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孤児院を救おう~前編~

「ただいまー……ひゃぅっ!」

 帰ってきたミュウの背後から忍び寄り、尻尾の付け根をツツーっと逆撫ですると、ミュウはとっても可愛い悲鳴を上げる。

「ウン、満足、満足。」

「満足じゃないっ!」

「痛いよぉ……。」

 私は叩かれた頭を抱えてミュウを見上げる……ちょっとしたお茶目なんだからそんなに怒らなくてもいいと思うんだ。


「人が夜通し働いて帰ってきたら……もぅ。」

「疲れてるだろうから、ちょっとしたスキンシップで癒そうと……。」

「余計疲れるよっ……もぅ、いいわよ。」

 はぁ、と大きく息を吐きながらリビングのソファーに腰かけるミュウ。

 私はミュウの前にハーブティーとクッキーを差し出す。

 ハーブティーは特別にブレンドしたとっておきだから、きっとミュウを癒してくれると思うの。


「あ、これ新しい味だね、美味しい。」

「ウン、新しくブレンドしてみた。気に入ってもらえてよかったよ。」

「こっちのクッキーも美味しぃ……ミカゲはこういうのを任せたら天才だよね。」

「ほんと?もっと褒めて褒めて。」

「あぁ、凄い凄い。」

「お嫁に行けるかなぁ?」

「行ける行ける。」

「じゃぁ、ミュウがお嫁に貰ってくれる?」

「うん、いい……訳ないでしょ!」

「ちぇ~、じゃぁいいよ、私がミュウを嫁に貰うから。」

「そういう問題じゃないでしょうがっ!」

 まだ夜が明ける前、私とミュウの他愛のない話と笑い声、時々ミュウの叫び声が、森の中に響いていたのでした。



「それで、何か分かったの?」

 私はハーブティーのお代わりを入れながらミュウに訊ねる。

「うん、直接関わっているのはやっぱりゲーマルク子爵で間違いないと思う。」

「そうなんだ、で領主様の方は?」

「それなんだけどね、ちょっと色々難しくて……。」

 そう言いながらミュウはメルシィさんと話しあった内容を聞かせてくれた。


「じゃぁ、ギルド職員の中に裏切り者がいるって事じゃない。」

「まぁ、そういう事だよ。だから、今度はメルシィさん自身で調べるって言ってたから2~3日動かないでって言われてる。」

「メルシィさん自身でって、どうやって?」

「そこまではウェアからないけど、何か隠してるぽかったから、伝手はあるんじゃないかな?」

「う~ん、面倒だからそのゲーマルク子爵を潰しちゃわない?」

「だから、そう短絡的にならないの。取りあえず不正の証拠を掴んでからじゃないと。」

「だったら、その証拠集めは私にお任せください。」

 突然背後から声がかかる。

「マリアちゃん、早いんだね。」

「いえ、私はいつもこれくらいに起きてますから。それよりお二人だけで早朝のお茶会なんてズルいですわ。」

「アハッ、ゴメンねぇ。今、マリアちゃんにも入れてあげるから許してね。」

 そう言って、私は新しくお茶を入れるために席を立つ。


「任せてって、何か伝手でもあるの?」

「えぇ、実は以前から孤児院についての噂を耳にしていましたので幾つか調べていたこともあるんです。」

 私がお茶を入れている間に、ミュウとマリアちゃんが話しを進めている。

 お茶を入れてアリアちゃんとミュウの前に置いてから私は二人に告げる。

「二人はそのまま話を詰めていてね、私はクーちゃんを見て来るから。」

「そうですわね、このまま放置されたのを知ったらクミンさんも拗ねてしまいますからお願いします。」

「そっちは頼むよ。私はこの話がまとまったら一眠りしたい。」

「あら、朝ご飯ぐらいはご一緒してくださいな。」

 私は二人の声を背に、クーちゃんの寝室へ向かった。


「ゴメンねぇ、クーちゃんはいるよぉ~。」

 私はそっとドアを開け、物音を建てないようにクーちゃんの部屋に忍び込む。

 ベッドではクーちゃんが大きな抱き枕を抱いてスヤスヤと寝入っている。

「う~ん、起こすのも可哀想だからこのまま寝かせてあげたいけど、今の事後で知ったら「何故起こしてくれないのっ」って絶対言うんだよねぇ。」

 私はクーちゃんに顔を近づける……可愛い寝顔だねぇ。

「う~ん……お姉ちゃん、取っちゃいやぁ……。」

 ビクッ!

 私の背筋に電流が走ったような気がした……可愛すぎる!

「ダメだってばぁ……もぅ……あんっ、それダメェ……。」

 私の方がダメだよぉ……もぅ、クーちゃん可愛すぎ!



「ん?クーは?……って、ミカゲ、顔真っ赤だけど大丈夫?」

「うん、大丈夫、クーちゃんが可愛すぎただけだから……目覚ましかけたからもう起きて来るよ。」

「そう……?ならいいけど……顔冷やしてきたら?」

「うん、そうする……。」

 私はのぼせ上った頭を冷やす為に敢えて外にある水がめの所に行く。

 うぅ~、あのままあそこに居たらクーちゃんを襲っちゃうところだったよぉ。


(おはよぉ……何でこんなに早いの?)

(早くに悪いね、取りあえず顔洗って来たらどう?その後で説明するから。)

(うん、そうする……何か知らないけど顔中べたべたして気持ち悪いの……。)


 部屋の中からそんな会話が聞こえた。

 どうやらクーちゃんが起きて来たらしい……ゴメンねクーちゃん、顔よく洗ってね。

 私は頭から冷たい水を浴びて頭と体を冷やす。

 うぅ、流石に今の季節は冷たいよぉ。


「……というわけで、クーちゃんにも話を聞いてもらった方がいいと思って起こしたの。ゴメンね、眠いでしょ?」

「ううん、嬉しい。起こしてくれてありがとうね、ミカ姉。」

 そう言ってにっこりと笑うクーちゃんはやっぱり天使だと思うの。

「でも、話は分かったけど……。」

「クミンさん、何か気にかかる事でも?」

 クーちゃんが浮かない顔で呟くのをマリアちゃんが問いかける。

「ウン、今回はその悪い人をやっつければいいとしても。将来的に同じ様な事が起きる可能性はあるんだよね?」

「まぁね、孤児院が領主様からの支援金でやりくりしている限りは、領主様の気分次第ってところだね。」

 クーちゃんの問いかけにミュウが答える。

「なんとかならないのかなぁ。」 

 クーちゃんはそう呟いた。

 気持ちはわかるんだよね、要は孤児院が自立して生活費が稼げればいいって事なんだけど、中々難しいよね。


「何とか出来ればいいのですが……。」

 マリアちゃんも考え込むように俯いてしまった。

 う~ん、こう言う落ち込んだ空気は良くないよ、こういう時はリラックスできるハーブティーを……。

 私は新しくハーブティを入れようとして、ある考えを思いつく。

「あ、ひょっとしたら……でも……こうすれば……。」

「ミカ姉、いい方法があるの!?」

 クーちゃんが私に飛びついてくる。

「う~ん、うまくいくかどうかわからないけど、クーちゃんのために頑張ってみるよ。」

「ウン、ミカ姉お願い!」

 クーちゃんが私に抱き着く……ウン、コレだけで私は頑張れる!

「お姉ちゃんに、任せなさいっ!」



 ミュウの報告とこれからの動きをお互いに確認した後、ミュウは一眠りしてくると言って寝室へ行ってしまった。

「では、ミカゲさん、私も出かけてまいりますね。」

「ウン、気を付けてね。危ないと思ったらすぐ逃げて来るんだよ。」

「大丈夫ですわ。私にはミカゲさんから貰ったこの御守りがありますから。」

 そう言って胸元のペンダントを私に見せる。

 中央に嵌め込まれている魔石が太陽の光を反射してきらりと光る。

 あの魔石には破魔と防護の魔法陣が刻み込まれているので、マリアちゃん自身の魔法と組み合わせれば、かなり強力な防護結界が晴れると思うけど……。

「あんまり過信しないでね、危なくなったら本当に逃げるんだよ。」

「はい、分かってますわ。では行ってまいります。」

 マリアちゃんはにこやかな微笑みを残すと街へ出かけていく。

 ここから街までは馬車を使えばすぐだが、歩くと1時間ちょっとかかる。

 今から出ると、街に着くころにはちょうど朝一の賑わいを見せている頃だろう。


「じゃぁ、クーちゃんの準備が出来たら私達も行くよ。」

「ウン、すぐ準備してくる。」

 そう言うとクーちゃんは急いで家の中へ駈け込んでいく。

 私はその間に出来る事をしておく。

「アイちゃん、工房生産お願い。」

『アイ、マム。メニューをどうぞ。』

 目の前に現れたホログラムの様なモニターとコンソール。

 だいぶ慣れたけど、これだけ見たらファンタジーじゃなくてSFの世界だよね、ホント古代文明って滅茶苦茶よね。

 私はモニターを一瞥して目当てのモノを見つけると、コンソールを使って命令を打ち込んでいく。


「これでお願いね。出来上がったらここに積み上げておいて。」

『イエス、マム。それから、試作ナンバー0032Fの試作品が出来上がっています。ご覧になりますか?』

「0032……って、えっ、出来たの!?すぐ見せて!」

『イエス、マム。』

 突然、目の前の空間が歪んだかと思うと、突然革袋が現れ、目の前にポトリと落ちる。

 私はそれを拾い上げ、いくつかモノを入れたり出したりして性能を確認する。

『現状、使用魔石の関係で……。』

 アイちゃんが、試作品についての説明を語り出し、私をそれを受けて試作品の増産とさらなる改良を指示する。

 私が指示を終えたのはちょうどクーちゃんが家から出て来た時だった。


「ミカ姉お待たせ~。ん、それなあに?」

 冒険用の装備に着替えたクーちゃんが、私の持っている革袋に視線を向けて訊ねてくる。

「ウン、ずっと前からアイちゃんに作らせていたものが出来上がったの。まだ試作品だけどクーちゃんにあげるね。」

「これって、ミカ姉のと同じ……。」

 革袋を受け取ったゥーちゃんは、それがなんであるかに思い当たり絶句する。

「そう、『勇者の袋』のレプリカよ。とはいっても全く同じってわけじゃないんだけどね。」


 ターミナルで色々なものを製作できると知った時に、ミュウが私の持つ勇者の袋と同じものが出来ないかと言ったのがきっかけだった。

 ミュウは獲物を狩るとき、自分で持ち帰れる分しか狩らない。

 しかし食い扶持が増えた今は1回の狩だけでは足りないため、何度かに分けて狩りをしている。

 だから、一度に獲物をたくさん運べる私の袋と同じようなものが欲しかったらしい。 

 流石に伝説のアイテムは制作できないだろうと思いつつアイちゃんに訊ねたところ、勇者の袋は古代文明の遺産だったらしく、製作は可能との事だった。

 しかし長い年月が過ぎ、その制作方法や必要素材について情報が抜けている部分が多く、製作に時間がかかると言われていたのが、今日ようやく試作品が出来たのだ。


 アイちゃんが言うには、一番苦労したのが「使用者の魔力を必要としない」という点だったらしい。

 勇者の袋は出し入れ及び保存に魔力が必要になるけど、魔力を扱えないミュウでも使えないと意味がないからね、そこは譲れない線だったのよ。

 結局試行錯誤の末に、素材を魔力を帯びたものにして、常に外部から魔力を自然吸収することで保存時の魔力を補い、出し入れ時には魔力が籠った魔石を使用することで問題を解決したんだけど、袋に入れる事の出来る最大容量は約馬車3台分であり、制作にかかる希少素材などの価値から算出すると、割に合わないとアイちゃんは言っていた。

 まぁ、取りあえず出来ればいいのよ、素材に関してはまた手に入れればいいんだしね。


「こんな高価なもの私がもらっていいのかなぁ。」

「ミュウとマリアちゃんの分も今作っているから気にしないで。それがあれば森での採集も楽になるでしょ。」

「ウン、ありがとうお姉ちゃん。」

 ニッコリと極上の笑顔を向けるクーちゃんを私は抱きしめる。

 はい「お姉ちゃん」頂きました~!

 もうね、この可愛い子の為ならなんだってやっちゃうよ。

「ミカ姉、苦しいよ。それに早く出かけ無いと遅くなっちゃうよ。」

「そうだね、仕方がないから行こうか。」

 私の腕の中でジタバタするクーちゃんを放して、私とクーちゃんは森の奥へと向かう。


 目的のものが見つかるといいけどね。


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