魔族の事情?
「まさかここまで場が混乱するとは想定外でした。」
メルシィさんがそう言いながら頭を下げる。
「ミカゲが関わって無事に済むと思う方が間違いなんだよ。」
ミュウが同情した目でメルシィさんを見ながらそんな事を言う。
「ミュウ、酷いよぉ。」
私が抗議するけど、ミュウは知らんぷりだ。
「酷いよね?」
クーちゃんとマリアちゃんに視線を向けたら、二人は慌てて視線を逸らす。
三人とも酷いよぉ。
「お父様が、後日改めて晩餐に招待したいと言っていますので、ぜひお受けしていただけますか?」
メルシィさんはクスクスと笑いながらそう言った。
「堅苦しいのはイヤだよ。」
私がそう言うと、メルシィさんは笑いながら「当日はクミンさんの為に可愛らしいドレスをご用意しますわ。」と言った。
「うん、OK!楽しみにしてるね。」
「ちょっと、ミカ姉!」
クーちゃんがポカポカ叩いてくる姿を見ながらミュウはメルシィさんに告げる。
「こちらでも何か気づいたらすぐ連絡するから。」
「そうですね、私共の方でも諜報活動を強化いたしますわ。」
「私も教会に色々聞いてみます。」
じゃれ合う私達をよそにして3人でこれからの事について話をしている。
「では、これからも今まで通りお付き合いお願いしますね。」
メルシィさんの笑顔に見送られながら私達は、領主の館を後にした。
◇
あの後、このまま帰るのもなんだしとの事で、食事をしていこうという話になり、今は食事が出てくるのを待ちながら領主との謁見について口々に思った事を話していた。
「良かったねぇ、孤児院がつぶれなくて。」
クーちゃんが嬉しそうに言う。
「ウン、定期的に作業の指南役も派遣してくれることになったしね。」
孤児院への支援も、単なる金銭援助ではなく、農地や技術援助など、将来的に孤児院が自立できる方へ働きかけてくれるみたいなので一安心なのよ。
「それに、薬草類はギルドが適正価格で買い取ってくれるって言ってましたしね。」
「そうだね……ってミカ姉ヘンな顔してどうしたの?」
「うーん、マリアちゃんの言う通りギルドが買い取ってくれるのはいいんだけど……孤児たちに作らせて安く買いたたく私の計画がぁ!」
「アンタは鬼かっ!」
「ミカ姉そんなこと考えていたのっ!」
「あらあら、そんな鬼畜なミカゲさんも素敵ですわ。」
うぅ……冗談なのにぃ……。
そんなバカげた会話をしているうちに食事が運ばれてくる。
食事をしながらも他愛の無い会話に花を咲かせたり、漏れ聞こえてくる周りの噂話に耳を傾けたり、久し振りに、のんびりとした穏やかな時間を楽しんだのだった。
「おっと失礼。」
食後のデザートを楽しんでいると、そばを通りかかった男性が、急に体のバランスを崩す。
その男性はテーブルに手をつくことによって、何とか体勢を立て直し、軽く謝罪をして去っていった。
「クーちゃん、大丈夫?ぶつからなかった?」
「うん、大丈夫、でもこれ……。」
クーちゃんが指さす方を見ると、男性が手をついたころに1枚の紙きれが残されていた。
私は慌てて男性が去った方を見るが、男性の姿は既になかった。
「何か書いてある。」
ミュウは紙片を広げると、書いてある内容を読み上げる。
『1刻後、北の森まで来られたし……アレックス』
「アレックスって……あの……シランの村のアイツだよね。」
ミュウの声が微かに震えている。
「あらあら、魔族からの呼び出しですかぁ。」
こんな時でも、マリアちゃんはのんびりマイペースだ。
「ミカ姉……どうするの?」
クーちゃんが不安そうな顔で聞いてくる。
「うーん、無視してもいいんだけどねぇ。」
余計な面倒事に巻き込まれない為にも、ここは見なかったことにするのがいいと思うんだけど、私の中の何かが、行った方がいいと告げている。
「折角の招待状だからね、行って来るよ。」
私がそう言うと、ミュウは「言うと思った」と言って立ち上がる。
「まぁ、ミカ姉だからね。」
続いてクーちゃんもマリアちゃんも立ち上がる。
って、あれ?皆、何で……?
「何してるの?行くなら準備しないといけないでしょうが。急がないと置いていくよ。」
「……ってちょっと待って、行くって……。」
「ミカ姉、ボケたの?」
「ボケって回復魔法で治るのかしら?」
「イヤイヤ、そうじゃなくて、準備って、皆も行くつもりなの?」
私が言うと、ミュウ達は「何言ってんの?」って顔で私を見てくる。
「一緒に行くに決まってるでしょ?何馬鹿なこと言ってるの?」
「いや、だって、相手は魔族だよ?危険だよ?」
「だから一緒に行くんだよ、ミカ姉。」
「そうですわね。危険な所に一人で行かせれないですわ。」
「ほら、早くしないと置いていくよ。」
「置いていくって、招待受けたの私なんですけどぉ。」
「そんな事どこにも書いてないよ?」
「ハッ、そうだった……待って、行く、行くから置いて行かないでっ!」
私は慌てて先に行くミュウ達の後を追いかけた。
実際、準備と言っても特に何かするというものはないんだけどね。
装備も万が一を考えて戦闘できるスタイルで領主の所に行ったわけだしね。
「耐状態異常薬は買っておいた方がいいですわね。」
「うーん、アミュレットもあった方がいいかも。」
マリアちゃんとクーちゃんの勧めに従い、魔法雑貨屋で耐状態異常薬と耐魔アミュレットを人数分購入する。
前回、アレックスの威圧を受けて私以外の皆が動く事が出来なかった事への対処として用意した。
後はマリアちゃんの神聖魔法『カーム・エリア』をかけていれば何とかなる……はず。
「何とかなるよね?」
私は思わずミュウに確認する。
「今更何言ってるのよ。あんなのは気合よ、気合!」
流石、気合だけで戒めを解いた娘は言う事が違うね。
「後は出たとこ勝負でしょ、大体何を考えて呼び出したのかもわからないんだから、今から考えても無駄よ。」
「だからと言って何も考えないっていうのも……。」
「ミカ姉、無駄だよ、それにもう直ぐ指定の場所だよ。」
クーちゃんの言葉に、私達はぐっと気を引き締める。
「ウン、皆、気を付けてね、この先にいるわ。」
私の気配感知にいきなり反応がでる。
さっきまで気配を消していたって事ね、魔族って簡単に気配を消せるから嫌いよ。
「おやおや、そんなに嫌わないでください。私は貴方みたいな人は好ましいと思っているんですけどね。」
「私の心を読むなぁっ!」
突然姿を現したアレックスがそう答えてくる。
「ミカゲの表情が分かり過ぎなのよ。……それで、私たちを呼び出した訳を教えてくれるんでしょうね。」
私の叫びを無視してミュウが話を進める。
「ミュウと言いましたか?アレイ族の娘よ。呼び出したのは単にお礼を言っておこうと思いましてね。」
「御礼?」
「えぇ、そうですよ。私が昔放置しておいた玩具を片付けてくれたあなた方に、感謝をね。」
「玩具って……あの人の事?」
クーちゃんが口を押える。
人をいとも容易く玩具と言ってしまう魔族の精神構造は、クーちゃんみたいな純粋な子供には耐え難い物なんだと思う。
私はクーちゃんを背に庇う様にして、アレックスと向かい合う。
「感謝しているなら、言葉じゃなく態度で示して欲しいんだけど。」
「勿論ですとも。ちなみにどのような事をお望みですかね?」
「魔族の企みをすべて白状した上で二度と私達の前に現れないで。」
私の言葉に、アレックスがウッと言葉に詰まる。
「魔王様も赤面して逃げ出すほどの強欲さですね……自分で無茶言ってる自覚ってありますか?」
「ミカゲにそんな事期待しても無駄よ。」
ミュウが呆れたように言う。
「酷いよぉ、ミュウ。それに私そんな無茶な事言ってないよ?」
「ほらね、自覚なしでしょ?」
「ウム、たかが人間と侮っていた。まさかこの私が呆然とさせられるとは。」
「だよねぇ……。」
「よくあんなのと一緒に居られるな、大変だろ?精神的に。」
「あ、分かる?そう、いつもフォローに回って大変で……。」
何故かアレックスとミュウが意気投合している。
「むぅー。」
私が頬を膨らませていると、クーちゃんが困った表情をしながらも私の頭を撫でてくれる。
「まぁまぁ、それで結局どうするんですか?」
マリアちゃんが、まだ、あーだこーだと私について話しているミュウとアレックスに問いかける。
「ゴホン、あぁスマン。つい取り乱してしまった。」
さっきまでの和やかな雰囲気をなかったことにしたいのか、急に威圧を強めるアレックス。
「その度胸に免じて少し話をしてやろう。その前にミカゲよ、我等のもとに来ぬか?何なら仲間諸共受け入れてやるぞ。」
「はぁ?寝惚けてるの?湧いてんの?」
「む、案外口が悪いんだな。少し傷ついたぞ。」
「アンタ魔族のくせにメンタル弱くない?」
傷ついたというアレックスにさらに追い打ちをかけるミュウ。
「うむ、まぁいい……我も伊達や酔狂で言ってるわけではないのだ。少し昔話をしてやろう。」
そう言ってアレックスが語り出す。
「昔、偉大な魔王様が存在した。その魔王様は実は元人間だったのだ。」
あー、昔語り始めちゃったよぉ……でも人間が魔王?
アレックスの昔語りによると、その魔王は元々は人族代表の勇者だったんだって。
突出した力を持つ勇者に、当時の人々は恐れを抱いてかなり迫害をしていたらしいのね。
だけど、そこは人類の希望の勇者様、嫌な目にあっても希望を捨てず、人類の為にと、魔王軍と戦い続けたんだって。
魔王を倒せば、平和が戻れば、みんなが喜んでくれる、ただそれだけを信じて戦い続けた勇者はついに魔王を倒したんだけど、凱旋した勇者を待っていたのは権力者たちの醜い思惑。
何かと要望を押し付けてくる人々、王女をエサにして思い通りに動かそうとする国王やその側近、愛してると言いながら、その裏では不実を働く王女……人々の醜さを見せつけられた勇者はついに人族に絶望したのね。
その時、不意に聞こえる謎の声……それは勇者の持つ剣から聞こえたの。
魔王に止めを刺した剣から、魔王の声が。
それは勇者の思い過ごしだったのかもしれないし、魔王の残留思念だったのかもしれないけど、勇者はその声に従ってしまったの……今の人類は護る価値が無いと、世界を本当の意味で救いたいのならば力を受け入れよ、という言葉に。
その後勇者は姿を消し、しばらくの後に新しい魔王が誕生した。
後日、その魔王を見て運良く生き延びた冒険者が語ったの……魔王が持つ剣は勇者の剣だったと。
「今は、詳しくは言えぬが魔王様には偉大なる役目がある。その勇者は魔王様の真の目的を知り、魔王として転生することによって世界を救おうとしたのだ。」
「世界を救う役目って何?」
「言えんと言っただろうが。どうしても知りたければ、我らの領域に赴き魔王様から直々に聞くのだな。」
「やだよ、めんどくさい。」
私がそう言うと、アレックスは少し傷ついたような表情を見せた。
「まぁ、いい。どちらにしても我らはやらねば成らぬ事があるので、しばらくは人族に関わっている暇はない。今度会う時までに考えておくのだな。」
そう言ってアレックスは来た時と同じように姿を消す。
気配も完全に消えているので、どこに行ったか分からない。
「えーと、結局何だったのかなぁ?」
アレックスが消え去った方を見ながら私は呟く。
「さぁね、ミカゲをナンパしにきたんじゃないの?」
「ミカ姉、知らない人について行っちゃダメだよ!」
「行かないよっ」
ミュウの言葉に、焦りながらそんな注意をしてくるクーちゃんだけど、私ってそんなに信用ないの?
「それはそうとして、最後の言葉からすると暫くは姿を見せないってことでいいのかしら?」
マリアちゃんが首を傾げながらそう言う。
相変わらずマイペースだなぁと思いつつ、気になることをミュウに訊ねてみる。
「暫くってどれくらいなんだろうね?」
「私が知るわけないでしょ。」
それもそうか。
長命種の時間感覚は、私達人族と大きな隔たりがある。
以前聞いたところによると、不死と言っていいぐらいの長命を誇るエルフ達の『ちょっと』は年単位だとか。
だから、魔族の言う「暫く」も数年単位なのかもしれない。
「えっと、よくわからないけど、数年は魔族が現れる心配をしなくていいって事、なのかな?」
「まぁ、そう言うことでいいんじゃない。」
クーちゃんの言葉ミュウが答える。
「じゃぁ取り合えずば解決?」
「かな?」
ホッとした様に言うクーちゃんに私は頷く。
「そっかぁ。」
「クーちゃんっ!」
その場にヘナヘナと座り込むクーちゃんを見て私は慌てて叫ぶ。
「アハハ……安心したら気が抜けちゃった。」
「もぅ、びっくりさせないで。……立てそう?」
「無理……お姉ちゃん、おんぶして?」
そう甘えてくるクーちゃん。
何、この可愛い生き物……
私が断る理由は一つもなく、クーちゃんをおぶって帰路に就くのだった。




