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罪と罰

「大変申し訳なかった。」

セルアン族の主な代表達が揃って頭を下げる。

「被害を被ったクミン殿には、我が方の宝物を差し上げる。また張本人のゼノンの身柄を引き渡す為、好きに断罪して欲しい。更には鉱山の出入りの自由とそこで得たモノの所有権を差し上げる。」


 リカルド達はとにかく謝ってきた。

 悪かったことを認めるが、謝罪以外どうすればいいか分からないから何かあれば言って欲しいと、出来るだけ意向に添うと。


「クーちゃん、どうする?」

「私は、その……謝罪してもらったので、後はミカ姉に任せるけど、あんまり酷いことしないで。」


 元々敵対する気があった訳じゃないんだし、クーちゃんが良ければそれでいいんだけどね。

「古代遺跡の所有権は貰うよ?」

 元々それが目的だったのだから、ここだけは譲れない。

 この条件を呑んでもらえるなら、手打ちにしようと思うのよ。

 古代遺跡を見つけた後、どう交渉するか悩んでいたからね。 


「後はこの人の処罰だけかぁ。」

 私の言葉にゼノンがビクッと身体をふるわす。

「クーちゃんどうする?」

「殺したりしないで。」

「大丈夫だよぉ、クーちゃんは優しいね……でもどうしようかなぁ。」

 ゼノンをみると、この先のことに怯えて身体が小刻みに震え、耳がピクピク動いている。

 これが女の子なら好きに触らせてもらうんだけどなぁ……。


「ねぇ、あなた独身?」

「そうだ。」

「じゃぁ彼女はいる?」

「いるが……まさかっ……。」

「ねぇ、誰かこの人の彼女さん連れてきて。」

「よせっ!彼女は……ミリィは関係ない!」

「関係無いかどうかは彼女に決めてもらうよ……こいつ五月蠅いから口をふさいで。」

 私の命令でゼノンに猿轡が噛まされる。


「クーちゃんの頼みだから、あなたは殺さないし、身体を傷つける様なことはしない。だけどね、心の傷ってどれだけ痛いか思い知ってもらうよ。」

 セルアン族との件は手打ちにしたけど、コイツを許す気は毛頭無い。

 何かを言いたそうにしていたミュウ達だったけど、私のその言葉で口をつぐむ。

 ただ、心配そうに私を見るクーちゃんに、目で大丈夫だよと伝えておく。

 酷いことをする気はないけど、反省は大いにしてもらうつもりなのよ。


 やがてゼノンの彼女……ミリィが連れてこられる。

 青みがかった長いアッシュブロンドの髪、均整のとれたプロポーション、丸みを帯びた、やや幼さの残る顔立ちからすると、私と同じぐらいの年かな?

 とっても可愛いよね、ゼノンは面食い?


「ゼノン、どうしたのっ!これはいったい……。」

 拘束されているゼノンに驚き、周りに各種族の族長が揃っているのを見て、ミリィはただ事じゃ無いことを感じ取る。

「あのね、ちょっと言いにくいんだけど、あなたの彼、ゼノンがとんでもないことをしでかしてね、さっきまでセルアン族絶滅の危機に陥っていたのよ。」

「ゼノン、あなた何やったの。」

 私がそこまで言うとミリィはゼノンに詰め寄るが、ゼノンは俯くだけで答えない。


「話続けていいかな?」

「あ、ごめんなさい。」

 私が声をかけると、ミリィは慌ててこちらに向き直る。

「それでね、セルアン族の危機は何とか去ったんだけど、当事者のゼノンの処分が決まってなくてね、本当なら処刑されてもおかしくないんだけど、心優しい被害者がそれはやめてと言うからね、代わりに彼女さんに罪を償ってもらおうと言うことになったのよ。」

 私の言葉にミリィが唖然とする。

 今彼女の中では、何で?とかどうして?という疑問が渦巻いていると思うけど、世の中は理不尽なモノなのよ。


「勿論、あなたはゼノンとはただ付き合っていただけの他人だから「関係ない」と言って拒否することも出来るけど、どうする?」

「……私が断ったら、彼はどうなるんですか?」

「どうにもならないよ?元々彼が償うべき事だからね。死ぬことはないけど、世の中には死んだ方がマシって事はいくらでもあるからね。」

「私が償えば、彼は助かるんですか?」

「勿論よ。身体に傷一つつけずに釈放することを保証するわ。」

「……分かりました。私が罰を受けます。」

 ミリィがそう言った途端、ゼノンが暴れ出すので、拘束の魔法を掛けて動きを阻害する。


「じゃぁ、あなたにはこれから1週間、私のモノになってもらうわね。何があっても拒否することは許されない……いい?」

「ハイ……。」

「じゃぁ……ギアス!」

 私の契約の魔法が彼女の心と身体を縛る……これで彼女は私に逆らえなくなった。 

 ゼノンが恨めしそうな目で見て来るけど、身動きも声も出せないので、ただ見ている事しかできない。

 これでちょっとは大事な人が傷つけられる痛みが分かったかな?


「じゃぁその人は解放してあげてね。今は魔法で動けないけど、あと10分もすれば自由に動けるようになるから。」

 私はそう言って、ミリィを連れてみんなと共に天幕を出る。

 ミュウは何か言いたそうにしているけど、取りあえずは黙っていてもらう……ここじゃぁ、まだ聞こえるかもしれないからね。


 そして、私達にあてがわれた家の中に入り、マリアちゃんにサイレスフィールドを張ってもらう。

 これで声が外に漏れることは無い。

 その事を確認すると、ミュウが怒鳴る。

「あんた何考えてるのよっ!」

「そうだよ、ミリィさんが可哀想だよっ!」

「ミカゲさん、奴隷が欲しいなら私に言ってくだされば……。」


「あーもぅ!さっきも言ったように、彼には自分の大事な人が傷付く痛みを知ってもらおうと思ったのっ。別にミリィに酷いことなんかしないよ。」

「ミカ姉、それホント?」

「本当だよ。私が今まで嘘ついた事ある?」

「……一杯ある。」

 私はクーちゃんの答に思わず顔を背けた。


「私はミカゲさんの事信じていましたよ。」

「マリアちゃーん、分かってくれる?」

「えぇ、もちろんです。それでミカゲさん、最初の調教は鞭ですか?縄ですか?」

 マリアちゃんの言葉にミリィが身体を強ばらせる。

「わかってないよぉ。」

 私はマリアちゃんが取り出した道具を片付けさせる。

 しかし、あれだけの道具を隠し持ってるマリアちゃんって……。

 教会はどんな教育してるんだろうね。


「はぁ、建て前は分かったけど、本音は?」

 ミュウが疲れた声を出す。

 私が言ってたことが建前だって、ミュウにはバレてる……流石はミュウだね。


「えっと……、ケモミミを思う存分モフりたかったの。」

「…………それだけ?」

「それだけだよ?」

 ミュウが無言で剣を抜く。

「わわっ!ダメだよミュウお姉ちゃん。ミカ姉が怪我するよ。」

「大丈夫、峰打ちにするから。」

 そう言って刃をかえすけど……ミュウの持ってる剣って両刃だからね?峰なんてないからね?


「じゃ、じゃぁ代わりにミュウの耳モフらせてくれる?」

 私がそう言うと、ミュウは剣をしまって無言でミリィに近付く。

 そして優しく肩に手を置くと、一言だけ囁く。

「1週間の我慢よ。」

「えっ、あ、はい……。」

「つまりミュウさんは代わりになる気は無いと、そう言うわけですね。」

 マリアちゃんの言葉に、ミュウが顔を背ける。

 たまにはモフらせてくれてもいいのに。


「とにかく、そう言う訳だから、1週間私の言うことを聞いてね。」

 私がそう言うと、ミリィは身体を強ばらせながらも「はい」と頷く。

「じゃぁ、先ずは脱いで貰おうかな?」

「えっ?」

「服を脱いでって言ったの。それとも脱がされる方が好みかな?」

 私は青ざめた顔で、恐る恐るといった感じで服を脱ぐミリィを、ニコニコしながら眺めるのだった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「はい、あーん。」

「あーん……。」

 パクっ……モグモグ……。

「美味しぃ……です。」


 私は数いるセルアンスロープの中でも、誇り高いスターファングのミリィ。

 誇り高い一族……の筈ですが、今の私はミカゲさんという人族に飼われています。

 いえ、飼われているというのはミカゲさんに失礼ですね。

 これは罰です……私の彼、ゼノンが犯した罪に対する償いなのです。



 最初「ミカゲさんの言う事に絶対服従」という契約魔法を掛けると言われた時は、私の人生が終わったと、目の前が真っ暗になりました。

 いくらゼノンの為とはいえ、私がここまでする必要があるのか?という考えも頭の中をよぎりました。

 そして、1週間過ぎた時、身も心も汚された私を、ゼノンが受け入れてくれるかどうかが心配でした……いえ、きっと受け入れてはもらえないでしょう。

 でも、私一人の犠牲でゼノンが助かるのなら、と考えを改めます。


 ゼノンは優秀な人です。

 将来の幹部候補で、私達セルアン族を引っ張ってくれる人ですから、こんなところで躓いてはいけないのです。

 そんな彼の将来を守る礎となれるのであれば、私は、私の選択を誇りに思えます。


 今回の事で、私と彼の関係は終局を迎えるでしょうが、私はゼノンを好きになった事を後悔はしません。


「さよなら、ゼノン……愛していました。」

 私はそう呟きながらミカゲさんの契約魔法を受け入れます。

 ……これで、私はミカゲさんの奴隷。

 でも、身体は許しても心までは絶対折れない……だって、私も誇りあるスターファングなのだから……。



「あ、ミリィこれ好きだよね?」

「ハイ、大好きです。」

「じゃぁあげるね、アーン。」

「あーん……美味しいです。」


 犯した罪の大きさからすれば、どのような扱いを受けてもおかしくありませんが、現実には、こうして美味しいものを食べさせてもらっています。

 可愛い服も沢山着せてもらっています。

 最初の命令で「服を脱げ」と言われたときは、かなりの覚悟が必要でした。

 ゼノンにも身体を許していなかったのに、よりによって最初の相手が人族……しかも女の子なんて……。

 しかし、命令には絶対服従です。

 こんな事なら、ゼノンに身体を許して初体験を済ませておけば良かったと思いますが、今更です。

 私は出来るだけゆっくりと服を脱ぎます。

 しかるべき時が、出来るだけ後になるように……と。


 結局、全ては私の勘違いで、服を脱ぐのも、新しい洋服に着替える為でした。

 私は恥ずかしさで顔が真っ赤になりました。

 ミカゲさんに犯されると思った私は、何て失礼だったのでしょう。

 

 ミカゲさんは、そんな私を許してくれます。

 ただ、耳や尻尾を触らせてくれればいい、と。


 あれから、事ある毎に耳や尻尾を触れられていますが、ミカゲさんは優しく触ってくださいます。

 イヤな感じどころか、気を抜けばこのまま身を委ねてしまいそうになります。


 でも、私は誇り高き、スターファングに名を連ねる者、自らを律し、流されないように心を強く持たなければなりません。

 この生活も、後4日の辛抱なのです。



「ブラッシングしてあげるからこっちにおいで。」

「ハイ、お願いします。」

 ミカゲさんは、事ある毎に私の髪を漉いてくれます。

 その手付きが何とも優しく心地よくて、私もこの時間が大好きなのです。

 はぁ……あと4日なんですね……。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「しっかり手懐けたわね。」

「ミリィさん気持ちよさそうですね。」

「うぅ……なんか複雑な気分だよぉ。」

 私の膝の上に身を委ね、気持ちよさそうに眠ってしまったミリィを見て、ミュウ達が口々に言う。


「いいじゃいの。ミリィは気持ちよくて幸せ。私もモフモフできて幸せ。セルアン族は危機を回避できて幸せ、ゼノンだっけ?アイツも罰則がなくなって幸せ。いいことづくめでしょ?」

「まぁ……ゼノンが幸せかどうかは置いといて、概ね間違っていないのが腹が立つよ。」

「えっと、ミュウお姉ちゃん、ゼノンさんに何かあったの?」

 クーちゃんが心配そうに聞いている。

 自分を傷つけた奴にまで気を配るなんて、クーちゃんは本当に優しい子だね。

「いえ、特に何かあるわけじゃないですよ。ただ、毎晩のように飲んだくれているというだけで……一応、仕事は真面目にやっているみたいですので問題は無いですよ。」

 マリアちゃんがクーちゃんにそう説明する。

 

「はぁ、恋人が罰を受けているのに、飲み歩いているなんて最低の男だね。」

 私がそう言うと、ミュウが溜息を吐く。

「だからでしょ。自分の不甲斐なさを飲んで忘れたいのよ。少しは自分のしてることを自覚しなさい。」

「別に男がどうなろうと知らないよ。」

「だからって言ってもねぇ、このままじゃ、ミリィを解放した後、確実に喧嘩になるわよ?」

「ふーん、そんな度量の小さい男なら、早めに別れた方がミリィの為だよ。ミリィが捨てられたら、私が責任もって拾ってあげればいいよね?」

「そう言う問題じゃない……はぁ、まぁ私等には関係ないか。」

 ミュウが脱力してテーブルに突っ伏す。


「それよりさぁ、いい加減、返事しなよ。昨日もリカルドが来てたよ、ミカゲがまだ怒ってるんじゃないかって。」

「そうなの?単にミリィを愛でる時間が減るのが嫌だなぁって思って後回しにしてただけなんだけどね。」

「まぁまぁ、ミカゲさんの気持ちもわかりますが、確かに、そろそろ返事をした方がいいかも知れませんわね。」

「めんどいなぁ……じゃぁ、明日の夜でいいでしょ?そう返事しておいて。」

「ミカ姉、服はどうするの?晩餐会なんだよね?ドレスとか持ってきてる?」

 クーちゃんがそんな心配をしているけど、先日領主の晩餐会で着たドレスがちゃんとしまってあるんだよ。


「じゃぁーん!好きなの選んでね。」

 私はドレスを数着引っ張り出す。

 領主……というかメルシィさんからもらったものだ。

 着る服が無い、というのを理由にお茶会や晩餐会を断っていたら送られてきたのよ。

 メルシィさんは、どうしても私達にお茶会や晩餐会に出席して欲しかったみたい。

 エルザードに戻ったら、1回ぐらいは出席してあげようかな?


 そんな事を考えながら、私はドレスを選ぶクーちゃん達を眺める。

 ミリィが起きたら、ミリィの分のドレスを選ばないとね。 

 今夜はファッションショーになりそうだと、今から楽しみにしているのだった。


※ ミカゲ暴走中。鬼畜です。

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