砂塵の塔 その9
「うー、どうしようもないかぁ。」
私は諦めてその場に座り込む。
といっても、別に大したことをしてたわけじゃない。
ただ、周りを囲む壁を壊せないかと、魔法をいくつか撃ち込んでみただけ。
結果としては、魔法の強度によっては、破壊できるものの、即座に再生しちゃうから、壊してすぐ移動というのはちょっと無理っぽいてのがわかっただけ。
下手すると、再生途中の壁の中に生き埋めになっちゃいそうだからね。
私は現在、四方を壁で囲われた場所にいる。……閉じ込められているともいう……かもしれない。
動ける範囲は大体8畳ぐらいかな?何もないと意外と広く感じるわね。
なんでこうなったかというと……。
◇
「ミカ姉、看板があるよ?」
16階層へと扉をくぐると、そこはちょっとした広間になっていて、前方にポツンと、看板が立っていた。
「えーと、何々……。『汝の望みを述べよ』だって。クーちゃん何かある?」
「うーん、急に言われても……。「お姉ちゃんたちとずっと一緒にいたい」ってのは……ダメ、かなぁ?」
「う~、きゃわわぁぁぁ~。」
不安気に見上げてくるクーちゃんを私は思いっきり抱きしめる。
なんなの、この可愛い生き物は!
見るとミュウもマリアちゃんも、近くに寄ってきて、私からクーちゃんを取り上げ、代わる代わるギューっってしている。
ウンウン、可愛いは正義だね。
「私も、皆さんと……特にミカゲさんと一緒にいられれば、他に望みなんてありませんわ。」
クーちゃんを抱きしめながらマリアちゃんもそう言う。みんな欲がないんだね。
「私は……そのぉ……強くなりたい……かな?いつでもどんな時でもみんなを護れるぐらいに強くなりたい。」
ミュウ達アレイ族は、一度主となるものを定めたら、命がけで守り付き従うのが宿命だって、以前言ってたことがある。ずっとついていくなら守れる力が欲しいって思うのも無理ないけど……。そう言えば、ミュウって主になる人を探してる気配ないけど良かったのかな?
「そういうミカゲはどうなのよっ!」
ミュウをじっと見てると、照れ隠しのように少し怒った口調で聞いてくる。
「うーん、欲しいものなら、お金とか、自由とか、可愛い女の子とか色々あるけど、今すぐ一つ言えって言うなら、『ミュウの為の女神ユニット』かな?」
「な、なんなのよそれっ!」
ミュウが照れたような慌てたような複雑な表情を見せる。
「だって、私にはエフィーリアがいるし、クーちゃんにもエストリーファがいて、マリアちゃんまでユースティアがいるでしょ?だったらミュウにもサポートしてくれる女神ユニットがいないと不公平じゃない。」
「……わ、わたしの事はいいのよっ!アンタ自身の望みはないわけ?」
「うーん……。」
ないのか?と問われると、少し困る。ない訳じゃないからね。
シンちゃんにも会いたいし、残してきた妹たちも気になるし……。
だけど、向こうにはカオリもシンちゃんもいるから、妹たちの事は心配する必要はない。シンちゃんも……まぁ、私が居なくなれば、カオリとうまくやるでしょう。淋しいとは思うけどね、私なんかより、カオリと付き合った方がシンちゃんの為にもいいはず。
……あ、ダメだ。ずっと忘れていたのに、思い出したら、止まらない。
「ミカ姉、大丈夫っ!?」
クーちゃんが慌てて駆け寄ってくる。
私はそんなクーちゃんをギュッと抱きしめて呟く。
「うん、うん、今はこれでいいの。みんながいるから……。」
「落ち着いた?」
しばらくしてからミュウが声をかけてくる。
「うん、ごめんね、もう大丈夫。」
「でも、一体何なんでしょうね、これ。」
マリアちゃんが、ほっと一息つき、話題を変えるように看板の方を見る。
「あら?」
「ン、どうしたの?」
怪訝そうな声をあげたマリアちゃんに、ミュウが近づいて声をかける。
「えぇ、これが……。」
私とクーちゃんも近づいて見て見ると、先程のメッセージの下に、書き込む欄が増えていた。
「ほほぅ。じゃぁ……。」
どこからともなく現れた備え付けのペンを取ると、「ミュウの女神ユニット希望。できれば可愛い娘。モフモフ出来たら最高!」と書き加える。
「ちょ、ちょっと、あんた何勝手に書いてんのよっ!……って、な、なにっ?」
ミュウが掴みかかろうとするが、私に触れる前に光に包まれて姿を消す。
「えっ?なに?」
何が起きたのか?と思う間もなく、クーちゃんが、マリアちゃんが光に包まれて消える。
……いったい何が……。
そして私もまた光に包まれて……。
◇
薄暗闇の中、じっとしていると忘れていた思い出が蘇ってくる。
体感では、もう3年以上も前の出来事。
あの時、私はその直後に自分に襲い掛かる不幸な出来事があるなんて考えもしていなかった。というより、誰もが、直後に我が身に不幸が襲い掛かるなんて想像もしていないだろう。
そんな事ばかり考えていたのでは、怖くて一歩も動けなくなるしね。
あの時の私は何も悪くなかった、ただ、運が悪かっただけだ。
いつもと同じ帰り道、カバンの中には調理実習で作ったクッキーが入っている。施設で待つ妹たちへのお土産だ。彼女たちが美味しそうにクッキーを食べる姿を想像しながら、使節へ続く道を早足で歩いていた。
ただそれだけだったのに、不意に後ろから腕を掴まれ、気づけば、薄暗い脇道へと引っ張り込まれていた。
背後、左右は石壁、前方には数人の男達の壁……私は至宝を囲まれ、身動きできずに竦んでいた。
そして、前方の男たちが迫ってきて…….
……ちょうど今と同じ感じだったよね。
今の私は四方を壁に取り囲まれている。あの時と違うのは私に襲い掛かってくる男がいない事だけ。
ううん、今はいないけど、しばらくしたら壁の一方が崩れてそこから襲い掛かってくるかもしれない。そうしたら逃げ場のないこの場所じゃぁ、3年前と同じ悲劇が繰り返される……。
……私は何も変わってないの?
……ただ、降りかかる不幸を黙って受け止めるだけ?
……今度は助けてくれるような人もいないよ?
頭の中をネガティヴな思想が占めていく……。
そのとき、ふいに思い浮かぶミュウの、クーちゃんの、マリアちゃんの顔。
……そうだ、私は一人じゃない。そして、3年前と違って、少しだけど力がある。
クーちゃんは今、私より心細い思いをしているかもしれない。
マリアちゃんは、あのたわわな胸を狙う愚か者たちに囲まれているかもしれない。
何より、一番最初に消えたミュウ。あの光は私達を包んだ光とは少し違って見えた。
今、一番助けが必要なのはミュウかもしれない。
三人の事を思うと、不思議と力が湧いてくる。
……みんなを助けなきゃ。
みんなを護るなんて大層な事は言えない。いつも守ってばかりだったから。だけど……。
……私は弱い。だからこそみんなが必要なのよっ!
知らずに体内の魔力が膨れ上がる。
「私の為にっ!みんなが必要なのっ!」
あふれ出た魔力の塊を前方にぶつける。
属性も何もない、純粋な魔力の塊……。
それが前方の壁を貫き、大きな穴をあける。
「『クリエイトゴーレム』!みんな、あの壁を崩してっ!」
散らばった破片が体長1mぐらいの人型に変わる。それぞれの手に、つるはしやハンマーを持っていて、それで、崩れた穴を中心にさらに広げていく。
壁は再生しようとするが、それ以上の速さで壁が崩され、しかも、崩れた破片からゴーレムが新たに出来上がり、壁を崩す陣営に加わっていく。
気づけば、壁の再生は止まり、先へ続く通路が出来ていた。
「ありがとう皆。このまま先へ進むよっ!」
私は数十体のゴーレムを引き連れて、壁の外へと踏み出す。
……ミュウ、今助けに行くからね。
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ネタが中々……商業誌の週刊連載をしている人や、Web小説で毎日更新している人って、凄いですよね。
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