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砂漠の街タハール~中編~

「……ねぇ?」

「なぁに?」

「結局、何も解決してないよね?」

「……まぁそうね。」

「……。」

「……。」

 私とミュウはそれだけの会話の後、お互いに黙り込む。

「そ、それよりギルド行こうよ、冒険者ギルド。ほら、ギルドマスターのおじさんが来いって言ってたよ。」

 険悪なムードになりかけたのを察知して、クーちゃんがそんな事を言ってくる。

「そうね、まずはギルドに行きましょうか。」


カランカラーン

聞きなれたドアベルの音。

全国共通仕様というだけあって、遠く離れたこの砂漠の街でも、ギルドのドアベルは変わらないらしい。

「お、来たな。まぁ、奥へ来いや。」

 私達がドアをくぐると、一斉に周りの客の注目を浴びるが、待ち構えていたギルドマスターの一言で、その視線が訝し気なものへと変化する。

 まぁ、普通に考えて、ギルドマスター自らが出迎えて奥に案内する冒険者、しかも全員美少女?となれば、誰でも何があった?と疑問に思う事は予想に難くない。

 ま、それはそれとして、何かあれば、全部マスターに押し付ければいいよね?

 ギルドマスターの後をついていきながら私はそう思ったのよ。


「さて……お前達には先に謝っておく……申し訳なかった。」

 部屋に入るなり、マスターは私達に頭を下げる。

 そうじゃないかとは思っていたんだけど、やっぱり訳アリのようね。

 まぁ、それは置いといて……。

「あー、そう言うのいいから。それより私達の荷物の行方は?」

「ミカ姉、ちょっと感じ悪いよ。」

 私の態度を見かねたクーちゃんが、そう言って来るけど、私もそろそろ我慢の限界なのよ。

「だって、熱いし、臭いし、ウザいし……そもそも来たくて来たわけじゃないのよ。ササと砂塵の塔クリアして帰りたいのに、冤罪とか、横流しとか……いい加減うんざりよっ!荷物取り返したら、犯人はぶっ飛ばす!邪魔するなら、街毎消し去るのっ、これはもう決定なのっ!」

猛る私を、クーちゃんとマリアちゃんが、どうどうと宥める。


「あー、悪いけど、少しだけ時間貰える?ウチのリーダー宥めるから。」

 ミュウがギルドマスターにそう言うと、マスターは複雑な顔をしながらも頷き、更にミュウに問いかける。

「その……、なんだ。何か出来る事あるか?」

「うーん、なくはないけど……ミカゲの毒牙にかかってもいいって言う、幼気(いたいけ)な幼女はいる?」

 いないでしょ?とミュウが言う、と、マスターはさらに複雑な顔で、今度は私の方を見る。

 って言うか、ミュウは私をなんだと思ってるのよっ!

「まぁ、いるにはいるが……呼べばいいのか?」

「「いるのっ!!」」

 私とミュウの声が重なる。

「まぁ、接待をしなきゃならんお偉いさんの中には、そう言うのを望むヘンタ……紳士の方々もいるからな。」

 私とミュウの迫力に押されて、若干引き気味になりながらもそう言った。

「はぁ……紳士ねぇ。」

 蔑む様な眼になるミュウ。

「今、変態って言いかけたよね、このオッサン……って、私も同じって思われてるっ!?」

「「「何をいまさら」」」

 私の叫びに、ミュウ達三人が、声を揃えて言う。

「違うのよぉ!私はただ、可愛い子を愛でたいだけで、何もやましい事なんて……。」

「自称紳士って奴は、みんなそう言うんだ。」

 ギルドマスターが、ぼそりと呟くと、ミュウ達もウンウンと頷いている。

 違うの、違うのよぉ~~~~~~!!

 私の魂の叫びは、誰にも理解されずに、時間だけが過ぎていくのだった。


 ◇

 

「うぅ……。」

「ミカゲ、落ち着いた?」

「ウン、ごめん。私ちょっと情緒不安定化も。」

「ミカ姉、無理しないでね。」

「うん、ありがとね。クーちゃんのお陰で落ち着いたよ。」

 私は腕の中にいるクーちゃんをギュっと抱きしめる。

 結局、ギルドマスター推薦の幼女は断り、クーちゃんを抱きかかえて心の安定を図っていた。

 一応、念の為という事でマリアちゃんにカームエリアの結界も張ってもらった。

 暑さでイラついているだけだと考えていたんだけどね、ちょっと落ち着くと、自分の行動がちぐはぐな事に思い至るのよ。

 なんていうか、分かっていても感情が抑えきれないというか……ミュウは「いつもの事でしょ?」なんて言ってるけど、私はもっと思慮深くて分別がある……はず。


「まぁ、確かに、少しおかしいかもね。ミカゲの我儘は今に始まった事じゃないけど、キレた時以外は一応時と場所を選んでいたし。」

「そうですね、一度高位の精霊使いに見て貰った方がいいかも知れません。」

「「「精霊使い?」」」

 私達の声が揃う。

 何でここで精霊使いが出てくるの?

「ひょっとしたら精神の精霊が悪さをしているのかもしれません。突然情緒不安定になる方の殆どは、精神の精霊バランスが崩れている場合が多いのですよ。」

 マリアちゃんはそう説明をしてくれる。

 カームエリアで落ち着いたところから、何らかの精神作用を受けている可能性もなくはないけど……。


「取りあえず、その事は置いておきましょ。今のうちに出来る事進めておかないとね。」

「そうね、じゃぁ、ギルドマスターに声をかけて来るわ。」

 そう言ってミュウは部屋を出て行く。

 私はその間に瞑目し、魔力を辺りに流す。

 そうしているうちにミュウがギルドマスターを連れて戻って来たので、私は目を開けてギルドマスターを見る。

「ミカゲ殿も落ち着かれたようで何よりですな。では具体的な話をさせて頂いても?」

 そもそも、ここへはギルドマスターが内密の話が合って私達を呼び出したのだから、その話を進めるのは当たり前なんだけど……。

「その前に、私達の荷物について話があるわ。」

 私の言葉にギルドマスターがミュウを見る。

 その顔は「落ち着いたのでは?」と訊ねているようだったが、私はそれを無視して話を続ける。


「ここから南東方面に3km程いった所には何があるの?」

「南東ですか……使われて無い倉庫が並んでいるだけですが?」

「所有者は誰?」

「あそこは……確か、街の公共施設となっていたはずですが、それが何か?」

「街の公共施設ねぁ、そうすると管理してるのは街長か、副街長?」

 私はギルドマスターの疑問を無視して、話を続ける。

「副街長ですな。」

「ふぅ~~~ん……じゃぁ、犯人はあいつなのね。」

「ちょっと、ミカゲ、何の話よ?」

 黙って見ていたミュウが口を挟んでくる。

「私達の荷物がそこにあるって話よ。魔力を辿ってみたら、すぐわかったわ……ホント、何でこんなこと忘れてたんだろ。」

 勇者の袋には、私が所有者登録をした段階で、私以外の者が使えない様に魔力的なパスが繋がる。

 その魔力を辿れば、どこにあっても私にはその存在が分かる。

 ホント、何でこれまでその事を忘れていたのかなぁ。 

「先に荷物を取り返してくるわ。話はそれからね。」

 私達は、急いで倉庫街へと向かった。


 ◇


「うぅ……遅かった。」

 私の目の前には切り裂かれた三つの収納バックと勇者の袋が無造作に打ち捨てられていた。

 勇者の袋は、強力な占有保護強化の魔法がかかっている為、私の元から離れると、使用も破壊も付加になる。

 さらに言えば、強化魔法以上の魔力をもってすれば、破壊することは可能だが、その場合、中身を奪われるのを防ぐための自爆魔法が発動し、中身諸共、周囲を塵に返す仕様になっている。

 ただ、破壊するための魔力を持つ者はそれこそ魔王クラスじゃないと無理なので、実質的には破壊負荷アイテムと言っても差し支えないのだけれど。

 だから、諦めて放置したのだと思うんだけどね。


「ミュウ、クーちゃん、マリアちゃん、被害はどんな感じ?」

「私の方は、中に入れて置いた装備一式と、銀貨、非常食、全部持っていかれてるわ。」

 ミュウが悔しそうに言う。

「私の方は予備の武器と非常食ぐらいしか入れてませんでしたから、それ程大した被害ではありませんわ。」

 マリアちゃんは大したことないというけど、彼女が孤児院や難民たちにいつでも炊き出しや施しが出来るように、かなりの量の非常食を貯めていたことは知ってるのよ。

「ん?クーちゃん?どうしたの?大事なものを持ってかれた?」

 破壊されたバックを手に呆然としているクーちゃんに声をかける。

「あ、ううん、そうじゃなくて、その……。」

 何故か真っ赤になって俯くクーちゃん。

「どうしたの?大丈夫?」

「ううん、ただ持ってかれたのが、その……下着が……。」

 小さな声でそう呟くクーちゃん。

 なんでも、製作の練習がてら作った自分の下着をバックの中に入れていたらしい。

「……目標、中央行政局……『衝撃崩壊(ショック・インパクト)』!」

 ミュウ達が止める間もなく、私は長距離広域魔法を放つ。

 衝撃とともに、中央行政局の建物は崩れ落ち、周囲を巻き込んで瓦礫の山へとその姿を変える。

「成敗!」

 スパァーンッ!

 小気味よい音と同時に私の頭に衝撃が走る。

「成敗じゃないわよっ!アンタ何やってんのよっ!」

「だ、だってぇ、クーちゃんの下着……。」

「だってじゃないっ!やり過ぎでしょうがっ!」

「クーちゃんの下着を、クンカクンカしてるような変態には、あれでも生ぬるいわよっ!」

「それでもやり過ぎっ!」

 言い返す私に再度ハリセンが振り下ろされる。

 うぅ……世の中の変態さんが悪いんだよぉ。

「えっと、ミカ姉、大丈夫だから……その、全部未使用だから……。」

「うぅー、そう言う問題じゃないけど…………分かったよぉ。だからその眼ヤメテ、ね?」

 クーちゃんが上目遣いにジト目で見てくるのよ。

 ……これも全部犯人が悪い。見つけたら生き地獄を合わせるんだからね。


「取りあえずはギルドに戻ろう?話も途中だしね。」

 ミュウの諦めの混じった言葉を機に、私達はギルドへと戻る。

 持っていかれた物の被害もそうだけど、それ以上に収納バックを破壊されたのは地味に痛いのよね、作成し直すのにどれだけの時間とお金がかかるかなぁ。


 ◇


 ギルドに戻ると、中は騒然としていた。

「おい、どうなってるんだっ!」

「モンスターだっ!どこから入り込んだ?」

「いや、市民の反乱だっ!」

「そうじゃないっ!隣国の兵器だっ!スパイが入り込んでるぞっ!」

 ……えーっと、何がどうなっているのかな?


「おぉ、お前ら無事だったか?いま立て込んでてな……そうだ、お前達何か情報を持っていないか?急に中央行政局が崩れ落ちたんだ。原因が分からないが、外にいたお前達は、何か見ていないか?」

ギルドマスターにそう言われて、私達は目を逸らす。

「おい、お前ら……まさか……。」

 私達のその態度に、何かを察したギルドマスターがギロリと睨んでくる。

「さ、さぁ?天罰じゃないの?」

「詳しい話を聞いた方がよさそうだな。」

 その迫力に押された私達は、無言でその後に続くのだった。


「で、何があった?」

 ギロリと睨みつけてくるギルドマスター。

「その前に一つ聞きたいんだけど?」

「……何だ?」

「あなたは、この子くらいの女の子の下着に興味ある?」

「ブフッ!」

「み、ミカ姉、一体何をっ……」

 私の言葉に、飲みかけたお茶を吹き出すギルドマスターと、真っ赤になって慌てるクーちゃん。

「そ、そんなわけなかろうがっ。」

「じゃぁ、その下着を黙って持っていく人の事をどう思う?」

「それは……まぁ、変態だろ?」

「だよねぇ~。じゃぁ、あなたの娘さんの下着を盗む人がいたとして、その人の事をそのまま見逃がせる?」

「そんなわけなかろうがっ!とっ捕まえて厳罰に処してやる。」

 思い当たる節があるのか、即座に答えるマスター。

「だよねぇ~、だったら、仮にだけど、この子の下着を盗んだ犯人が、天罰にあってもおかしくないよね?」

「むっ、むぅ……。」

「仮に、の話です。」

「……そうだな、仮にの話だな。それはそれとして、お前達がこの街に来た目的を教えてもらおうか?」

 ギルドマスターはこれ以上は深入りしない方がいいと判断したのか、話題を変えてくる。


「私達は『砂塵の塔』を見に来たのよ。あそこに入るのにギルドの許可は必要?」

 ギルドマスターの問いかけに、ミュウが代表して答える。

「許可は必要だが……今は出せないな。」

 ギルドマスターは、苦しげな表情で、それだけを言い放った。


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