砂塵の塔 その11
「にょわぁぁぁぁ~~~~~~~。」
ゴロゴロゴロ……と地響きを立てながら追いかけてくる大岩。
「にゃわわわぁぁぁ~~~~~。」
必死に走りながら、壁の窪みを見つけて、そこにへばりつく様に身を寄せるクミン。
その直後、クミンの身体スレスレを大岩が通り抜ける。
「……ふぅ。助かったぁ。」
大岩が去って少ししてから、クミンはへばりついていた壁から離れ、その場にへたり込む。
「はぁ……。何なのよぉ。」
光に包み込まれたところまでは覚えている。その後、見知らぬ場所に出たことも。
みんなを探すため、この迷宮をうろついていたクミンだが、移動する度に、様々なトラップに会い、それから逃れるためにあっちこっち走り回ったせいで、今自分がどこにいるかもわからなくなっている。
「ミカ姉、大丈夫かなぁ?」
自分を助けてくれたお姉ちゃん。すごい力を持っているのに、どこか抜けていて危なっかしいお姉ちゃん。甘えるとすごく喜んでくれる、……傍にいるだけで安心できるお姉ちゃん。
クミンにとって、ミカゲは残された大事な家族だった。勿論、ミュウもマリアもそうなのだが、その中でも、ミカゲだけは特別だった。
自分より強く、凄い力を持っている……なのに、自分がついていないとダメだと思わせる、その雰囲気が、クミンにとって、自分の居場所がここにある、ここにいていいんだ……ここにいなきゃダメなんだ、と思わせてくれる。
母親を亡くし、身寄りもない孤児であるクミンにとって、ミカゲは存在意義そのものだった。
「よしっ、頑張ってミカ姉を探すよ!……って、なんか狭くなってない?」
気合いを入れ直したクミンだが、周りが狭くなってきていることに気づく。
よく観察してみると、周りの壁がクミンを押し潰すかのように迫ってきている。
「にゃわわぁぁぁぁ~~~~~。」
クミンは、慌てて唯一開けている方に向けて駆け出す。そんなクミンを追いかけるかのように壁の移動速度が速まる。
振り向いてみてみれば、いつの間にか壁にびっしりと棘が生えていた。追いつかれたら、串刺しとまではいかなくても、大変痛い目にあう事は間違いない。
「にょわわわわぁぁぁぁぁ~~~~~~~~。」
クミンはわき目も降らず、延々と続く一本道の通路を駆けていくのだった。
◇
「にょわわわぁぁぁぁ~~~~。」
目の前をわき目も降らずに駆け抜けていく少女。
その後から大岩が転がっていく。
「にゃわわわぁぁぁぁぁ~~~。」
しばらくすると、少女がまた目の前を横切る。
すぐ後から芋虫の大群が追いかけている。
過ぎ去った後はしばらくの間、静寂が辺りを包み込むが、ほどなくして、「にゃぁぁぁぁ~~~~~」という叫び声と共に少女が走ってくる。
マリアは仕方がないので、目の前を通り過ぎようとした瞬間に手を伸ばし、その腕を掴んで、こちら側に引きずり込む。
「クーちゃん、なに遊んでるの?」
「にゃわわぁぁぁぁ……って、えっ?マリアお姉さん?」
パニックを起こしかけていたクミンだが、腕を掴んでいる人物を見て落ち着きを取り戻す。
「ふ、ふぇぇぇぇ~ん、マリアお姉ぇさぁぁぁ~~~~ん。」
しかし、既知の顔を見て、今まで堪えていたものが噴き出し、マリアの胸に顔を埋めて泣き出してしまうクミン。
「あー、はいはい、大丈夫よ。よしよし。」
そんなクミンを優しく抱き留め、頭を撫でながら落ち着くまであやしているマリアの姿は、まさしく聖女といっていいものだった。
「うー、ふかふか。」
マリアの胸に顔を埋めながらそんな事を言うクミン。ひとしきり泣いて落ち着きを取り戻すと、自分にはないものを持っているマリアが羨ましく思えてくる。
「もいでいい?」
「ダメ。それにクーちゃんだってこれからでしょうが。」
「……そうかなぁ?」
確かに自分は成長期だと思う。だけど、マリアのような立派なものを持っている自分が想像できない。と言うか、あんなになったら、ミカ姉に弄られる未来しか思いつかないと考えると、今のままでもいっかと思うクミンだった。
「それで?なんであんなに走ってたの?」
横を見れば自分がいた横道に気づくはず。そうでなくても、分岐は沢山あるのだから、馬鹿正直にまっすぐ走る必要もないのでは?とマリアは思う。
実際、横道が多すぎて、どこに向かえばいいかわからず立ち往生しているのがマリアの今の状態だった。
「だって、一本道だから逃げる場所がなくて……って、そう言えば、何でこんなところに道があるの?さっきまでなかったのに。」
「え?ずっとあったわよ?クーちゃんが3往復ぐらいしてるの見てたし。」
「えっ、うそっ。だって往復なんてしてなくて、ずっと通路をまっすぐ……。」
どうやらクミンと自分の認識に大きな違いがあるらしいと見て取ったマリアは、一度落ち着いてクミンの話を聞くことにした。
「……って感じで、ずっと一本道を走ってたの。」
クミンの話によれば、ある地点からずっと何かに追いかけられていて、避けようにも曲がり角や横道などなく、壁の窪みとか天井に張り付いたりしてやり過ごすしかなく、そうやってやり過ごしたとしても、しばらくすると、別の何かが迫ってきて、それらから逃げるようにずっと走っていたという。
「そうなの?変ねぇ。」
クミンはずっと一本道だというが、マリアが今まで歩いてきた場所は、ひたすら分岐が多く、もう最初の場所に戻るにはどうすればいいのかもわからないくらいに分岐を曲がってきたのだ。
「幻覚……かしら?」
自分もクミンも正しい事を言っているという前提にすれば、考えられるのは、幻覚、もしくは認識疎外にかかっていることが考えられる。
普通に考えれば、現在いる場所がクミンの見えなかった場所という所から、クミンに認識疎外が掛かっていることは間違いない。
しかし、あれだけ分岐にあってきた自分に、認識疎外が掛かっていないと言い切れるだけの保証はどこにもない。
「うぅ、仕方がないなぁ。これだけは使いたくなかったよぉ。」
クミンは涙目になりながら、自分のアイテムポーチからあるものを取り出し、頭にセットする。
以前、ミカゲが異常なまでの愛情をこめて作ったネコミミカチューシャだ。
「確か、それ着けてると探知能力が上がるのでしたか?」
「そうなの……『アフェクション』!」
クミンは、カチューシャを装着したまま、エストリーファの力を開放する。
「…………。マリアお姉さん、向こうに知ってる気配を感じる。」
しばらく目を閉じて周りを探っていたクミンが、目を開けて一方向を指さす。
しかし、そちらは壁があって行き止まりだ。
「……道を探しているうちに迷子になるのも困りますわね。」
マリアはそういうと『マジェクション』と一言唱え、ユースティアの力を開放し、いつものハンマーを取り出す。
「行きますわよ……『インパクト』っ!」
マリアは、ハンマーを大きく振りかぶると、壁に向かって叩き付ける。
ハンマー全体を覆う光が、壁に接触する瞬間に弾け、その威力を何十倍もに変換する。
「ふぅ、クミンさん行きましょうか。」
マリアは、少し引きつった表情のクミンに笑顔を向ける。
「う、うん……。」
その後も、クミンが探知する方向に向かって、最短距離で道を作っていくマリア。
その姿を見たクミンは「マリアお姉さんだけは怒らせないようにしよう」と、いつかミカゲが思っていたことと同じことを心に誓うのだった。
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