攻略してから一か月。私はまず、砂塵の塔の周りにリソースを割り振って、人が住める土台を作った。そして、タハールの街に戻り冒険者ギルドのマスターに、タハールの街が長く持たない事。移住先は用意してあるので、一部を除いた希望者は受け入れる用意があることなどを伝えた。


ここで除かれたのは、私たちの荷物を奪った者達や、街長を始めとした、自己の利益にしか興味のない腐った役人たち。


シーフギルドなんてものも存在したけど、その辺りに関しては必要悪とか言うのもあって、判断は全部冒険者ギルドのマスターに丸投げしておいた。


この街に大半の住民が移住してきているから、タハールの街も辛うじて生きながらえているけど、それももはや時間の問題。一部信じない住民達がタハールの街にしがみついているけど、私は道を示したんだからあとは知らない。

大体「助けてあげる」なんておこがましいでしょ?


新しい街は「蜃気楼の街『シャドウミラージュ』」と名付けられた。


中心に砂塵の塔改め『陽炎の塔』が屹たち、5Kmほどの距離を空けて、塔をぐるりと囲むように町並みが広がっている。


砂漠の命綱である水源は、東西南北の4か所に設置され、絶えることなく湧き出している。


その水源を中心に街は作られ、北地区は職人街、南地区は商店街、東地区は冒険者ギルドがあり、、冒険者の為の街づくりがなされ、西地区は住宅街と言うように、おおざっぱながら住み分けがされつつある。


ここまで来たら、もうこの地に留まる必要もないだろう。


「さっちゃん、塔のダンジョンはどうなっている?」


「Yes,マム。ご要望の通り、周りの砂漠に住まう魔獣を低階層に定期的に移送するシステムは順調に動いています。15階層の魔族様のブロックはそのまま10階層と入れ替え済です。11階層から15階層はランダムクリエイト構造を導入中……現在80%まで構築されています。16階層以降の空間断絶済み、ターミナルコア周りの居住区は完成。ミラージュの街への転移陣、他ターミナルとの転移陣設置完了。……。」


さっちゃんの報告が続く。……うん、殆ど大丈夫っぽいね。


「じゃぁ、最後の仕上げ、かな?」


「ミカ姉、どこ行くの?」


「ん~、ブターク伯爵の所。」


「私も行くわ。今更あの魔族が何かするとは思わないけど、一応ね。」


「私も行く。ミカ姉とミュウお姉ちゃんだけだと、何か問題起こしそうだし。」


「……クーちゃんの信用がないっ!?」


ガーンとショックを受けて膝まつく私にミュウが冷たい声をかける。


「何やってんの、早く行くよ。」


「あ、待って待って。」


すたすたと先に行くミュウを慌てて追いかける。



「ここから好きな階層に行けるんだよね?」


クーちゃんがキョロキョロと部屋の周りを見回す。


ここはダンジョン転移ルーム。隣の転移ルームとは違い、ダンジョン内を行き来するための場所。


ここからは好きな階層に行けるけど、行った先から移動するには、私達が身につけたアクセサリーに内包され転移システムを使って、一度ここに戻ってくる必要がある。


面倒だけど、そういうものとして割り切るしかないんだって。まぁ、殆ど使うことないからいいんだけどね。


私は、皆が転移ルームに入ったのを確認すると、10階層のボタンを押す……なんかエレベーターみたい。

エレベータと違うのは、ボタンを押した直後、私たちの身体を光の粒子が包み込んで、次の瞬間には、10階層の転移部屋に移動していたという所かな?


「ん?お主ら。またマナー講座を受けに来たのか?」


ボス部屋に入ると、ブターク伯爵がそう話しかけてくる。


「ん~、今日はいいや。それより、階層を勝手に移してゴメンね。」


「いや、気にしておらぬ。話を聞けば、儂が以前いたところは中々の難所だそうではないか。それに比べてここは来客が多い。先日も数組の客が来て楽しませてもらったぞ。」


「だったらいいけどね。……今日来たのはお願いがあってね。」


「フム、儂に出来る事であれば、ここの家賃分ぐらいであれば聞かぬこともないが?」


「うん、えーとね、ここのガーディアンを紹介してほしいの。」


「ガーディアン?」


「うん、元々、遥かな昔、このターミナルを護っていた魔族のガーディアンの種族が存在してたんだよ。もう古くてどんな種族だったかは分からないんだけど、多分サキュバス族に関係していると思うの。」


そう言って私はブターク伯爵にサキュバス族の事、ガーディアン種族の役割なんかを話す。


「でね、魔族の中で行く当てがなくて困っている種族がいて、尚且つここに適した種族がいれば、紹介してくれないかなぁ、なんて。別にここに縛り付けようって気はなくて、私達は安住の地を与える代わりに、その場を自らの為に守ってもらう、結果、ここを護ってもらう事になるって言う、Win-Winな関係だと思うんだけど……どうかな?」


「ふぅむぅ……。ここに住むとなれば空を飛べる種族だな……。わかった。心当たりがない訳じゃない、打診だけはしてみよう。」


「よかった。これで安心して帰れるよ。後のことはさっちゃんに任せるから、お願いね。」


「あい分かった。後は任せるがよい。……しかしなんだな。我は伯爵だぞ?その我にこうも気安く頼みごとをしてくるとはのぅ。」


「そんなこと言われても、私魔族じゃないし、身分なんか知らないしね。」


「うっはっははっは。面白い、人間よ。またマナーを学びに来るがよい。」


「うん、きがむいたらねぇ。」


私はそう言って手を振ると、ブターク伯爵の元を後にする。



「ねぇ、サキュバスたちに頼めばよかったんじゃない?」


元々、この砂漠への依頼を持ち掛けたのはサキュバスたちだ。このターミナルとも何らかの関係があるはず。そして、サキュバスの食糧となる人間の精気は、冒険者が多い砂漠の地の方が多く容易く得られるのは分かっている。だけど……。


「ん~、なんかねぇ、サキュバスたちがガーディアンって言うのは違うと思うの。勿論、彼女たちが望むなら別なんだけどね。ただ、彼女たちは自ら住むべき場所を選んでるから……。」


「ふーん、私には難しい事は分かんないからね。ミカゲに任すよ。」


「うん、任せてっ!じゃぁ、取り敢えずは帰ろうか。マリアちゃんも準備して待ってるはずだし。」


私はミュウとクーちゃんを抱き寄せながら転移陣へ向かう。


戻ったら、メイリンちゃんをギュってして……あ、獣人の里に行ってケモミミモフモフもいいなぁ……。


戻れば、しばらくの間はゆっくりできるはず。


この時の私はそう思っていたのよ。それが儚い願いだという事も知らずに……ね。








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