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冒険者ギルドの噂話

 カランカラーン……。

 聞き慣れたベルの音が響く中、私たちはギルドに足を踏み入れる。

 併設された酒場にいる客が値踏みするようにこちらを見てくる……これも今では見慣れた光景。

 最初の頃は怖くて仕方が無かったんだけどね。


「この雰囲気は中々慣れませんわ。」

 口調とはうらはらに、ニコニコとした笑顔でそう言っているのはマリアちゃん。

 先に街に来ていた彼女とは、近くの市場で合流した。

 ギルド内で待ち合わせでもいいよって彼女は言ったんだけど……。


 マリアちゃんの姿は誰がどう見てもシスターそのもの。

 冒険者ギルドにいる聖職者と言えば回復魔法の使い手に違いないわけで、そして回復魔法の使い手と言うのは非常に数が少ない。

 なので、稀少な回復魔法の使い手、しかも美少女とくれば、パーティに勧誘したいという冒険者は後を絶たないのよ。


 実際に、以前マリアちゃんを巡っての大規模な諍いが起きたこともあって……まぁ、彼女はそれをニコニコと眺めていただけで……。

 小悪魔と言うのは彼女のような娘を指すのにピッタリだと思うのよ……聖職者のくせに小悪魔ってどうかと思うけどね。


「ミカ姉、魔法使っちゃダメだよ。」

 周りの雰囲気にあてられてか、クーちゃんがそう言ってくる。

 それくらい分かってるのに、そんなに信用無いのかな。

「大丈夫よ、あの人達は一般人、絡んでこない限りは何もしないわ。」

「絡んで来たからってすぐに吹き飛ばすのは、やり過ぎなんだよ。」

「ん?でもこんな場所で絡んで来るのは、ただのバカか悪意を持っている奴だから遠慮はいらないってミュウが言ってたし。」

「ミュウお姉ちゃん……。」

 私の言葉を聞いて、責めるような目でミュウを見るクーちゃん。


「いや……ほら、自衛の為に先手必勝は当たり前なのよ。」

 ミュウがクーちゃんに必死になって言い訳をしている。

 何だかんだ言っても、ミュウもクーちゃんには弱いのよね。

「でも、いきなり吹き飛ばさなくても……話くらいは聞いてあげてもいいんじゃない?」

 私達の会話を聞いていた酒場の皆さんがクーちゃんの言葉に一斉に頷く。


「普通に話し掛けてくればね。流石にミカゲも最近では、ただ話しかけてきただけなら出会い頭に吹き飛ばすことはしないし。」

 そうそう、私だって成長してるのよ。

「だから吹き飛ばされても仕方が無いような態度で絡んでくる方が悪いのよ。」

 ミュウの言葉に数人の客が首を振り、多数の客は視線を逸らしていた。


「それでも、出来るだけ騒ぎは起こして欲しくないんですけどね。」

 苦笑しながらそう言ってきたのはギルドの受付のお姉さん。

 名前はメルシィさん……今では私たちの専任担当になっているらしい。

「急に呼び出してごめんなさいね。」

「大丈夫ですよ。メルシィさんにはお世話になってるし、面倒なお願い以外なら問題ないです。」

 私がそういうとメルシィさんの顔が少しひきつる……。

 あ、これは面倒な奴だ、メルシィさんのその表情を見て私は瞬時に理解してしまった。


「取りあえず、先に依頼の完了報告からでいい?」

 ミュウがそう言いながら魔獣の討伐部位をカウンターに並べていく。

 メルシィさんの依頼を断った後じゃ、報告しづらいもんね。


「あ、はい。……えっと、ミュウさんの依頼は魔獣の討伐……ロケットウルフ30頭にハニーベア3頭ですね。……はい、確かに。」

 メルシィさんがミュウの確認をしている間に、クーちゃんが自分が採集してきたものを並べていく。


「クミンさんは採集依頼でしたね。薬草と解痺草に毒草3種、そしてレチゴの希少種……はい大丈夫ですね。……後、ミカゲさんは……。」

 メルシィさんが何か言いたそうにこっちを見る。

 あ、忘れてた。


「用意してあるよ。リゾットとスープ、シリアルバー各1000個だったよね。」

 私は袋からフリーズドライした保存食を取り出して並べる。

 数が数だけにカウンターには収まりきらず、急遽用意されたサイドテーブルを使う。


 この依頼は元々はメルシィさんたってのお願いで、私の保存食の製法を売って欲しいと言うことだったけど、この世界ではフリーズドライをイメージすることが出来る人が居ないらしく、魔法を成功させることが出来なかったため、代わりに出来上がった現物を納品することになったものだった。


 因みにシリアルバーはミュウの希望を取り入れて干し肉も混ぜてあり、結果としてシリアルバーと言うよりビーフジャーキーに近くなちゃったけど、冒険者には意外と好評なんだって。


 三千食分で金貨3枚……それなりにいい稼ぎだけど、1種類千食分作るのはかなり大変だったのでもう引き受けるつもりは無いけどね。



 メルシィさんの手続きが済むまで少し時間があるので、何となく周りの様子を伺う。

 ヤッパリ私達は目立つみたいで、あっちこっちで話題にされているみたい。


「なぁなぁ、あの子たちすごく可愛くねぇ?バーティに入ってくれないかな?」

「おい、やめとけって。あれはあの(・・)バニッシャーだぞ。」

「あの子たちが?マジかよ、あんなに可愛いのに。」

「昔から言うだろ。美しい花には棘がある、ってな。」

「なぁ、バニッシャーって何だ?」

「知らないのか?」

「あぁ、最近この街に来たばかりでな。」

「そうか、じゃぁ仕方がないな。……実は彼女達の依頼達成率は70%なんだ。」

「それがどうかしたのか?確かに新人にしては高い数値かも知れないがそれぐらいなら大したことないだろ?」

「数値だけならな……残りの30%については成果を確認できない(・・・・・・・・・)ため達成扱いになってないんだよ。」

「どういうことだ?」

「言葉のままさ。魔獣の討伐なら、討伐部位を含めて魔獣や住処毎消え去っている、盗賊討伐ではアジトそのものが綺麗サッパリと消え失せる、噂では彼女達が向かった森が一夜にして荒野になったとか言うのもある。」

「マジかよ……。」

「そして、このギルドで彼女たちに絡んだ奴は、いつの間にか姿を見なくなる……登録さえも抹消されてな。」

「……。」

「このギルドではお前さんのような新参者に贈る言葉がある……『バニッシャーを愛でるのはいいが決して手を出すな……冒険者を続けたいなら。』ってな。」

「あぁ……肝に銘じておくよ。教えてくれてありがとうな。」



「ミカ姉、どうかした?」

 聞くともなしに聞こえてきた、私たちの噂話の内容に呆然としていると、クーちゃんが話しかけてくる。

「うん……ちょっと変な噂が聞こえたから……。」

「変ってどんな?」

「私達がバニッシャーとかって呼ばれてるとか何とか……。」

 私の言葉を聞いた途端、クーちゃんが顔を背ける。

「クーちゃん、何か知ってる?」

「あ、ほらメルシィさんが呼んでるよ。」

 あからさまに誤魔化すクーちゃん。

 なに、その態度めちゃ気になるんですけど。

「いいから、いいから、早くいこ。」

 クーちゃんに促されるまま、奥に用意された部屋へ移動する。


「ミカゲさん、どうなされたのですか?」

 落ち込んでいる私を見て、マリアちゃんが聞いてくる。

「その……パーティの噂話を聞いたらしくて……。」

 何も答えない私に代わってクーちゃんが答えてくれる。

「あぁ、あれね。バカにしてるわよね。」

 苦笑いしながらミュウが言う。

「……ミュウは知ってたの?」

「バニッシャーって奴だろ?何もしらないバカが言ってるだけだから気にしない方がいいわよ。」

「……ウン。」

 ミュウの慰めるような声と心遣いに、私の気分は少し上昇する。

「大体さ、バニッシャーって何なのよ、アレやったの全部ミカゲなのに、パーティ全体がそうだって言うのはおかしいでしょ!」

「ミュウお姉ちゃん!」

「あっ……。」

 ミュウが慌てて口を押さえるがもう遅い……。


「ふふっ、そうなんだぁ……。私が悪いんだぁ……。」

 浮上しかけていた気分が一気にどん底まで落ち込む。

「おうち帰るぅ……。」

 私は半べそになりながら部屋を出ようとするが、ミュウやクーちゃんに止められる。

 ちなみにマリアちゃんはニコニコして眺めているだけだったりする。


「ミカゲは悪くないから、大丈夫だから、落ち着けって。」

「そうだよ、ミカ姉は格好良くって素敵なんだよ。」

 ミュウとクーちゃんが口々に宥めてくるけど……なんか私が拗ねているみたいじゃないの。

 ここは、私がしっかりした大人だってところを見せなきゃいけないよね。


「ぎゅっ……。」

「えっ?」

「ぎゅっ、してくれたら許す。」

「子供かっ!」

 ミュウが何か言ってるけど、私は構わずミュウを抱きしめる。

 不意をつかれたミュウが逃れようとするけど、もう遅い。

 ミュウの弱いところ知ってるもんね……こことか。

「ひゃんっ!」

 尻尾の付け根あたりを、ツーっと逆撫ですると、強ばっていたミュウの身体から力が抜ける。

「ぎゅぅ~。」

 私はそのままミュウを抱きしめる。

 ウン、柔らかくて心地居いなぁ。

 胸元のボリュームは……ブーメランになるから触れないでおこう。


「あのぉ、そろそろお話よろしいでしょうか?」

 いつの間にか部屋に入ってきたメルシィさんが、恐る恐る訊ねてくるけど無視。

 今の私はミュウの身体を堪能するのに忙しいのよ。

「ちょっと待って……って言うか見てないで助けなさいよ!……ひゃんっ、そこダメェ。」

 軽く耳を噛むとミュウの甘い声が聞こえる……可愛いなぁ。

「そうは申されましても……。」

 困った顔で答えるメルシィさん。

「大体、ギルドの情報統制が甘いから……って、そこイヤぁ……。」

「噂話にまでは関与できませんよ。」

 メルシィさんがさらに困った顔になる……噂話って何のことだろうね?


「……もうダメ……クー、助けて……。」

 ミュウの助けを求める声を聞いて、クーちゃんが意を決したような顔で近づいてくる。

「ミュウお姉ちゃん、貸しだからね。」

「わかってる……だから早く……。」

「仕方が無いなぁ………、ミカゲお姉ちゃん、抱っこ……して?」

 えっ?今、クーちゃんがお姉ちゃんって呼んだ?抱っこしてって言った?

 私はミュウを離すとクーちゃんを見つめる。

「お姉ちゃん、こっち。」

 私はクーちゃんに、誘われるままにテーブルの方へ移動して椅子に座ると、クーちゃんが膝の上に乗ってくる。

「お姉ちゃん、ぎゅってして?」

 くぅ~~、何この可愛い生き物は。

 私は背後から抱きしめる様にクーちゃんをギュっとする。

 クーちゃんの大きさって、抱っこするのにちょうどいいのよねぇ……あぁ、この抱き心地……そして何より、デレたクーちゃん……最高ね。


「今のうちに話を進めましょ……恥ずかしながら、ウチのリーダーが今あんなんだから手身近にお願いね。」

 ミュウはそう言って、メルシィさんと……その後ろに控えている3人の男女に声をかけた。


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