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砂塵の塔~その2~

「ねぇ、ミカゲ、もう少し手加減してもらえると助かるんだけど?」

「そうだよぉ、ミカ姉ちょっと熱いよぉ。」

 周りが燃え盛る中、デスアントと斬り結んでいるミュウとクーちゃんから文句を言われた。

「そんなこと言ってもぉ……『ファイアーランス』!」

 クーちゃんの背後に迫るデスアントを、炎の槍で貫く。

 炎に貫かれたデスアントは、貫かれた部分を中心に燃え上がる。

「ミカ姉ありがと……うぅ、でも熱いぃ。」

「もぅ……しょうがないなぁ……私の後ろまで下がって……。」

 私はミュウとクーちゃんにそう告げて魔法の詠唱に入る。

「万物の根源たるマナよ、全てを凍った世界へと誘え……『凍結監獄(コキュートス)』!」

 杖の先から冷気がほとばしる。

 燃え盛る炎が鎮火し、そのまま周りの床から凍り始める。

 その場にいたデスアントも段々と動きを止め……その場の総てが凍り付く。


「ふぅ……これで少しは涼しくなったでしょ?」

 私はそう言いながら振り返ると……皆凍えて震えていた。

「み、ミカゲぇ……アンタは加減というものを覚えなさいよ……。」

「あ、あはは……。」


 ◇


「まさか砂漠の真ん中で防寒具が必要になるとは思わなかったわよ。」

「まぁまぁ、ミュウさん。ハイ、温まりますわよ。」

「ありがとう、マリア。」

 マリアちゃんが差し出したスープを受け取って、ゆっくりと口をつけるミュウ。

 前衛にいたミュウとクーちゃんは、私のコキュートスの影響を少しだけ受けて凍えちゃったので、現在は焚火を囲んで休憩中なの。

 ちなみにクーちゃんは、私の腕の中で温めている。

「だから言ったのにぃ……。」

「もっと大人しい魔法は無いの?」

「大群相手だと、広範囲魔法じゃないと効果が薄いのよ。で、氷系だとこんな感じになるのよ?」

 私は周りを見回しながらそう告げる。

「他の属性は?」

「似たようなモノよ?水系の広域魔法はもっと被害がひどくなるし、土系だと、地形が代わって、後の移動が大変になるし。そもそも、素材回収を目的にしていないんだったら虫系には火属性が最も効率がいいのよ。」

「それは分かるんだけどねぇ……ハァ、まぁいいわ。ミカゲも色々考えているみたいだし、そもそも魔法の事で私が口出す方が間違ってるわよね。」

「うんうん、ちゃんとミュウ達が危なくないように考えてるんだよ。」

「そう言えば、以前からミカゲさんは、ミュウさんやクミンさんの防具には必ず強力な魔法防御をかけていましたよね?やっぱり、ご自分の魔法でお二人を傷つけないようにお考えになられてるのですね。感激しました。」

 マリアちゃんが、キラキラした目で見てくる。

 それを聞いたミュウが、ばつの悪そうな顔で、「悪かったわよ」と頭を下げてくる。

「あ、あは、あはは……き、気にしないでね。」

 言えない……魔法防御上げておけば巻き込んでも大丈夫だろうって思っていたなんて事は……。

 ミュウやマリアちゃんと目を合わせない為に視線を彷徨わせていると、見上げているクーちゃんと視線が合う。

 何故かその視線が冷たいと感じたのは……気のせいだよね?


 ◇


「クー、そっち行ったよっ!」

「任せてっ!……てりゃぁぁぁぁっ!」

 ズシャッ!

 ミュウが仕留め損ねたキラーマンティスがクーちゃんを狙うが、その大きな鎌が振り下ろされる前に、クーちゃんの気合を込めた一薙ぎが、その鎌を斬り飛ばす。 

「とどめっ!」

 エストリーファを大きく振りかぶったクーちゃんは、キラーマンティスに向かってジャンプし、その脳天から真っ二つにするようにエストリーファを振り下ろす。


 ズシャァァァァッツ!

 身体を二つに裂かれたキラーマンティスは、その場で崩れ落ち、そのまま息絶える。

「クー、お疲れ。」

「ミュウお姉ちゃんも。」

 自分が受け持っていたキラーマンティスにきっちりと止めを刺したミュウが、クーちゃんのもとにやってきて頭を撫でる。

「しかし、腕を上げたね。キラーマンティス程度は余裕か。」

「ううん、まだまだだよ。ミュウお姉ちゃんより苦戦してるし。」

 クーちゃんは首を振り、ミュウが倒したキラーマンティスの死体の山を見ながら言う。

 実際、ミュウが倒したキラーマンティス8体に対して、クーちゃんは今倒したのを入れて2体。

 しかも、今のキラーマンティスは直前までミュウと戦っていた手負いに止めを刺しただけだから、クーちゃんが少しばかり落ち込むのも仕方がない。

「まだ、クーに負けていられないからね。これ位の差はあって当然でしょ。」

 ミュウは慰めるまでもなくそう言う。

 ミュウにしてみれば、クミンと比べて実戦経験がはるかに違うのだ。

 いくらクミンの持っている剣が桁違いの性能を持っているとはいえ、これ位の差をつけていないと先達としての立場が無いと思っていた。

 だからこそ、クミンの成長を喜ぶとともに、自分の力をつけるための努力を秘かに誓うのだった。


「二人とも休んでいてよ。ヒマ(・・)だったから、素材の回収してくるね。」

 私はそう二人に声をかけてキラーマンティスに向かう。

 

 ここは4階層、上の階に行く階段はもう見つけてあるけど、敢えてここで魔物狩りをしているの。

 理由は、ミュウの装備のため。

 流石に、間に合わせの双剣だと、やっぱり今一つなのよね。

 今はミュウの技で何とかなってるんだけど、正直、この階層で苦労してるようだと、5階層のボスに苦戦するかもしれないから、取りあえず今出来る限りの事をしようって事になったの。

 とはいっても、私の持っている設備じゃ大したことできないんだけどね。

 ただ、冒険者たちから集めた情報では、8階層がゴツゴツとした岩山で、出てくるモンスターから鉱石がドロップ出来る事もあるらしいから、上手く行けば、そこで炉を作ってそれなりの物が作れるかもしれないのよ。

 だから今回は、最低限ボス戦に耐えうる事が出来ればいいので、今の武器に強化するための素材を集めてるってわけ。


 そして、最後の素材になるのが、このキラーマンティスの鎌なのよね。

 私は、キラーマンティスの鎌を斬り落として、勇者袋に詰めていく。

 4つもあれば事足りるけど、予備はどれだけあってもいいし、折角だから他の素材も集めておいた方がいいよね?

 そう言えば、向うにいた時は、しんちゃんに「ミカ姉は何でもかんでもしまい込み過ぎて掃除が大変だ」って言われてたっけ。

 でも、今は使わなくても何かに使えるかと思うと捨てられないよね?

 向こうにも、この勇者の袋があれば、しんちゃんに怒られずに済んだのになぁ。

 そんな事を考えながら、最近向うでの事を殆ど思い出すことがない事に気づく。

 ……戻れそうもないし、仕方がないよね?

 それに今の私には大事な家族がいるからね。

 向こうにいた家族に少し申し訳なく思いながらも、今の家族の為に出来るだけの事をしようと考えながら、素材を回収していく。


「お帰り。全部集まったの?」

 私が戻るとミュウが声をかけてくる。

「ウン、これで全部。じゃぁ、ちゃっちゃと済ませちゃうから、ミュウの武器だしてね。」

 私はそう言いながら、集めた素材を並べていく。

 デスアントの蟻酸にビッククロウラーの甲羅、迷宮蝙蝠の血と牙にジャイアントワームの外皮と体液。

 それらに魔力を通しながら触媒へと変化させていく。

 そして出来た触媒を真ん中に置いて、左右にミュウの双剣とキラーマンティスの鎌を置き、魔法陣を描いていく。


(ねぇ、クー。ミカゲが何やってるか分かる?)

(ゴメン、ミュウお姉ちゃん。錬金術の一種なんだろうけど分からないの。多分、あの鎌と双剣を融合させると思うんだけど。)


 背後でミュウとクーちゃんが何か喋っているけど、今は集中を切らすわけにはいかないの。

 魔力を流しつつ魔法陣を完成させ、最後の仕上げをする。

 私の掌から魔力が魔法陣へと流れていくと、魔法陣から光が溢れ、素材を包み込んでいく。

 後は方向性を決めるだけ……キラーマンティスの素材を活用して、切れ味の強化と軽量化を……そして風の属性をさらにパワーアップさせて……火の属性もいける?……内部に魔力を溜め込み、更に魔力の通りをよくして……。

「……出来た。」

 私は出来上がった双剣をチェックする。

 強度、魔力伝導、付与効果……どれもOK。普段のミュウの双剣より、やや曲刀に近い形状になっているけど、ミュウならば使いこなせるはず。

「ミュウ、出来たよ。銘は『キラーエッジ』。キラーマンティスの鎌の特性受け継いでるから、少し曲刀っぽっくなってるけど、大丈夫?」

「ありがとう、少し振ってみる。」

 ミュウは私から双剣を受け年、構えると、眼の前に敵がいるかのように斬り付け、左右に動きながらその腕を振るっていく。

 私は離れたところに、的になるアイアンゴーレムを出す。

「ミュウ、その双剣には風と火の属性が付与してあるから『エア・スラッシュ』『ヒート・スラッシュ』のワードでそれぞれ刃に纏わせる事が出来るよ。後、風に関しては、以前のように飛ばすことも可能だからね。」

 アイアンゴーレム相手に斬り結んでいるミュウに声をかける。

 返事はなかったけど、ちゃんと聞こえていたみたいで『ヒート・スラッシュ』という声が聞こえてくる。

 更には『エア・スラッシュ』という声も聞こえて来たので、ミュウなりに色々試しているみたい。 

「あ、投げた。」

 ミュウとアイアンゴーレムの模擬戦?を眺めていると、ミュウがふいに双剣を投げつける。

 何があったんだろう?

 見ていると、投げられた双剣は、ゴーレムの脇を斬り裂きながら掠めて、そのまま弧を描くようにミュウの手元へ戻ってくる。

「ほへぇ……ミュウお姉ちゃん凄い……」

 同じように横で見ていたクーちゃんが変な声を上げるが、私も同じ気持ちだった。

「ブーメラン?あんな使い方も出来るんだ……って言うか、ミュウってブーメラン使えたんだ。」

 ブーメラン使えるなら、飛び道具も色々作ってあげてもいいかな。

 そんな事を考えていると、横でクーちゃんがエストリーファを抜いて振り回し始めた。

「えいっ!えいっ!」

 型も何もなく、ただ出鱈目に振り回すクーちゃん。

「クーちゃん、どうしたのいきなり?」

「うぅ……お姉ちゃん、私も魔法飛ばしたいの。どうやればいいの、教えてっ!」

 クーちゃんが『お姉ちゃん』と呼ぶときは甘えてくるときか、素が出ている時なんだけど、最近は計算づくで呼んでくるときもあるのよねぇ……可愛いからいいけど。

 ただ、今はどうなんだろう?意外と切羽詰まって素が出てるのかな?


「魔法飛ばすって、あんな風に?」

 私はミュウの方に視線を向ける。

 丁度エアスラッシュを、遠くからゴーレムに向けて放つところだった。

「ウン。私もやりたい。」

「やりたいって言ってもねぇ……。」

 私はクーちゃんとエストリーファを見ながら考える。

 剣に込めた魔力を放つのはそれほど難しい事じゃないんだけどね。


「クーちゃん、ちょっと剣に魔力流してみてくれる?」

「うん……こうかな?」

 クーちゃんがエストリーファに魔力を流し、その刀身に魔力を纏わせる。

「ウン、綺麗に魔力が流れてるね。じゃぁ、検索を目標に向けて、魔力を解放してみて。」

「えっと、こうかな……エイッ!」

 クーちゃんが気合と共に魔力を解放する……が、魔力は放たれず四散し、エストリーファの刀身に吸い込まれていく。

「ふーん、成程ねぇ。」

「ミカ姉、何が悪いか分かったの?」

「ウン、結論から言えば『無理』ね。」

「えぇ~~~~~~!」

「エストリーファが魔力を溜め込んで力を発揮する剣だからね、外に出すという事が出来ないのよ。どうしても魔法を飛ばしたいなら、エストリーファ以外の剣を使うしかないけど……。」

「それはやめた方がいいわよ。」

「ミュウ。」

「ミュウお姉ちゃん。」

 いつの間にか戻ってきていたミュウが会話に加わる。


「武器は自分の腕の延長だからね、長く使って馴染んだ物を手放すのは、バカのやる事よ。それに何よりエストリーファを手放すなんて出来ないでしょ。」

「エストリーファも拗ねてるね。」

 クーちゃんの手の中にあるエストリーファの輝きが薄れている。

「あぁ~~~、エストリーファ、ゴメンナサイ。あなたを手放すなんてこと絶対しないから、ネッ、ネッ、機嫌直してよぉ。」

 クーちゃんが慌ててエストリーファに頭を下げる。

 剣に向かって頭を下げる少女……傍から見たら異様な光景かも?


「まぁ、クーは飛び道具を使って戦術の幅を広げるより、今はまだ基本戦術に磨きをかける方が大事だよ。」

 ミュウはそう言ってクーちゃんの頭を撫でる。

「まぁ、クーちゃんの場合、もう少し余裕が出来れば、飛び道具は魔法そのものを使えばいいんだしね。」

 得私はそう言ってクーちゃんを宥めながら、クーちゃんの為の魔法発動体を作ろうと考えたのよ。


 ◇


「いよいよ最初のボス戦よ。準備はいい?」

 私は振り返って、皆の顔を見回す。

 眼の前には大きな扉。

 この扉を開けた先には、ボスがいる。

 まだ最初のボスだからそれ程強くないと思うけど、油断は出来ない。

「準備OKよ。ドアは任せるわ。」

「ウン、じゃぁ行くよ!」


 私はゆっくりとボス部屋の扉を開けた……。 


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