砂塵の塔 その4
おまたせしました。約1年半ぶりに再開です。
「えっと、ここって塔の中………だよね?」
くーちゃんが、戸惑ったような声を上げる。
それも仕方がない。
だって、眼の前に森が広がってるんだもんね。
「不思議よねぇ。」
「ウン、ウン、ミカ姉もそう思うよね?」
私が漏らした言葉に、くーちゃんが、、同意を得た、とばかりにのってくる。
「ウン、とっても不思議。砂漠よりここのほうが過ごしやすそうなのに、何でみんなここに住まないんだろうね?」
「ここがダンジョンの中だからでしょうがっ!バカなことをいってないで手伝いなさいよっ!」
ミュウが、迫りくるウルフたちを斬りつけながら叫ぶ。
「えー、面倒。……いえ、ナンデモナイデスヨ。」
ミュウに睨まれて、私は魔力を貯め始める。
正直、魔獣よりミュウのほうが怖いのよ。
「アクア・スプラッシュ!」
私が魔法を放つと、周りを囲んでいたウルフ達に水球が降り注ぐ。
しかしダメージを与えた感はない。
当たり前だ、単に水浸しになっただけなのだから。
ウルフ達は、一瞬戸惑ったものの、ダメージがないと分かると、再び襲いかかるべく体制を整える。
しかし、それは甘いのよ?
「……からのぉ、エレキテルっ!」
私は続けて、別の魔法を広範囲に撒き散らす。
ちょっとした電撃を流すだけの初級魔法。
まぁ、雷系の魔法は、風と光の複合魔術だから、初級といえども使い手は中々いないんだけどね。
全身ずぶ濡れになったところに、初級とはいえ、それなりに強力な電撃を流されたらどうなるか?
「………答えはこうなるのです!」
私は、エヘン!とクーちゃんに胸を張って見せる。
「あ、ウン、それはいいけど………。」
クーちゃんが、少し困ったような顔で前方を指差す。
そこには、電撃を喰らって動けずにいるウルフの山の中で、同じ様にヒクヒクしているミュウの姿があった。
「………。」
私は無言でクーちゃんに助けを求めるのだった。
◇
「もぅ、いい加減、機嫌直してよぉ。」
ぷいっ!
「うぅ……お肉焼けたよ?」
パクッ……プイっ!
「えーん、くーちゃぁぁん。」
「えっと、ミカ姉が全面的に悪いから………。」
「だから謝ってるしぃ。こうしてミュウの好きなお肉焼いてるしぃ………いい加減許してよぉ。」
激おこのミュウの機嫌を取るために、今夜の晩御飯はバーベキューにした。
お肉はとれたてのウルフ肉。
ちょっと筋張ってるけど、そこがミュウのお気に入りなのは知っている。
秘蔵の香辛料をふんだんに使用した、通称「山賊焼き」が、ミュウの大好物なのも知っている。
それらを駆使し、平身低頭で謝っているのに、ミュウは赦してくれない。
こうなったら……。
「クーちゃん、ごめんね。」
「ミカ姉?」
「ミュウに赦してもらうには、身体を差し出すしかないと思うの。ううん、私じゃダメだからクーちゃんの……。力の足りないお姉ちゃんを赦して。クーちゃんが汚れても大好きだからね。」
私はそう言いながら、クーちゃんの衣類に手をかける……。
「やめなさいよっ!」
背後からミュウのハリセンが襲う。
パシーンっと小気味良い音が辺りに響かせる。
「痛い………。」
「当たり前でしょ!何考えてんのよっ!」
「だってぇ、ミュウがおこだしぃ。」
「だからといって、幼女の身体を差し出そうとすなっ!」
あんたと一緒にしないでよ、とプンスカ起こるミュウ。
それでも、口を聞いてくれるようになったから嬉しい。
「ミュウ、ごめんね、ごめんね。」
ミュウにギュッと抱きつく。
「……ったく。もういいわよ。」
「フェぇぇ〜ん、ミュウぅ~。」
「あ~、よしよし。私も大人気無かっ………。だから触らないでっ!」
調子に乗って、ミュウの尻尾を逆撫でしようとしたら放り投げられた………酷い。
◇
私達が5層のボスを倒してから3日が過ぎた。
6層以降は森の風景が続き、出てくる魔物も動物系のものが多かったため、心配していた食料については、逆にストックが出来るほど豊富になり、また新鮮なお肉が食べ放題という事もあって、ミュウのテンションも上がり切っていて、探索は驚くほどサクサクと進んでいた。
そして、今、10階層へ続く階段を前に、小休止をしている。
「なんか、アッサリとしているわね。」
ミュウが干し肉を齧りながらそういう。
「ここまでは、みんなよく来るそうですから、難易度としても、それ程高くはないのでしょう。」
マリアちゃんが、ミュウに答えている。
私達が集めた情報では、殆どの冒険者達が、この階層まで辿り着く前に、回れ右をして帰っている。
もっと正確に言えば、6階層から9階層まではでてくる魔獣も大差ないため、大抵の冒険者は、6階層で魔獣をかれるだけ狩って、そのまま帰っていく奴等が殆なんだって。
まぁ、5層のボス、キングセプターをかれるだけの腕があれば、ウルフ種程度はいいカモなんだろうけどね。
砂漠地帯に生息している生物相を見れば、圧倒的に肉類が不足しているのが分かる。
そんな地域なら、ウルフの肉程度でも極上の食材として扱われる。
であるならば、無理に探索しなくても、6層で持ち帰れるだけのウルフを狩る方が、遥かに効率よく稼げる。
とはいっても、6層ばかりに人が集まれば、狩りの効率は悪くなるから、自然と7階層、8階層といった具合に範囲は広がって行くんだけど、それは必要にかられてのことであり、必要がないのに上に行こうとする者たちはほぼ居ない。
結果として、上層に行く冒険者が激減するという現状になるんだよね。
だから10層にいるボスの情報は殆ど無いのよ。一応得られた情報をまとめると、ボスはどうやらカエルの魔物らしいんだけどねぇ。
まぁ、魔獣達に手応えがなく、少し欲求不満気味のミュウに取ってはちょうどいい相手だよね。
………………そう思っていた時が私にもありました。
「にゃわわわ〜!早くっ、早く助けてよっ!」
「わ~、ミュウお姉ちゃんっ!」
巨大なカエルに下半身を飲み込まれて、暴れているミュウ。
それを助けようと、必死に剣を振るうクミン。
ただ、焦っているせいか、巨大カエルの身体に刃が通る事はなく、表面でするっと流されてしまう。そのことが余計にクミンの焦りを生む。
「あー、もう少し待ってね。」
私はそんな二人の様子を見て、まだ大丈夫だろうと、声をかける。
幸か不幸か、カエルのは丸呑みをしようとしている。
しかし、ミュウの装備やら尻尾やらのお陰で、するりと呑み込めず引っかかっているから、今しばらくは大丈夫だろう。
それでも、ずるずると飲み込まれているから、あまり時間的な余裕はなさそうだけど。
「こっち片づけたら行くから、もう少し頑張れぇ~。」
私は目の前のカエルから視線を離さず、そう叫んでおく。
『ビックブラックトード』それがこの階層のボス。
体長7mぐらいの黒光りする巨大カエルだ。
攻撃方法は、素早く繰り出される舌による衝撃と巻き取り。そして打ち出される毒液のみ。
本体の動きは鈍いので、舌の動きにだけ気を付けていれば、それほど手こずるような相手ではない。
現に、ミュウは、その機動力にものを言わせて、ビックトードのダメージを蓄積させていった。
ミュウにとっては、階層のボスといえでも、雑魚とそれほど変わらないのである……1対1であれば。
ミュウが「余裕ね」と笑いながらとどめを刺そうとした時、視覚から突然襲ってきた舌に絡めとられ、飲み込まれてしまう。
ミュウも、とっさに反応し、丸呑みそのものを避けることは出来たけど、それでも下半身が飲み込まれた状態になってしまい、身動きが取れなくなって……今に至るのだった。
勿論、私たちもそれをぼーっと眺めていたわけじゃない。
だけど、ミュウを捕らえたブルートードと、傷ついたブラックトードを護るかのように立ち塞がるレッドトード。
奴は口から毒液だけでなく、ブレスもどきの炎吐くため、迂闊には動けない。
私が正面で引き付けている間に、マリアちゃんが、そっと背後に回ろうとしているから、ミュウにはもう少しだけ我慢してもらわないとね。
「私のミュウを、ヌメヌメに汚しておいて、楽に死ねると思わないでよねっ!」
私はブラストカノンを放つ。
レッドトードは、それを毒液を吐くことで相殺するが、それは想定のウチ。
続けてストーンバレットの乱れ撃ち。無数の石礫がレッドトードの身体に降り注ぐ。
あの、ヌメヌメとして弾力があり、見た目以上に分厚い皮膚の前では、一つ一つのダメージはゼロに等しいかもしれない。しかし絶え間なく無数の礫に晒されていたら、鬱陶しいことこの上ないだろう。
現に、レッドトードは、礫を一気に振り払うべく、口を大きく開けてブレスを吐く動作をする。
そして、それこそが私の狙い目だった。
「これで終わり……『アイシクル・ピラー』!」
大きく空いたレッドトードの口に地面から生えた巨大な氷の柱が突き刺さる。
柱はカエルを突き刺したまま、更に上へと伸びていき、5m程の高さまで伸びたところでその動きを停める。
天頂には、貫かれ息絶えた赤いカエルの姿が……。
「えっと、こういうの早贄っていうんだっけ?」
昔図鑑か何かで見た記憶を思い出しながら呟く。
「まいっか。それより……っと。」
私は赤いカエルから視線をそらし、マリアちゃんを探す。
丁度、巨大なハンマーで黒いカエルの頭を潰すところだった。
「…………。」
その光景に何も言えず、私は視線をそらす。
ハンマーの一撃で、頭を潰すなんてワザ、普通のシスターには出来ないよね……という言葉は、飲み込んでおく。世の中言ってはいけないこと、知らないほうがいい事等は沢山あるのだ。
「じゃぁ、ミュウを助けに行きますかぁ。」
私は、すでに身体の2/3がカエルの口の中に埋もれているミュウを助け出すために、青いカエルに向かうのだった。
エターナル撲滅運動第2段です。
最低限、第一部完までは更新します……出来るといいなぁ………。
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