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砂塵の塔~その3~

 ギギギギィィィッ……。

 軋んだ音を立てながら扉を開く。

 ここは第5層、通称『ボス部屋』と呼ばれるフロアなのよ。

 このフロアは少し変わっていて、階下から昇ってきた場所は狭い小部屋になっていて、すぐ目の前に扉があるの……それが今開いた扉ね。

 その扉の向こう側……つまり、私達が今足を踏み入れたこの広間にはボスがいて、そのボスを倒すと奥の扉が開くの。

 その扉の向こう側は、上へ続く階段と、入口に戻る転移陣がある小部屋になってるんだって。

 つまり、ボスがいるだけの部屋なんだけど……。


「ただっ広いわねぇ。」

「えっと、ここの中でボスさん捜すんですかぁ。」

「捜すだけで疲れそうですね。」

 三人ともげんなりとした表情になる。

 まぁ、ここから見て向う側が見えない位、広いからねぇ。まともに捜してたらどれだけ時間がかかる事か。

「捜す必要なんかないわよ。」

「えっ?」

 クーちゃんが驚いた顔でこっちを見る。

「だって、ここのボスはこのフロアを守ってるんだよ。それって何のため?」

「なんのって、……侵入者を排除?」

「まぁそうね、要は『上に行かせないため』にいるんだよね?」

「う……ん……そうなるのかな?」

「つまりね、向こうの出口に向かって歩いていけば、ボスの方から姿を現すってわけよ。」

 私の言葉に、ミュウが呆然としている。


「ん?ミュウどうしたの?」

「ミカゲ……お前本物か?それとも悪い物食ったのか?」

 ミュウが私の額に手を当てて熱を計ってくる。

「本物だよっ!それにミュウと同じの食べてるよっ!」

 ミュウが酷い………。

「ゴメン、何かあまりにもミカゲが役に立つから……。」

「ミュウ酷いよぉ。私の事なんだと思ってるの?」

「ポンコツ娘?」

…………。


「あー、ゴメンてっばっ!冗談だから、そんな所に座り込まないのっ。」

 ミュウが、座り込んでいじけている私の腕をとって立ち上がらせようとする。

「いいの、ほっといて。……イジイジ。」

「だから悪かったってば。」

「どうせ私はおバカですよぉ。ボスがきてるけど、ほっといていいのよ。」

「そういうわけにも……ってボスっ!?」

 私の言葉にミュウ達が振り向く。

 まだ遠いけど、向こうからこっちに向かってやってくる土煙が見える。

「何やってるのよっ!ボスが来てるから立ちなさいよっ!」

「どうせポンコツですからぁ………『引きこもりシールド』!」


 私はミュウを無視して、自分の周りに防壁を張り、地面の土を掘って砂の城を作り始める。

 別に城じゃなくても良かったんだけど、ただイジケてるだけだと暇だからね。

 ちなみに、私が張った防壁は、ゴーレム程度なら踏まれても壊れないぐらいの強度があるので、安心してイジケていられるのよ。


「あー、もぅ!クー後は任せたっ!」

 ミュウはそう言って、ボスに向かって駆けていく。

「任せたって……あー、ミュウお姉ちゃん……もう行っちゃったよ………どうすればいいのよぉ。」

「クーちゃんも一緒に作る?」

 私は途方に暮れているクーちゃんを、防壁の中に招き入れる。

「こんな事してる場合じゃないよぉ。」

 そう言いながらも、しっかりとお城づくりを手伝ってくれるクーちゃん。

 こういう素直な所が可愛いんだけど、余りにも素直過ぎて、将来悪い人に騙されないか、お姉ちゃんは心配なのですよ。


「えーと、ミカ姉、ボス戦……いいの?ミュウお姉ちゃん達苦戦してるよ?」

「いいのよ、どうせ私ポンコツだから役に立たないしぃー。」

 私はちらっと、ボスと戦うミュウとマリアちゃんの様子を見ながらそう言う。

 ボスはキラーセプター……要は大きいムカデなんだけど、その堅い甲殻に苦戦してるみたい。

 ミュウに新しく作ったキラーエッジなら、炎を纏わせれば容易く斬り裂けるはずなんだけどね。 

 マリアちゃんのパワーでも、迫る脚を弾き返すので精一杯みたい。


「多分ねぇ、魔法障壁張ってるんだろうねぇ。力任せじゃぁ厳しいかなぁ……まぁ、私はポンコツ娘だからぁ、お役に立てないけどぉ。」

「うぅー、いじけるミカ姉かっこ悪い。」

「ポンコツ娘だからかっこ悪いのですぅ。」

 私はクーちゃんに拗ねたように言ってみる。

「うぅ、めんどくさいよぉ……あ、そうだ!お姉ちゃんだったらどう戦うの?」

「ん-?そうねぇ。まずあの魔法障壁が邪魔だから、それを解除させるかなぁ。」

「どうやって?」

「魔法障壁はねぇ、ダメージを軽減する度に魔力を消費していくんだよ。だから攻撃を続けていればそのうちに魔力切れを起こすの。だからミュウやマリアちゃんがああやってひたすら攻撃を続けているのは無駄じゃないのよ。」

「…………じゃぁ、私とお姉ちゃんも手伝えばもっと効率がいいんだよね?」

「…………。」

「……私ぃ、お姉ちゃんのぉ、カッコいいところ見たいなぁ。」

 クーちゃんが上目使いで見てくる……うぅ、あざといよぉ。

「はぁ……クーちゃんなら、剣に魔力を出来るだけ籠めて、後はひたすら斬り付ければいいよ。私は……」

 私は収納から一振りの剣を取り出す。

 例のソウルシーカーだった。

「これ使いたくないけど、他の剣が無いのよねぇ。」

 この剣以外の予備の剣は、ミュウの装備を作るために潰したの。

 私は基本剣を使わないからいいかなぁって思ったんだけどね、1本ぐらい残しておけばよかったかなぁ。

「ふっふっふっ……クーちゃん、私の活躍見てなさいよぉ!」

「えっ、ちょ、ちょっと、ミカ姉っ……。」

 クーちゃんが何かを言っているけど、もう私の耳には届かない。

「ムカデ如きが、私のミュウに手を出すんじゃないわよっ!」

 私は一気に距離を詰め、ミュウに振り下ろしかけていたムカデの脚を、ソウルシーカーで一薙ぎに斬り裂く。

 込める魔力量がミュウとは比較にならないため、私が振るったソウルシーカーは、キラーセプターの魔力障壁を易々と打ち砕く。

「キャハッ!お前の血は何色よぉっ!」

 私はキラーセプターの胴に剣を突き刺すと、そのまま斬り裂きながら後方へと走り抜ける。

 あれだけ堅かった甲殻が、ソウルシーカーにかかると、まるで紙を切るように容易く斬り裂く。

 これは単純に、ソウルシーカーが吸収するマナの量が、キラーセプターの魔力量を超えているというだけで、もう2~3回斬り付ければ、遠からず魔力枯渇が起きる筈。

「脚が多ければ偉いってものじゃないのよぉ。」

 眼の前で蠢く脚を、斬り払う。

「キャハッ!キモい~!」

 私に攻撃しようと、鎌首のように持ち上げた首をそのまま斬り落とす。

「ホラホラぁっ!もうお終いなのぉ!虫けらのくせにぃ!」

 ザシュッ!ザシュッ!

 私はキラーセプターの上に飛び乗り、胴体に剣を何度も何度も突き刺す。


「えっと、ミカゲ?あのね、さっきのは謝るから、その……。」

「あらあら、ミカゲさんどうしちゃったのかしらね。」

「えっと、私も何が何だか……。」

 三人がヒャッハーしてる私を呆然と見ている。

 えっとね、コレは、私の意思じゃないのよ。

 全部剣のせいなのよぉ!

「ヒャッハァ~!もう終わりなのぉ。まだまだ満足できないよぉ!」

 私は思いっきりキラーセプターの心臓部にソウルシーカーを突き刺す。

 すると、剣を通して魔力と気力が流れ込んでくるのが分かる。

「満足させなさいよぉっ!……『サンダーブラストッ!』」

 剣を通して、キラーセプターの体内に魔力が流れ込む。

 体内で暴発した魔力が弾け、内部からキラーセプターが弾ける。

 更に余剰魔力をソウルシーカーが吸い込むので、周辺に大きな被害は出さない。

 ……コレならエクスプロージョンでもよかったかもしれない。

 そう考えたところで、ソウルシーカーも満足したのか、今まで私を覆っていた高揚感がすぅーっと引いていく。


「またやっちゃった……。」

 私はソウルシーカーをしまい込むと、がっくりとその場で蹲る。

 確かにね、この剣の効果はすごいと思うよ?

 特に魔力障壁を張ったキラーセプターに対して、魔力を吸い取るソウルシーカーは相性抜群だよ。

 でもね、でもね、だからと言って、ヒャッハーしちゃうのは違うと思うのよっ!


「えっと、お姉ちゃん、大丈夫?」

 気づかわし気に声を駆けてくるクーちゃん。

「えーと、ごめん。アンタがそんなに悩んでたなんて知らなくて……。」

 気まずそうに言うミュウ。

「ミカゲさん、ストレス発散もいいですが、何か悩み事があるなら相談に乗りますよ。」

 優しく諭すように言うマリアちゃん。

「違うのぉ!私のせいじゃないのよぉ~~~!」

 私の叫び声がボス部屋の中に響き渡った。


 ◇


「つまり、全ては剣のせいってわけ?大体いつの間にそんな剣を手に入れたのよ?」

 私が状況を説明すると、少し疑わし気な表情でミュウが聞いてくる。

「本人は魔王って言ってたけど。」

 私はソウルシーカーを見せながら、手に入れた時の状況を説明する。


「……アンタねぇ、知らない人から、そうホイホイと何でもかんでも貰うんじゃないわよ。」

「そんなこと言ったって……。」

 私の説明を聞いたミュウが頭を抱えるけど……私悪くないよね?

「まぁ、お陰で助かったわけだからこれ以上は何も言わないけど……その剣大丈夫なの?」

「ん~、ちょっと気分がハイになるだけだから、大丈夫だとは思うんだけどねぇ……一応他の人は触らない方がいいと思うよ。」

 私の言葉を聞いて、クーちゃんが伸ばしかけていた手をサッとひっこめる。

 多分、剣に掛けられているのは憑依系か魅了系の呪いなんだと思う。

 耐性の低い者が持つと、精神を乗っ取られて、剣が思うままに殺戮を繰り返すようになる……そんな呪いのかかった剣があるって聞いたことがあるから、コレも多分そうなんじゃないのかな?


「まぁまぁ、取りあえずそれくらいにしておいて、この後どうします?」

 マリアちゃんがそう聞いてくる。

 目の前に現れた扉をくぐれば、奥に小部屋があり、そこには1階層に戻る転移陣と、上へ上る階段がある筈。

「皆が疲れていないなら、上に上がろっか。」

「そうね、誰かさんのお陰で、あまり疲れてないからね。」

 ミュウがちらりと私を見るけど、私は気づかない振りをする。

「それはいいけど、アレはそのままでいいのかなぁ?」

 クーちゃんが、倒れている巨大なムカデを指さす。

「あのままでいいと思うよ。ボロボロだから素材も採れないし。」

「誰がボロボロにしたのよ。」

「ソウルシーカーだよ。」

 呆れたように言ってくるミュウに言い返す。

 私のせいじゃないよ、全部、あの剣が悪いのよ。


「まぁまぁ、そう言う事でしたら、先に進みましょうか。」

「そうね、今夜の食材を狩らないとね。……そろそろ新鮮なお肉が食べたいわ。」

 ミュウがそう言う。

 情報では、6階層から9階層ではデッドアウルや、ビッグベアなどの動物系のモンスターが多く出るらしい。

 全部が全部というわけでもないけど、何種かは食材として流通しているので、食べれるモンスターがいるのは間違いなく、今夜はミュウの希望通り、新鮮なお肉を食べる事が出来るだろう。

 そして、先の事を考えれば、狩れるだけ狩って、食材として備蓄したいと思う。

「ウン、私も頑張って狩るね。」

 クーちゃんも同じことを考えていたのか、頭の中はお肉で一杯になっているようだ。


「じゃぁ、行きましょうか。」

 私はそう言って、小部屋のドアを開けた。

 


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